振付・演出:近藤良平 インタビュー

アーラ毎年恒例の大型市民参加プロジェクト。今年は、可児交響楽団の生演奏に合わせて市民ダンサーが踊る『オーケストラで踊ろう!』。4回目となる壮大なプロジェクトを今回率いるのは、「コンドルズ」主宰の近藤良平さん。

近藤良平

近藤良平 振付家・ダンサー

ペルー、チリ、アルゼンチン育ち。
男性のみの学ランダンスカンパニー「コンドルズ」主宰。
NHK『サラリーマンNEO』内「テレビサラリーマン体操」、『からだであそぼ』内「こんどうさんちのたいそう」などに振付出演。TBS『情熱大陸』出演。映画『ヤッターマン』振付担当。愛犬家。立教大学などで非常勤講師も務める。第4回朝日舞台芸術賞寺山修司賞、第67回芸術選奨文部科学大臣賞、第67回横浜文化賞受賞。
アーラでは2009年、コンドルズの公演でステージに立ち、今回大型市民参加プロジェクト『オーケストラで踊ろう!』で振付・演出を務める。

近藤良平—今回の曲目は、ビゼー「アルルの女」とグリーグ「ペール・ギュント第一組曲」です。オーケストラの生演奏に合わせたダンスを構築していく上で、どんなイメージを抱いていらっしゃいますか?

近藤:「アルルの女」が全8曲、「ペール・ギュント第一組曲」は4曲という組曲ですよね。それぞれ曲調が異なるし、曲の長さもいろいろですが、それらをすべて身体で表現しなくてもいいと思っています。例えば、あるシーンは影絵だけでやるとか、あるシーンはほとんど踊らないとか…そういうことも試みようかなと考えているところです。どちらの曲も、自分の公演で使ったことがあるんです。小林十市さんに振り付けたこともありますよ。「アルルの女」から「ファランドール」を使って、超ボレロみたいなダンスを踊ってもらったことがあります。今回の公演で同じことをするつもりはありませんが、僕にとっても馴染みのある楽曲なので、面白くできそうだなと感じています。

—参加者は、小学4年生から75才まで。幅広い年齢層が50人集まった大所帯ですね。この豊富な素材をどのように生かしますか?

近藤:オーケストレーションの曲って、ものすごく壮大じゃないですか。壮大で圧倒的なものがあるから、オーケストラが勝っちゃうんですよ。プロフェッショナルなダンサーが5人ぐらい踊っても、何十人という演奏家がいるオーケストラの音には負けるんです。それに、オーケストラの西洋音楽的なまとまりというのは、すごくきっちりしています。楽譜に書かれたものをその通り再現する…そういう整理整頓されたところに飛び込むには、同じように整理されていなければならないと思います。でも人間の営みって、もっと自由で不規則なものでしょ? だからむしろ、いい加減で、でたらめな人間模様の方が合うんじゃないかと思うんです。だから、参加者の皆さんにはあまりうまくなって欲しくない。もちろん公演としての完成度は高いところをめざしますが、整理整頓する方向に持っていきたくないというか…。 僕自身、コンドルズの活動でもそうなんですが、不揃いなのが好きなんです。ピシッと揃う美学には、あまり魅力を感じないんです。しかも今回、オーケストラの生演奏ですから、指揮が始まったら止められないでしょ ? そこに50人が合わせていくんじゃなくて、バラつきも含めて「そのまま」というのが、いいと思います。そこに、プロじゃなく市民の方が踊る意味があるんじゃないでしょうか。

—振付やストーリーづくりに参加者の個性は反映されますか?

近藤:それはもう絶対に出ます。稽古を見ていると、はっきりわかりますよ。10代の若い人たちは、体は動くんだけどどこか恥ずかしさを伴っているし、40才以上になると恥ずかしさがなくなってくるみたい。そういう違いや個性は明らかに出ます。60才以上の方も、かなりパワーがあります。これ、可児市民の皆さんの特徴なんじゃない?(笑)面白いなと思って。それぞれの個性をベースに、日常の流れの中のシーンづくりに生かしていくかもしれませんね。

—3月の本番に向けて市民ダンサーは練習を重ねますが、どんなことを学んで欲しいですか?

近藤:ダンスの上達云々ではなくて、お互いに過ごす時間の中で刺激し合ったり尊敬し合うという経験を大切にして欲しいと思っています。例えば10代の若者が70才の人の動きや表現を見たら、どこかで「負けた」「頑張らなきゃ」という思いが沸き上がると思うんです。逆に、年配の方が若い人のダンスを見て「かなわない」と思うとか。普段、年長者というのは若者に対して教育的な立場で物を言いがちですが、舞台表現の場では同等ですからね。そういう場で、知らない人同士がお互いに認め合う時間を持つというのは、貴重な経験になると思います。世代を超えた人たちが、同等の立場で同じ目標を成し遂げようとする。とても美しいことですよね。それは、アーラが劇場として目指すことでもあると思うし、そこに賛同したから、今回、僕も参加させていただきました。そういう場って、以前は皆無に近かったですからね。ましてダンス、しかもコンテンポラリーというジャンルで評価されることは少なかったし。そもそも「コンテンポラリー」という言葉が浸透していなかったから、小学校のワークショップに行ったら、「こんてんぽらりー」と書かれていたこともありましたよ(笑)。 そんな頃からやっていますから、アーラのように劇場が機会を作ってくれることでダンスの可能性が広がってきて、よかったなと思っています。

—今回のような機会も含め、普通の人が踊りに親しむことの良さは、どんなところにありますか?

近藤:すごくシンプルに言うと、体を使うことは生きがいそのものなんじゃないかな。みんな、自分の身体と長く付き合っていますよね? その中で、スポーツでもダンスでも何でもいいんだけど、体全身を使って表現するということは、生きている証拠だと思います。だから楽しいはずなんです。それに発見が多いんじゃないかと思います。音楽の聴こえ方なんかも違ってくるはずです。子どもって、なんでも聴いて覚えちゃうでしょ? 音楽でも台詞でも。それは体の中で音のリズムを全部覚えているからで、ある意味もう踊りが成立しているような感じですよね。それって、70才の人だって同じはずなんです。体の動きなんて筋力の問題だから、さほど重要じゃない。聴こえてきた音を体で捉えて反応する、その楽しさを感じることは本当に面白いことだと思いますよ。

取材/稲葉敦子 撮影/尾崎隼 協力/フリーペーパーMEG
alaTIMES 2019.2.1発行号より転載

Scroll to top