劇評

市民ミュージカル 君といた夏 -スタンドバイミー可児-

執筆者:安住恭子(演劇評論家)

作・作詞 瀬戸口郁
作曲・音楽監督 上田亨
演出 黒田百合

出演 市民キャスト102名

2015年3月7日(土)-8日(日) 計2回公演
可児市文化創造センター・主劇場

市民ミュージカル 君といた夏 -スタンドバイミー可児-

三年ぶりの『君といた夏~スタンドバイミー可児~』(瀬戸口郁脚本・作詞、黒田百合演出、上田亨作曲・音楽監督)。約百人の市民参加によるミュージカルだが、前回にくらべて歌もダンスも洗練され、まとまりのある舞台になったようだ。『わが町可児』や『オーケストラで踊ろう!』と共に、三年ごとに繰り返し上演する成果が少しずつ積み重なっていることと、長年子ども達との舞台を作ってきた黒田らスタッフの力だろう。
昭和四十九年夏の、小学六年生男子五人と可児の人々の物語である。スティーブン・キングの名作に想を得た少年たちの冒険と友情で、その中の一人であったマコトが大人になり、帰省した故郷で、自分の息子にひと夏の忘れられない思い出を語る形で舞台は進む。
マコトには三人の友達がいた。乱暴者のカンジ、ひょうきんなミツオ、そしてガキ大将のミノル。兄を亡くしたマコトをはじめ、三人とも家庭の事情などそれぞれの屈折を抱えていた。夏休みに入った日、彼らは山の中に秘密基地を作る。クワガタを探して遊んでいたところを不良中学生たちに襲われ、彼らに反撃するためだ。そしてそれを見ていた転校生のヒロミも仲間に加わることになる。
 優等生で女子に人気のヒロミを彼らは嫌っていたが、基地のことを秘密にするため、やむを得ず仲間に入れたのだ。そしてヒロミの希望で、名古屋まで徒歩旅行をすることになる。メーンはこの「自給自足」の徒歩旅行で、スイカを盗んだり、川で泳いだり、野宿をしたりと、日常から抜け出した冒険の数々だ。その中で、ヒロミもふくめてこれまで以上の絆が生まれていくという流れだ。

市民ミュージカル 君といた夏 -スタンドバイミー可児-

それ自体はオーソドックスな定番ともいえる内容だが、この舞台はそれに二つの要素を加えた。一つは彼らの住むこの町が自然に恵まれ、その中で命を育んできたということ。森の精や動物、虫たちのシーンをプロローグをはじめ要所要所に配し、その歌やダンスによって、彼らがそれらの精気に取り巻かれていることを強く印象づけるのだ。
そしてもう一つは、その生の裏に死が張り付いていることを示したこと。マコトが兄の死によって悲しみと不安を抱えているだけではない。ヒロミがマコトたちを連れて訪ねていった名古屋の友人も、病気で亡くなっていた。そして何よりも、マコトが故郷に帰り、息子に思い出を語るきっかけになったのは、ミノルが亡くなったという報せがあったからだ。
どんなに輝かしい体験も、時の流れの中に消えていく。そして命もまたいつか失われていく。しかし命も体験も、また日々再生されていくのだ。この光と影をしっかりと描いたからこそ、友情や思い出のかけがえのなさを強く語ることになったのだ。大人になったマコトが思い出の山を訪ね、クワガタを探した木の上に少年時代のミノルを幻視するラストシーンに、そのテーマが凝縮していた。
そしてこの舞台は、それをミュージカルとしていきいきと表現した。森の精の鮮やかな歌声とダンスがベースを創っただけではない。小学一年生をふくめた動物や虫たちもナンバーの数々をしっかり歌い、動きもきちんと見せた。その愛らしさ。さらに男子と女子の掃除をめぐるバトルや、不良中学生たちの躍動感等々。大人たちの演技も前回より堂々としていた。そうしたことからとりわけコーラスがよく響き、精一杯と感じさせた前回よりも、スムーズにリズミカルな流れを創ったと思う。

 

市民ミュージカル 君といた夏 -スタンドバイミー可児-

ただいくつかの問題もあった。一つは主人公たちのせりふがよく聞き取れなかったこと。声とマイクの調子が合わなかったのだろうか。早口のせりふが響きすぎ、やりとりが不明瞭のシーンが多々あった。また、ヒロミを除くキャラクターの違いも、もう一つ立ち上がらなかったように思う。それは特にミノルとカンジの違いで、セリフや演技、演出だけの問題でなく、脚本にもう一工夫欲しかった。
もう一つは、不良中学生たちとの闘いのシーンだ。最近の現実の事件を思わせ、前回よりリアルに迫ったのだ。この闘いはいつでもどこにでもある子ども達の現実で、不可欠のシーンだと思う。だからこそ、弱い側からの反撃に、猟銃を持ち出すだけではない工夫が必要なのではないか。今後の再演の際には、そのあたりの改変も見たいと思う。
それでもなお、市民ミュージカルとしては高いレベルの舞台だった。こうした体験を通して、舞台創造に参加する喜びを実感した子ども達や市民が増えていくことが、可児の舞台芸術を支えていくことは間違いない。

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