劇評

子供のためのシェイクスピアカンパニー「リチャード三世」

執筆者:安住恭子(演劇評論家)

作:ウィリアム・シェイクスピア
翻訳:小田島雄志
脚本・演出:山崎清介
出演:伊沢磨紀、福井貴一、佐藤誓、間宮啓行、彩乃木崇之、
   戸谷昌弘、明楽哲典、大内めぐみ、若松力、山崎清介

2006年 8月19日(土)18時開演
8月20日(日)14時開演
会場-小劇場

 黒いコートと帽子の役者たちと一体の人形が、リズミカルな手拍子と共に現れて、元気に走り回りながらそれぞれ二役三役を演じわけ、さっとコートを着てコロスになり、シェイクスピアの戯曲を、バリバリとかみ砕いて見せていく。装置の基本は、素朴な木の机とイスと幕。それらを動かして次々と場面を作る鮮やかさと、スピーディーな展開に笑っているうちに、「リア王」や「シンベリン」や「尺には尺を」などを、再発見したり納得したり――。

 私にとって「子供のためのシェイクスピアカンパニー」のシリーズは、毎回そんな楽しい観劇体験として心に残る。蜷川幸雄演出のシリーズをはじめ、数多くのシェイクスピア劇が日本で繰り返し上演されるが、その中でも優れた舞台の最右翼だと思っている。大半のシェイクスピア劇は、その膨大なせりふに振り回されて冗漫になり、退屈でつまらない、になりがちだが、このシリーズは大胆なカットと再構成、スピード感で、何よりも分かりやすくて面白い舞台に仕立てるからだ。しかもそれぞれの作品の本質を明快に抽出し、さらに独自の解釈を加えて、シェイクスピアと現代に新しい光を与えもする。

 その「リチャード三世」。王冠を手に入れるため、次々と人を陥れ、平然と殺す極めつけの悪党を、子供たちにどう見せるのか、興味を持って見た。王権をめぐり30年にわたって繰り広げられた、ランカスター家とヨーク家の<薔薇戦争>で、ヨーク家のヘンリー四世が国王になってからの物語である。その末弟で王位に最も遠いリチャードが、兄の即位の日に、自分が次の王座に就くことを決意する。手始めに、自らが殺したランカスター家の皇太子の妻を、ウソの告白で自分のものにし、その後は、陰謀の噂を広めたり、ウソとだましのあらゆる手段を巧みに使い分けて、兄や幼い2人の王子や王妃の身内、彼らを支持する貴族らを次々と殺していく。その野望を実現するまでの奸計と陰謀の数々が物語の大半で、最後の最後に殺した者たちの亡霊にたたられ、滅びるという流れだ。

 舞台は、大勢の登場人物や入り組んだ話を整理し、簡潔に展開しながらも、少しも手加減せず冷酷な男の所行を原作そのままに見せていく。リチャード三世を演じたのは、脚本・演出の山崎清介。いつもより照明を落とした舞台に、痩身で凄みのある山崎リチャードの目が光る。そして殺す相手や死体を引きずり回すなどの演出で、残酷さを視覚化的にも表現し、これまで私の見たどの舞台よりもこの男の恐ろしさを浮かび上がらせた。

 その上で山崎は、分かりやすくするために、いくつかの仕掛けをほどこした。まず、この物語の前提である「ヘンリー六世3部作」の最後――エドワードやリチャード兄弟が、ランカスター家の国王や皇太子を殺すシーンを冒頭につけて、歴史の流れと登場人物たちの位地を明快にした。また、背中にコブのある男として表現されることの多い彼の<醜い姿>を、<人形のように変形した左手>とし、その左手=人形が悪をリードしていくという作り。さらにその左手が、リチャードを倒した次の王リッチモンドに受け継がれるという、最後の衝撃的なシーンだ。これらの仕掛けによって、権力をめぐる争いが果てしなくつづこと、その権力は必然的に悪をはらむことを、はっきりと見せたのだ。悪党リチャードの特殊な話ではなく、今に続く権力闘争の象徴的な物語へと開放した。

 また、「馬を持ってこい、馬を。代わりにこの王国をくれてやる」という有名な最後のせりふを、冒頭からコロスたちが繰り返しささやくことで、欲望の行きつく果てとその哀れも、観客の心に刻んだ。山崎リチャードは、悪の華の魅力よりも、欲望から逃れられない人間の孤独を深く見せたように思う。そして枝葉をそぎ落とした結果、男たちの闘争に巻き込まれた女たちの悲劇も、普通の舞台以上にクローズアップした。

 つまりは、甘いオブラートで包むのではなく、悪を悪として子供たちに赤裸々に示し、そこから人間を見つめさせたのだ。しかも、その悪の物語の陰惨さに心が沈むことなく、面白く見ることができた。それは、机とイスを駆け上がり駆け下りてエネルギッシュに物語を紡いでいく、出演者たちのパワーが生む楽しさだったと思う。とりたててギャグをふりまくのではなく、国王を演じていた役者が、すぐまたその母親になって走ってくるだけで笑えるというような。客席を立ったとき、小さな子供が父親に元気に語る声が聞こえた。「でも、面白かったね!」。この一言が、すべてを表していたと思う。

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