劇評

市民ミュージカル 『君といた夏~スタンドバイミー可児~』

執筆者:安住恭子(演劇評論家)

作・作詞:瀬戸口郁
作曲・音楽監督:上田亨
演出:黒田百合
出演:市民96人

2012年3月10日(土)~3月11日(日)[全2回公演]
会場-主劇場

可児市文化創造センターが創った初のオリジナル・ミュージカル『君といた夏~スタンドバイミー可児~』は、予想以上に見応えのある舞台だった。いきいきとしたダンスナンバーなどに、驚きつつ楽しませてもらった。

 一昨年と昨年の『オーケストラで踊ろう!』も『わが町 可児』も、市民参加作品としては高水準の舞台成果を上げていたが、それらは構成や演出などの力が大きかったように思う。けれどもミュージカルの場合は、どんなに戯曲や楽曲、振付が素晴らしくても、歌い、踊り、演技する出演者自身の力のいかんが端的にあらわれる。だからミュージカルは難しい。プロが演じてさえも、首をかしげる作品が多々あるのである。

 もちろん市民ミュージカルに、プロのような成果を求めたわけではない。初めて舞台に立つ人々が、創造する楽しさと喜びをエネルギッシュに表現する。まずはそれがあればいい。『君といた夏』にはそれがあった。そしてそのエネルギーが、歌い踊り演技する力にきちんと結びついていた。児童劇団のミュージカルのように器用にではなく、素朴な身体性のまま、はつらつとした表現になっていたのだ。

 端的に言えば、出演者達、特に子ども達が、これまで見てきた多くの市民ミュージカルのように猫背やうつむきがちになることなく、目線を上げて舞台に立っていたのが何よりだった。演出の黒田百合を初めとするスタッフが、そこまで鍛え上げたのはもちろんだが、『オーケストラで踊ろう!』や『わが町 可児』での積み重ねもあったように思う。このように一歩一歩前進し

 

ている成果を見ることは、本当に気持ちがいいことだった。

 さて、映画でも知られ、少年ドラマの傑作である、スティーブン・キングの『スタンドバイミー』をベースに、可児の物語として仕立てた作品である。幼なじみが亡くなったことを知り、東京から可児に帰省してきた父親が、その友人を含む仲間との一夏の思い出を妻と息子に語る。舞台は、昭和49年、父親が小学6年生だった時の、その思い出話として進む。

 語り手の父親であるマコトとミノル、カンジ、ミツオの4人組は、カブトムシやクワガタなどがたくさんいる山のクヌギの大木をめぐり、不良少年達とけんかをし、彼らと戦うために秘密基地を作った。それを見ていた名古屋からの転校生ヒロミが、秘密を守ることと引き替えに、名古屋の友人に一緒に会いに行って欲しいと願う。その少女はヒロミの唯一の友達で、今は病気に倒れているらしい。5人は作戦隊長や食料調達隊長などと役割を決め、名鉄電車の線路に沿って、名古屋までの徒歩旅行を決行する――。

 男の子らしい冒険を通して友情を深め合う、きわめてオーソドックスな物語である。音楽やダンスも、今流行りのポップス調に流れることなく、落ち着いた作りだ。それでいて現代ッ子らしいエピソードや表現方法も随所に織り込まれた。例えば、それぞれの家庭の問題もふくめて4人組の一人一人を紹介するシーンは、3人の少女コーラスによってテンポ良く見せた。また、クラスの男子と女子がお掃除をめぐって対立するダンスシーンも、はつらつとした集団のシーンになった。ヒロミが女の子達の憧れの的という設定も楽しい。

 さらに、森の動物や植物、森の精達が登場し、彼ら子ども達を可児の豊かな自然が囲んでいることを示していく。てんとう虫やうさぎ、りすなどの衣裳を着た低学年生達の愛らしい姿や、森の精の美しいバレエとアリアによって、自然の恵みが優しく表現されたのだ。また、息子に勉強を強いるマコトの妻やヒロミの母親など、教育ママの姿も描かれ、家庭環境もふくめて子ども達をとりまく世界を立体的に見せた。

 その中で5人の少年が個性を発揮する。父親が家出したクラス一の暴れん坊カンジ、静香ちゃんに恋するひょうきんなミツオ、家が貧しくてもたくましいリーダーのミノル、優秀な兄を亡くし屈折するマコト、そして転校を繰り返す孤独なガリ勉少年ヒロミ。それぞれが役柄にふさわしい出演者を得たことで、物語が無理なく成立し、ふくらんだ。それぞれの家庭の姿や、ミノルの死を含めた彼らのその後の人生まで想像させたのだ。そして最初に述べたように、全員がのびのびと舞台に立ち、豊かなミュージカルを作り上げた。欲を言えば大人のシーンにもう一工夫欲しかった。例えば、教育ママや生活に追われる母親などの、コミカルな歌やダンスがあれば、もっと楽しかったのではないだろうか。

このページの上部へ