あらすじ

夜空には大輪の花火、峠には曼珠沙華、見下ろす海岸には灯りの花が咲き乱れていた。
8月15日、長崎・松浦は精霊流しの賑わい。

子ども達や帰省客等の祭りの如き騒ぎをよそに、町の片隅で息をころすように佇む古びた宿屋。
まかないは年老いた女将「おばば」独り。

「女」は帰って来た、東京から故郷松浦に。身を寄せる親族も友人ももうそこにはない、だがそれは必要なかった。
何故なら彼女は、自分の過去と現在と未来も消し去る覚悟で帰ってきたのだから。
女は自殺を図った―けれども死ねなかった。
救ったのは、おばば。

宿屋の縁側越しの海に浮ぶ精霊の灯を眺めながら、女は語った、松浦で死のうとした理由を。
おばばは語った、松浦で独り生きてきた理由を…。