連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

【番外編】 2年間ありがとうございました

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

We are about people,not art.
(私たちは崇高な芸術でなく「人間」についての仕事をしている)
We offer experiences,not shows.
(私たちは興業ではなく「体験」を提供している)

優れた劇場の定義として、イギリスの芸術評議会がこの2つの言葉をあげています。私の座っている事務机から目線を上げると、真正面の壁にはこの先開催される公演のチケット売り上げ状況が記載されたホワイトボードがあり、その横に少し大きな文字に拡大されたこの言葉が貼ってあります。今では黄ばんでいますが、2年前初めてこの椅子に座った時から幾度となく読み返した言葉です。短い文章ですが、アーラの事業展開の根底にある精神をうまく言い表しています。
異動早々の職員へのあいさつでは「組織の一体感を作っていきたい」と話しました。あれから2年、どれだけ実現できたか判りませんが、目の前の目標に対して職員の経験値の積み重ねは確実に行われました。職員が一気に成長した事例も多く目にしました。あとは経験年数が若い職員が多いので、少し広い視野で物事を考えることと、“一体化”とか“活性化”というのは“居心地が良い”とか“和気あいあい”とは違うということを意識して業務にあたって欲しいということです。

私自身について言えば、文化・芸術について専門知識はありませんでしたので苦しい日々でしたが、“人間力”を高めることは意識しました。情報化が進んで多くのことが自宅に居ながら携帯端末から出来たとしても、最終的に行き着く所は「人」対「人」だという想いが私の根底にあります。在任中「事務局長がそこまで言うのなら・・」と助けていただいたことも一度や二度ではありません。
また自分の“立ち位置”にも気を付けるようにしました。理事長や館長よりでなく、かといって職員よりでもなく丁度その真ん中に立つ。数値で測る計器がある訳ではないので難しいですが、若い職員が館長や課長に直接提案することをためらうことのない職場の雰囲気が醸成できたと捉えています。一方で真ん中に立ったため、絶えず孤立感・孤独感を感じながら過ごしてきたのも事実です。
日常業務のなかでは、どうしても主劇場や小劇場で行う観客動員の多い自主事業が目立ちますし、脚光を浴びることは否めません。しかしその一方でアーラが軸足を置いている“alaまち元気プロジェクト”を進めるため地道にワークショップやアウトリーチ事業を担当している職員もいます。さらには事業担当者の不在時に事務所内で貸館担当、窓口や電話応対で身動きができない職員もいます。そのほかにも受付やチケット販売、警備や清掃で下支えしていただく方も多くいます。そういう皆さんにこそ労いの声をかけるようにしました。それを事務局長がせず、誰がするんだと。対外的な顔は当然ながら館長です。自分は事務局が正しく機能するように進行管理する見届け役です。事務局長というよりは学校などで使われる「事務長」の方が実務に合っている呼び名のような気がしますが、どちらにしても副館長では決してありません。職員と同様、黒子に徹するように心がけました。

さて私事ですが、この度の春の定期人事異動でアーラを去ることとなりました。2年間という短い間でしたが、本当にありがとうございました。
野球で例えると、12年間在任した初代の事務局長は、先発でマウンドに立ち5回まで投げ切ったピッチャーです。その後ボールを受け取った私は、中継ぎとして8回くらいまで押さえることを期待されて登板しましたが、ヒットを打たれながらもなんとか味方の好守備に助けられ、6回を投げ切ったところで交替の運びとなった状況でしょうか。ボールは新しい局長に渡されます、ご期待を。
最後にアフリカのことわざ・格言を紹介して、私の最終回を閉じたいと思います。これまでのご購読に感謝します。

If you want to go fast, go alone.
(あなたが速く行きたいならば、ひとりで行って下さい)
If you want to go far, go together.      
(あなたが遠くまで行きたいならば、一緒に行きましょう)


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