アーラみんなのピアノプロジェクト2018

 このピアノは、それにふさわしい「物語」を持っている

―このピアノを使って本格的なレッスンをしなくても良いと思っている。このプロジェクトのミッションは、諸々の事情で夢や希望を果たせない子ども達の心に、前を向いて立ち上がる勇気を持ってもらうこと。夢や希望は必ず叶えることが出来て、それに手を貸してくれる大人もみんなの周りにはいるよということを知ってもらうこと。2018年2月、小雨の降る中そのピアノはアーラにやってきた。

「ピアノを寄贈したいという人がいる」。17年夏、アーラの衛館長が作曲家の佐野秀典さんから相談を受ける。持ち主は兵庫県西宮市にお住まいの脇坂憲昭さん、暢子さん。音楽をこよなく愛するご夫妻で、ピアノが好きな暢子さんのために憲昭さんがプレゼントしたヤマハの職人による特注品だという。お子様はいらっしゃらず、幾度の困難も二人で助け合い、喜怒哀楽を共にしてきたご夫婦の、このピアノは愛情の結晶のひとつ。数年前に暢子さんが亡くなり、憲昭さんも病の床に。年が明けて憲昭さんが亡くなる直前に、ご本人の希望で「夢・希望をつむぐピアノ」としてアーラに寄贈された。

ちょうど同じ時期の、地元ケーブルテレビの番組審議会でのこと。「中央キー局のような番組づくりではなく、コミュニティ放送として地元企業に就職する子ども達が希望を持てる内容や、こども食堂など地元NPOなどの活動と期待される社会的意義など、可児市の未来に繋がる丁寧な番組編成を求める。」委員長として会議に参加していた衛館長の提案に、各委員から市民の生活実態や子どもの貧困など多様な意見が出された。「子どもの貧困は可児でも進んでいる実感があります。私の子どもの友達の中にもいるし、私はその中でピアノを弾いてみたいという子にピアノのレッスンをしています。」委員の一人であるピアノ講師の浦野恭子さん。時に声を詰まらせて語るその内容に、衛館長は「みんなのピアノプロジェクト」を動かそうと思い立つ。


▲記念すべき参加者1番目のご家族

2018年10月、みんなのピアノプロジェクトがスタートする。

先述の浦野さんをはじめ、プロジェクトの意図に賛同くださった6人のピアノ講師が揃い、第1期生として19名の子ども達を受入れることとなった。その応募動機には、子ども達の夢そして親御さんの思いが書かれていた。

「母子家庭でピアノ教室に通わせることが難しい。」
「ブラジル人の私は楽譜も読めないけど、子どもには音楽を習わせてあげたい。」
「集合住宅でピアノが置けず、経済的にも余裕がなく習わせることも難しい。」
「将来は保育士さんになりたい。子ども達と楽しく歌えるようにピアノを習いたい。」

プロジェクトの構想を伝える上で、衛館長は講師陣に「型にはまったレッスンではなく、1人1人に寄り添ったサポートを心掛けてほしい。」と伝えた。

迎えた初日、心配そうに緊張した面持ちで弱々しく鍵盤に触れた ゆなちゃん。浦野さんが丁寧に弾き方を教えると、「ひとりでやってみる」と心が前向きになってくる。「家にピアノはある?」と聞くとピアノはなく、学校のピアニカもまだ買っていない状況だった。話を聞いた浦野先生が自分の子どもが使っていたピアニカを譲ってくれることに。何回か通っているうちに曲が弾けるようになり、知りたい、やりたい、と彼女の中から生まれくるようになった。1期生最終日には「きらきら星」を披露し、そして帰りがけに折り紙で作った手作りピアノをプレゼントしてくれた。これは関わるスタッフの「ご褒美の品」となった。


▲折り紙で作った手作りピアノをプレゼント

姉妹で参加している ひかりちゃん。自分のレッスンが終わりお姉ちゃんのレッスン中、うつむき座る彼女が心配になり目を向けると、自分の膝の上に楽譜を置きいま覚えたばかりの曲を指で練習をしていた。自分の復習が終わると、8才上のお姉ちゃんのレッスンの様子を間近で食い入るように見つめる。そして驚くことに、次のレッスン日には、お姉ちゃんが練習していた曲が弾けるようになっていた。

子ども達との些細な会話からその子の環境や必要としていることが分かり、そして関わる大人たちでその子の環境や望みを少しずつ叶えられると実感する日々。型にはまらないレッスンなので、時には講師にピアノ演奏をねだり、自分は歌ったり踊りだす子も。それでもその活き活きとした瞳がプロジェクトの意義を物語っている。プロジェクトはまだ始まったばかり。この先どんな子たちがこのピアノに出会うのか楽しみにしている。

日程 2018年10月~2019年3月 月・金曜日の指定日(計27日)
会場 ala 演劇練習室
参加者 19人 延べ112人
協力 ピアノ講師 6人

 

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