Special 文学座公演「五十四の瞳」松本祐子&川合耀祐インタビュー

日本人と在日コリアンの物語を多文化共生の街・可児市で上演する喜び

数々の演劇賞に輝いた文学座公演『五十四の瞳』がアーラにお目見えします。可児市出身の川合耀祐さんもキャストのひとりとして凱旋。演出を手がける松本祐子さんとともに、作品の魅力を語ってくれました

-『五十四の瞳』は2020年に東京で初演された作品です。再び臨むことになったお気持ちから聞かせてください。

松本 初演はとてもいい反響をいただいたんです。作品が芸術祭賞優秀賞を獲り、個人でも松岡依都美さんが紀伊國屋演劇賞個人賞を、私自身も芸術選奨文部科学大臣賞をいただいて、これは再演すべき作品だという確信を得ていました。再演というのは作品がぐんと成長するものですし、より豊かになった作品を観ていただける機会ができたことをとても嬉しく思っています。

川合 これは自分の中でも大きい作品だったので、またできるのは嬉しいですね。前回の公演は本当にいろんなことを学べた現場でした。(文学座付属演劇研究所)研究生から準座員に上がって1年目の秋にこの作品で初めて本公演に出演することになって、それこそ(松本)祐子さんからいろいろ言われたんです。

松本 関西が舞台の物語で在日コリアンの役ですから、セリフは関西弁で韓国語も少ししゃべらなくてはいけない。殺陣もある。とにかくやらなければいけないことがたくさんあったんです。だからもう、私や大ベテランのたかお鷹さんが「このセリフを言いながらこう動く!」とかいろいろ言っていて。本当に大変だったと思うんですけど、よっちゃん(川合)は、へこまずにやり続けていましたね。

川合 祐子さんは熱を持って演出して、求めるものをはっきり提示してくださる方なので、「よしやったるぞ!」という気持ちになるんです。できないところも、言われたことを論理的に整理しながらできるようにしていきましたし。結果楽しかったので、すべて「楽しかった」に上書きされました。

松本 よっちゃんはポジティブな人なんです。私が疲れていると気づいて声をかけてくれたりするんです。だから、人を見る目がやさしい。この作品で演じるのが友だち思いのホン・チャンスという役なのも、とても合っていると思います。

-鄭義信さんが書かれたこの戯曲にはどんな魅力があって、改めてどう届けたいと思われていますか。

松本 私の演出第1作が『冬のひまわり』(1999)という義信さんの書き下ろしで、それ以降も演出させていただいているんですけど、在日コリアンの民族的な問題がそのまま反映された戯曲を手渡されたのはこれが初めてでした。それだけに、託していただいた嬉しさと同時に大きな責任も感じたんです。登場人物たちにはつらいことがいっぱい起きます。でも、それでも希望は消さないんだという義信さんの思いが込められている。それを楽しく切なくお届けできる作品だと思うので、そこはより深めていきたいなと思います。

川合 この戯曲は、日本人と在日朝鮮人の子どもたちが、当たり前のように一緒に仲良くしている姿が描かれていて、そこがいいなと思うんです。外で起きるいろいろな問題に巻き込まれてはいくんですけど、そこも説教がましくなくて。初演はただ一生懸命でしたけど、最近改めていいなと思っています。

松本 俳優さんからすると相当心を動かさなければいけない作品ではあるんです。コテコテの笑いも、人の死など直面したくないものを見て心が痛むことも、短い時間の中でどんどん出していかなければならないから、過酷だなと思うんですけど。

川合 確かに感情は大変でした。ただ、初演のあと祖父が亡くなって身近な人の死というのも実感したので、そういう自分の人生の経験が、注ぎ込めるかなとは思います。

松本 それから、 多文化共生 という意味では、よっちゃんが育ったこの可児市は外国籍の方が多い地域なので、この物語に近いんですよね。よっちゃんの小中学校もそうでした?

川合 はい。クラスに2〜3人いました。なるほど、それを共生っていうんですね。普通にナチュラルに一緒にいたから意識したことありませんでした。

松本 きっとそれがいいんですよね。今、コロナ禍の影響もあって、自分を守るために他者を阻害したくなる傾向が強くなっていると思うんです。でも、そこからは何も生まれない。やっぱり人と出会っていかないと世界は変わっていかないし、自分のためにもならないと思うので、この作品を観ていただいて、お互いの違いを認めながら他者と何かを共有する喜びを感じていただきたいと願っています。

-川合さんはアーラが企画している市民ミュージカルなどで演劇を経験して俳優の道に進まれました。今回は、文学座座員となってから、初の故郷で見せる公演になりますね。アーラで上演する思いを聞かせてください。

川合 僕は小学校4年生のときに友だちに誘われて市民ミュージカルに参加して、アーラユースシアターに出たり、高校を卒業するまで可児で舞台に立っていました。そこから、劇団道学先生のワークショップに1年間通ったあと文学座に入り、芝居の勉強をして、少しは成長したと思うので。小学生のときから僕を見てくださっていた方々に、「頑張ってます!」とお伝えしたいです。

松本 よっちゃんは本当に頑張っています。私の演出作品で急遽主要な役をやってもらったことがあるのですが、しなやかに演じきっていました。なかなかできないことです。さらに経験が増えていくと、ほかにいないタイプの面白い俳優さんになるんじゃないかなと大いに期待しています。

川合 ありがとうございます!

取材/大内弓子 撮影/中野建太 協力/フリーペーパーMEG

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