第16回 改めて、「創客」について

2011年12月26日

可児市文化創造センターala 事務局長 篭橋義朗

昨夜(12月16日)開催した「森山威男×田中信正Duoスペシャルライブ」の興奮が冷めやらず、今朝アンケートの束を読んでさらにまた感動がよみがえっています。以前このエッセイの第9回で森山さんのことは書きましたが、これまで11年間の毎年9月の「森山威男JAZZNIGHT」開催は我々財団の思い入れもさることながら多くの市民や全国の森山威男ファンの各公演後の熱いメッセージに支えられていると言っても過言ではありません。このことは衛館長の言っている「創客」の意味をたくさん持っています。

創客とは顧客をいかに多く獲得するかであり、顧客とはお得意様でありリピーターであると思っています。リーピーターとは何回もアーラに足を運んでくださるお客様のことでありますから、その都度お客様に対して満足を提供し続けなければなりません。その結果としてアーラに対する信頼を得るという行動であると思います。「森山威男JAZZNIGHT」を例に挙げると、最初は森山威男カルテットとして可児市民にJAZZを提供するという発想から始まったわけですが、思った以上の反響(熱いアンケートメッセージ)があり次年度も企画を続けるようにしました。次年度はカルテットに加えて「山下洋輔トリオ」の復活となり次の年はニューヨークからサックス奏者(ジョージ・ガゾーン)を招聘して2days公演としました。その後カルテットがクウィンテットとなり、さらに毎年ビッグバンド化しています。もちろんこれは森山さんの発想とプロデュースですが森山さん自身が毎年進化し続けている証拠です。それにつられて我々財団も進化してきました。そのことが毎年「今年が一番良かった!」というアンケートの意見につながっているものだと思います。

アーラではこのほかにも「アーラコレクションシリーズ」としての演劇プロデュース公演や「恋文」としての朗読公演、文学座公演、新日フィル公演、ニューイヤーコンサート、落語などを継続開催しています。同じプロデューサー、同じ劇団、同じ楽団です。アーティスト等がどんどん進化していく様を定点観測できる楽しみがあります。お客さまもそれを楽しんでくれているのだと思います。したがって鑑賞事業のメニューの検討は限定的となりゼロベースで考える必要があまりたくさんありません。

ただしアーラの事業にもポップスコンサートを中心とするいわゆる買い公演もあります。もちろん市民要望の高い事業ですし、アーラに来たことのない市民にアーラを見て今後の顧客になってもらう機会として一生懸命になるのは言うまでもありませんが、これらの事業は劇場で働く者にとっては創造する意欲や進化する意欲が減退しかねない業務であります。なぜならどんな人気アーティストのコンサートを自主事業として買ってもそれはすでに創造された商品であり、その作品はプロモーターのものでしかなく、公演当日はその公演環境を整えるお手伝いをするだけで、決してアーラのものではないからです。我々が主体性を発揮する場面はありません。そしてさらにチケット販売においても常にゼロからのスタートとなります。チケットを購入されたお客様はそのアーティスト・出演者のお客様であり、アーティスト・出演者が変わればチケット販売戦略も再構築しなければなりません。それではいつまでたっても同じことの繰り返しです。繰り返しそのようなことをしていると徒労感を感じずにはいられません。少しでも蓄積をして、チケット販売の労力を軽減していきたいと思っています。究極的にはアーラの主催事業を発表すればお客様が選択して、黙ってても売れるようになることが目標です。それが顧客創造でありブランド化であると思います。

アーラは多目的ホールですので自主鑑賞事業もあらゆるジャンルの舞台芸術を開催します。そして私たちはお客様の属性に対してクラシック、演劇、ダンス、伝統芸能等々で区別することはしていません。「人間の家」を目指すことは多様な面を受け入れ、認めることだと思います。実際にアーラのヘビーユーザーのチケット購入行動を見ていますともともとクラシックに造詣の深いお客様が今では落語や演劇も鑑賞していますし、歌舞伎が大好きなお客さまがなぜか森山威男JAZZNIGHTに毎年お越しになられます。当の森山さんでも落語公演に来ていただいています。素敵なことだと思います。こうして見ているとレストランでランチだけする市民も、今は受験勉強でロビーに来ている高校生も「いずれは劇場で公演を鑑賞するお客様にする。」という考えがあれば対応の仕方、視線も自ずとホスピタリティに溢れてくると思います。

限られた予算の中で限られた有名アーティストを次から次と招聘して、毎回満席にすることはできませんし、また公立文化施設として可児市の文化振興施策やまちづくりを担うアーラとしてするべきとも思いません。わしたちはジャンルを問わず多様で良質な体験を提供して人々が心豊かな市民生活を送れるようにしなければなりません。誰もが望むことをスマートに行いたい。自身のアイデンティティーの中にアーラが存在し「アーラ大好き!」という人々が多く出現するようになったらいいな、と思います。

今回のライブのアンケートのほんの一部を紹介します。「森山さんのライブは毎年楽しみにしています。今回は思いがけずDuoライブを見ることができ、とてもうれしいです。少しずつ形を変えて森山さんのライブを年に何回も企画してください。」(市内、38歳、女性)、「森山氏のパワーを受け、来年のJAZZコンサートまで元気に過ごせます。」(市内、65歳、男性)、「初めて2Fで観ましたが、奏者の手元がよく見えてよかったです。新しいアーラの楽しみ方ができました。」(市内、56歳、女性)、「アーラの文化活動は素晴らしいと思います。」(市外、54歳、男性)、「クリスマスプレゼントいただきました。」(市内、62歳、女性)

毎回のご来場ありがとうございます。