第34回 事務局長のひとりごと(2)~視察の有料化を考察する~

2013年5月12日

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

今を遡ること20年以上前、岐阜県では平成2年から「花の都ぎふ」運動を推進しており、この運動の5周年を記念して平成7年に市内の県営可児公園で”花フェスタ'95ぎふ”が開催されました。このイベントは従来のものとは違い、テーマは生命・美の象徴である”花”に絞り、パビリオンは最小限に留めています。したがって来場者が多くなってもパビリオンへ入るのに列に並んで時間を費やすといったことは少なく、会場内全てが展示場ということで大変好評を頂きました。会場内外の花かざりを徹底的に実施し、品種では1,250種類という日本一のバラ園が整備されることとなります。
この敷地内には皇太子のご成婚を記念して造られたイベントホール「プリンセスホール雅(みやび)」と名付けられた施設があり、会期中には皇太子ご夫妻にご来場頂くことが実現しました。当日可児駅前からの沿道は、歓迎する市民の人波と歓声であふれかえりました。その当時の写真を見ると普段我々が利用する駅に確かにご夫妻が降り立たれており、20年近く経った今では何か夢のような感じがしています。

この他にもいろいろ話題を呼び、入場者は当初目標の50万人をはるかに上回り、最終的には191万人余の方に来場いただきました。当初の入場者設定方法の可否は別としても、県民総参加を基本とした岐阜県方式の博覧会が”ぎふ中部未来博覧会”に引き続き成功を納めたことになります。それと同時に、開催地である本市の知名度が広範囲に知れ渡ることとなりました。
会期は、ゴールデンウィークに楽しんでいただけるように設定してありましたが、それを過ぎてからも来場者は落ち着くどころか逆に日に日に増え、閉幕間際の5月末の土曜日には9万9千人という入場者を記録することとなります。この数は当時の市の総人口をはるかに超えるもので、さすがにこの日は市内の幹線道路が車で渋滞どころか、それを通り越して止まってしまいました。会場から最寄りの高速道路まではもちろん、名古屋方面からのインターチェンジは2つ3つ先まで本線が渋滞するという事態に陥ったのです。先程このイベントの特徴として、花をテーマとしているので、多少混雑しても会場内を散策すること自体を楽しんで頂ける旨を述べましたが、しかしこれも程度問題で、ある限度を超えると会場内の”人口密度”が多くなりすぎ、快適さを通り越してしまうことも同時に学びました。

このイベントは本市のまちづくりや人づくりのために、大きな影響があったものと確信しています。会場はその翌年再整備され、名称を「花フェスタ記念公園」と改めて再オープンしバラの時期を中心に人々の目を楽しませています。
今年も5月下旬から6月上旬にかけて一年で最も多くのバラが咲く見頃の時期を迎えます。整備当時1,250あったバラの品種は今では7,000品種、30,000株まで増え、華やかな色のバラが公園内を彩ります。
文化の薫り高い活力のある都市の形成をめざす本市にとっては、この公園を活用しながら花を通して市民相互のふれあいを深めていくことは意義深いものがあります。”可児ブランド”の展開にはアーラも勿論ですが、この「花フェスタ記念公園」も市が力を入れている地域資源のひとつです。

“花フェスタ'95ぎふ”には当時担当業務として携わった思い入れもあることから、少し前置きが長くなってしまいましたが、今回は「視察」についてその現状や有料化の検討について一考します。
“ネット社会”の進展により情報の開示が進み、見方を変えれば情報の入手が容易な時代となっています。このアーラについても個別の公演情報を始め、運営方針や事業展開方法を積極的に外へ発信していますので、市内外の方が目に触れたり必要な情報を手に入れたりすることのハードルは大変低くなっています。昨年度は公式なものだけでも日本各地から43団体、343人の方が視察のために来館されました。よく”全国各地から”を表現する意図で”北は北海道から、南は九州・沖縄まで~”という言い方をしますが、昨年度1年間をみただけでも本当にその通りの現象が起きています。ホームページ等でまずは関心・興味を持っていただいて、その次の段階として「館長の話を直接聞きたい、施設をこの目で見てみたい」となってくるようです。
視察目的の傾向としましては、開館当初の頃は施設自体を中心としたものでしたが、最近では施設の運営へとシフトしており、アーラが行っている自主事業「まち元気プロジェクト」などについては、先進的な事例として今後も注目を集めると思われます。また市の支援体制、具体的には市職員の派遣状況や財政支援について、指定管理の状況や市民参加の関わり方、チケットシステム等々・・・来館の目的は必ずしも同一ではなく、質問事項はそれぞれの団体・個人によって様々なものとなっています。

一方で、視察対応のための職員の負担や、視察用の資料代等の経費も積み上げてみるとまとまったものとなってきます。視察に関しては平均して1件あたり2~3時間をかけて、概要や事前にお知らせいただいた疑問点にお答えします。来られる方は初めてですが、話す方は結果として同じ話を何度もすることになります。館長による運営方針の説明や、職員1~2名による施設案内を通常業務の間に行います。また事前の質問に対する資料作成も必要です。かといって視察を受け持つ専門職員はいませんので、勤務シフトを見ながら対応者を調整します。調整不可の場合は休日出勤で対応、運営方針についてはやはり視察目的の一番根幹となる部分ですので、来館された方に館長自らが直接お話しする方針を採っています。

こうなってくると「それだけ手間ヒマがかかるなら、有料化を検討したらどうか。」という意見まで出てきました。全国的にみると横浜市を始め視察の有料化を採用している事例が数件あります。いずれも視察対応やその準備には人件費等が発生していることや、先進的技術の公表に対する報償という捉え方、自治体同士といえども互いに切磋琢磨し高め合う関係とすることが望ましいとの考え方を基本としています。その形態も定められた料金を支払うものから、視察先自治体地内での宿泊や飲食を条件とするもの、資料の実費相当分を負担するもの等いろいろです。しかし先進自治体では導入後適用事例数が減少しており、抜本的見直しの時期にきているようにも見受けられます。

ここであらためて視察に係る経費を算定してみると一体いくらになるのでしょうか。準備時間に1人が1時間、当日2人が3時間対応すると仮定して計7時間分の人件費が必要です。その経費は1時間あたりの職員コスト4,170円×7時間=29,190円となります。(単価は市会議改善マニュアルの一般行政職の平均コストを引用)また資料代は施設パンフレット、ブロッシャー、まち元気プロジェクトの冊子等、全体の印刷費用から割り戻すと一式約300円×8人=2,400円(人数は視察1件あたりの平均人数)。合わせると1回の視察あたり31,590円のコストが係ることとなります。

コストがかかる反面、視察に対応するということは”アーラの広報活動”の一環ととらえることができます。視察のために来館された方達は地元へ戻られてから、行政の方なら首長や上司や同僚にアーラの活動を復命するでしょうし、議員の方なら議会の席上で「岐阜県の可児市という所では~」と紹介してくださることになるでしょう。このことはあまり表面上には出てきませんが、ここが私達の狙うところです。”経済波及効果”というには大袈裟ですが、こちらが出向いてもなかなかPR効果が期待できない場合も多いなか、劇場に居ながらにしてその効果が実現するのです。この数値化しにくい影響力が直接投資する経費を上回る価値があると判断しています。視察対応はアーラの考え方を外へ向けて広げる良い機会であるとともに、こちらも全国各地の状況を知る良い機会になっています。
また、可児市のイメージアップや財団職員のスキルアップに繋がることはもとより、注目される施設に勤務しているという職員の誇りを醸成するものでもあります。確かに視察のために2~3時間の拘束はありますが、総合的にみるとそれ以上の効果を生むという考え方です。

視察を有料化することは、目先のことだけを考えれば導入のメリットはあるでしょう。また、本当に視察を切望する団体や個人に絞ることが可能となるでしょう。
しかし何より「人間の家」として来館の敷居の低い施設運営をめざす館長の考えに沿うものではなく、視察者・見学者も含めて人々が集う施設であるためには常に門戸を開いていることが大切です。有料化を行った場合、その門戸を自ら閉ざす懸念が生じます。
現時点では視察を契機にして、草の根的ではありますがアーラの運営方針や事業の展開を全国に向けて発信できていると自負しています。この段階では有料化以外の方法で課題の解消を図るべきと考えます。視察資料については多く寄せられる質問の分析や配付資料の共有化等により更にパッケージ化を図ることや、今後は説明や資料提供等の情報発信だけでなく、相手方の情報もこちらへ提供いただくなど、各地域の実状を知る機会でもあることをさらに意識した対応を行うことで、現行より効率化を図りお互いにとってより意義のある視察にしていくことが可能となります。
いつの日かこの波及効果が回り回って、市民の耳に届くことが私達の目指すところです。市民の方が見知らぬ土地へ出掛け「岐阜県の可児市から来ました。」と挨拶した際、「可児市って精力的に活動している文化センターがある所ですよネ」なんて言われる日が近い将来に必ず来ると信じています。