第50回 ヨーロッパから視察団がやってくる。

2009年7月9日

可児市文化創造センター館長兼劇場総監督 衛 紀生

嬉しい知らせがありました。独立行政法人国際交流基金から、欧州評議会のインターカルチャル・シティ・プログラムに参加している12都市の市長や担当官で構成された視察団が、「多文化共生プロジェクト」を見にアーラに伺いたい、というオファーがあったのです。ついでにアーラのバックステージ・ツアーもしっかりやろうと思っています。

「多文化共生プロジェクト」のアーラ祭での作品上演は今年で二回目になります。10ヶ国およそ50人の可児在住外国人と日本人が参加しています。5月末から毎週末にワークショップと作品・舞台づくりをやってきました。今年は『危機一髪』というタイトルのパフォーマンスです。歌あり、踊りあり、即興芝居ありの楽しい舞台になりそうです。

私が、アーラに就任してすぐに「多文化共生プロジェクト」をやろうと思ったのは、実にシンプルな考え方からでした。たとえば米国の地域劇場は、人口のおよそ2%弱の観客からの入場料収入が事業収入としてあります。それが、だいたい全収入の60%前後で、残りのほとんどが寄付収入です。この寄付をするのが、その、人口の2%である劇場についている観客であることは言うまでもありません。ですから、人口のおよそ2%の市民に向けてサービスを提供できればよいということになります。

しかし、日本の公共文化施設はすべての住民からの税金を原資として運営されていますから、米国とは大きく違います。日本の公共文化施設は、すべての市民を視野に入れて事業やサービスを組み立てなければならない、と私は考えています。英国の地域劇場も、資金提供の仕組みは異なりますが、国営宝くじの資金によって支援を受けていますから、日本に近い考え方と言えます。したがって、税金を納めている可児に在住する外国人にも等しくサービスを提供すべき、というのが「多文化共生プロジェクト」の根幹の考え方です。むろんその事業を進めるプロセスで、結果として、可児市民と可児在住外国人とのあいだに多様なコミュニケーションが交わされて、彼のあいだに国籍や性差や世代を超えてコミュニティが形成されることは言うまでもありません。

欧州評議会の「インターカルチャル・シティ」は、「外国人住民をはじめとする都市住民の多様性を、脅威や解決すべき課題としてではなく寧ろ好機と捉え、都市の活力、革新、創造性、成長の源泉とする政策を掲げる都市を指す。ベースとなったのは、創造都市(Creative city)を提唱した英国のチャールズ・ランドリーなどが中心となって提唱した《インターカルチュラル・シティ》で、都市政策の新たな政策基準として注目されている」という解説が付いています。むろん、この解説に異を唱えるつもりはありませんが、繰り返しになりますが、私が「多文化共生プロジェクト」を始めた理由は、すべてのタックスペイアー(納税者)を視野に入れて事業やサービスを組み立てるべき、と考えたからです。あわせて、高齢者や障害者にとっても生きやすいまちづくりに寄与し、「可児の未来」である子どもたちへの社会的投資行動として、アーラが運営されるべきと考えています。ちょっと難しく言うと、ソーシャル・インクルージョン(社会的包括=すべての「違い」を排除する方向に向けるのではなく、社会全体で包み込むことで建設的な社会づくりをする)という社会福祉政策の理念が、アーラの「多文化共生プロジェクト」にはあるのです。もっと言えば、アーラの経営の根幹には、この「ソーシャル・インクルージョン」という政策理念があるのです。

アーラの小劇場で欧州評議会の視察団に『危機一髪』を観ていただいたあとに、プロジェクトの参加者と視察団の人々との意見交換をその場でやろうと計画しています。きっと実りある交流がなされると楽しみにしています。