連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第八十三回  「ロケット アーラ」 発射

可児市文化創造センターala 事務局長 遠藤文彦


「ロケットを飛ばすんだ」「3段ロケットを!」

それは、2009年6月、今から10年前の防災訓練の後でした。 静まり返った休館のアーラ、地下の映像シアター。そこには、防災訓練を終えたばかりの事業スタッフ、舞台スタッフ、総務スタッフ、防災・警備スタッフ、そしてアーラクルーズのメンバー約50人が、階段席に集められていました。 最前列で皆の前に仁王立ちの館長。いきなり密閉された空間に、声がとどろきます。 「今飛ばすのは第1段ロケット。このロケットで全国の名だたる劇場に肩を並べる。そして2段目のロケットで日本一の劇場になる。さらに3段目のロケットは世界に向けて打ち上げるんだ」  まさに「ロケット アーラ」の発射の瞬間でした。全員が、その風圧に圧倒され、訓練で消したはずの火は、館長の目で真っ赤にメラメラと燃えていました。私が最初にアーラに赴任して1年目の出来事、大変熱いメッセージロケットでした。

皆さん、こんにちは。この4月からアーラの事務局長に赴任させていただきました遠藤文彦と申します。平成から令和へ移行するこの記念すべき年に、ここアーラでスタートを切れる喜びを感じております。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。

かつて、私は、2009年から5年間、アーラの事業制作課長をさせていただいていました。その期間、先の号令を受け、1段ロケットとなる「まち元気プロジェクト」の立ち上げに加わらせていただきました。 「まち元気プロジェクト」といっても、何から手をつけていいのかもわからない中、まずは手探りで、障がいや介護などの福祉施設、病院、学校などに音楽、演劇、ダンスなどの文化芸術を届けるアウトリーチ活動、ワークショップなどを始めていきました。 「なぜ、劇場があるのに、ステージではなく、外へ出ていくのか?これは劇場が本当に担うことなのか?」と、当初、我々職員には戸惑いや疑問がありました。  しかし、それはだんだんと解消されていきます。文化芸術から一番遠いところにいる方に届けることによって起こる市民と演者、職員間の化学反応が、とても心を豊かにしてくれ、職員のモチベーションにもつながってきていることを実感することとなっていったのです。 また、アーラで演劇作品を制作するアーラ・コレクション・シリーズにおいては、市民の皆さんがサポーターとなって、可児に滞在し稽古する役者の生活のサポートをしていただくようになっていきました。市民の皆さんと役者、そしてスタッフの中では、家族と似たとても温かな関係が生まれていきました。 こうした関係が、市民の皆さんをアーラに足を運ぶきっかけにし、また、ダンス、演劇、ミュージカルなどの大型市民参加事業をはじめ、あらゆる事業の中で繋がり、事業そのものが生きてくる場面がとても多くなってきました。「まち元気プロジェクトとは、こういうことなんだな」と、市民と育むアーラの目指すものが、だんだん見えてきたように思います。 それまで、ステージを見に来ていただくことだけが劇場であると思い込んでいた私にとっては、目から鱗で、劇場の新しい形として、これを続ける中で、みるみるうちにさまざまな市民が躍動する劇場となっていく様子を感じていました。

2010年度から文化庁で、「優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業」という補助事業が始まりました。この補助事業の対象は、国の重点支援施設と地域の中核施設2つの区分に分かれており、重点支援施設は、文化庁が全国で10~15の劇場を選び、先進モデル劇場として事業の資金補助などで後押しをしてくれるものでした。アーラも2011年度、2012年度と申請しましたが、地域の中核施設止まりでした。 しかし、2012年「劇場、音楽堂等の活性化に関する法律」の施行に伴い、劇場に対する国の考えが、大きく方向転換します。この法律を受けた指針においては、「劇場は、社会参加の機会を開く社会包摂の機能を有する基盤として、常に活力ある社会を構築するための大きな役割を担っている」と示されたのです。 これを転機にアーラの「まち元気プロジェクト」などの活動が認められ、アーラは、2013年度に重点支援施設として初めて採択を受けることができました。人口10万人の都市で、全国の14の「トップレベルの劇場」と肩を並べることとなったのです。これは、アーラが文化芸術の至高を極めたからではなく、市民にとっての劇場として社会参加の機会を開く活動が認められたものと思っています。

それから5年が経ち、私は再びこのアーラに帰ってきました。そして、10年前のあの時の言葉が、まさに現実になってきていることを実感しました。 第2段ロケットが放たれて、加速したのでしょう。アーラが全国的に名実ともに有名な施設となっていました。全国から視察があり、全国の新聞やメディアがアーラを取り上げるようになっています。 また、多くの文化芸術関係者やアートマネージャーが、アーラに研修に来るようになっています。彼らは何を学びに来ているかといえば、劇場の運営やその考え方を学びに来ています。「地域社会で劇場は何をすべきなのか、劇場は何のためにあるのか」を学び、その答えをアーラに見つけに来ているのです。

物理的にはアーラより立派な施設は沢山ありますが、文化芸術の持つ力を活用し、あらゆる市民の繋がりを進める社会包摂型の劇場運営では、右に出る所はありません。まさにその意味では、日本一の劇場になっているのです。  なによりアーラが、可児市民の皆さんの生活の中に溶け込んでいます。芝生や噴水で遊ぶ子どもたち、ロビーで談笑する人々、緊張しながらステージの本番を待ち受けている市民、汗を流してダンスを踊る皆さん、それぞれに顔があり、それぞれの人生の一部として、アーラが利用されています。こうした劇場は、全国でもそんなに多く見ることができません。

今年度からが3段ロケットの発射です。日英共同制作公演をはじめ、新たなステージへの挑戦が始まります。  NASAかJAXAではないですが、私も「ロケット アーラ」のクルーの一人となることができました。この3段ロケットを世界へ、より遠くに飛ばしていきたいと思います。



 

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