Special 「 シリーズ恋文 vol.11 」田中要次インタビュー

大切な誰かに宛てた恋文を、 俳優の朗読とピアノの生演奏で贈るアーラ・オリジナル企画。 今年は、 瀬戸山美咲さんが構成・演出を担当し、 田中要次さんと高橋由美子さんが、 心を込めて手紙の言葉を届けます。

これまでに10回の公演を行い、毎回好評を博しているアーラ・オリジナル企画の朗読劇 『シリーズ恋文』。秋田県二ツ井町(現・能代市二ツ井町)で開催されていた「日本一心のこもった恋文」 コンテストの受賞作を集めた書籍から、いくつかの手紙を選択して台本を構成し、二人の俳優の語りで綴る舞台です。11回目となる今回、田中要次さんは高橋由美子さんと息を合わせ、ピアノの生演奏とともに新たな 『シリーズ恋文』 の世界を構築されますが、まずは今回のお話を受けて感じたこと、また朗読劇についての思いを聞かせてください。

田中 まず思ったのは、え、僕に朗読させるのか!?と(笑)。以前、 《木曽のストラディヴァリウス》 と呼ばれる木曽で作ったヴァイオリンの演奏をバックに、僕が島崎藤村の 『夜明け前』の冒頭を朗読する企画があったんです。もう、初っ端で噛みましたからね(笑)。それで演奏し直しになったという怖い思い出が…。そんな経歴の僕にどうして!?それも一つの手紙だけじゃない、いろんな方の手紙を…。噛みっぱなしになったらどうしよう~と、ドキドキしています。うまくやれたら自信につながると思いますけど、ボロボロだったら、もう舞台には上がれません! と言い出すかもしれません(笑)。

ハードボイルドなイメージの田中さんから、思わぬ弱気な発言が(笑)。大丈夫です! 今回の構成・演出を手掛ける瀬戸山美咲さんが、「ぜひ田中要次さんにお願いしたい」 と強くリクエストされたそうですよ。

田中 本当ですか!? それは、瀬戸山さんに 《見えない恋文》 をいただいたと思っていいのでしょうか…思い過ごしじゃないといいなぁ(笑)。参考に過去の 『シリーズ恋文』 の台本を読ませていただいたんですが、手紙の一つ一つが、書かれた時代も違えば書いた方の年齢もバラバラで、ある意味、一人で何役もやらなきゃいけないということですよね。朗読とはいえハードルが高い。一番びっくりしたのは、僕の知らない日本語がこんなにあるんだ!…と。戦時中に書かれた手紙などを読んで、そんなふうに感じました。戦争に行く前に書いたとすると、きっとお若い方だと思うんですよ。昔の人は日本語が堪能だったんだな、今は使わなくなった日本語っていっぱいあるんだな…といった発見がありましたね。

田中さんご自身が恋文を書いたり、受け取ったり…といった思い出を教えていただけますか?

田中 やっぱり十代、二十代の時の思い出はありますよね。自分の書いた文字が気に入らなくて、何回も書き直したり(笑)。僕はそれこそ便箋、封筒の選択も悩みました。たぶん、そういう 《飾り》 に頼らないと相手の心に伝わらないんじゃないか、という怖さがあったんでしょうね。中身をどう書くかが一番大事なのに(笑)。どんなことを書いたか、もう思い出せないけれど、こっぱずかしい内容だったんじゃないですかね。あと、思い過ごしの手紙もありました。可愛いなと思っていた子が手紙をくれて、「私、田中さんの事、好きです」って書いてあったから、やった〜!って舞い上がって、友達にも自慢して。でも彼女の態度がどうもヘンなんですよ。おかしいなと思って手紙をよく見てみたら、「田中さんの事」 じゃなくて、「田中さんの声」 だったんです。それで恥をかいたことがありました(笑)。

《声》 でも十分に脈ありだったのでは!?意外に…と言ったら失礼ですが(笑)、繊細で微笑ましいお話を伺って、田中さんのまた違った一面を見せていただいたように感じました。朗読劇への期待が高まります。

田中 いや、僕は本当に、俳優という仕事を選択したのは間違いだったんじゃないか、何でいつも緊張と戦っていなくちゃいけないんだろうと思っているんですよ。とくに演劇の緊張感は、自分自身と役柄とのあいだに距離があって、その人格と一つになれていないから緊張するのかもしれないな…なんて考えてしまって。自分に納得出来なかったり、迷ったり、いまだに 《舞台を楽しむ》 という域に行けないままでいます。いつか、「毎日ステージに立つのが楽しい」 と言えたらいいなと思っているんですけどね。

過去には蜷川幸雄さんの演出舞台(『十二人の怒れる男』 2009年上演)も経験されていますね。

田中 はい、遅くにこの世界に入ったから、蜷川さんなんて絶対に縁がないと思っていたのに、蜷川組に呼ばれて。きっと最初に俺に灰皿が飛んでくるだろうなと思っていたんですよ(笑)。でもその時、僕に自信を授けてくださったのは蜷川さんでした。「君は芝居がすごく柔らかくて、いいねぇ」って言っていただいて。蜷川さんの舞台は熱い芝居をしなきゃいけない、みたいな勝手なイメージを持っていたけれど、蜷川さんが求めていたものは違ったのかなと。ある意味、蜷川さんに認めてもらえたことで救われましたね。僕は僕のままで良かったんだ、と。

素敵なお話をありがとうございます。表現に対して誠実に葛藤している田中さんが、恋文に込められたさまざまな人の思いをどう表わすのか、ますます楽しみになってきました。

田中 僕自身も楽しくやれたらいいなと思っています。とにかく高橋由美子さんに迷惑をかけないように、頑張らなきゃいけませんよね。お客様には、「誰かに宛てた恋心を、役者の声で聴くのもなかなかいいものですよ」 とお伝えしておきます(笑)。これから誰かに思いを伝えようとしている人、昔のことを思い出している人…、そうしたいろんな方々の心に寄り添える舞台になるよう頑張りたいと思います。

取材/上野紀子 撮影/三友鉄也 協力/フリーペーパーMEG

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