連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第四十三回 事務局長のひとりごと(10)~指定管理者制度を受ける立場から考える~

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

こういう職場にいると、人が行動を起こす際の動機付けというものが気になります。簡単に言うと“どうしたら人が集まるのだろう”と。公演後のアンケート欄には「今回の公演は何でお知りになりましたか?」という項目を設け、公演情報の入手先について統計数値を拾ったりしてみますが、公演ごとに客層が違うこともあり、ここを押さえれば大丈夫という結論には至りません。一般的な傾向として若い方はお気に入りのアーティストの情報が出発点で、それを携帯端末から得て広範囲から来館されます。その会場が今回はアーラなのであって、来てみたら思ったより素敵なホールだったという感想に繋がっていきます。それより上の年代の方にはチラシや口コミがやはり有効のようです。時にはアーラのホームページを見て、この芝居や音楽が面白そうなので近くのお友達を誘って出掛けよう、となるわけです。出発点は公演会場であるアーラとなります。

市内にはケーブルテレビ局とコミュニティFM放送局がそれぞれ1局ずつあります。設立の背景にはテレビの難視聴地区を解消するという目的や、停電時にラジオによる災害報道支援などを行う目的もありますが、普段は地元に密着した情報を提供し地域に根付いた放送をしています。やはり知り合いの方がテレビ画面に映ったり、自分の書いたリクエスト葉書やメールが採用されたりすると親しみが湧くものです。アーラでもこれまで広報番組を制作しケーブルテレビで放映したり、主催や共催をする芝居や映画・音楽のPRのため市民サポーターや職員が収録スタジオに出向き、カメラに向かって視聴者の方に来場を呼び掛けたりしています。逆にケーブルテレビのスタッフがアーラの劇場内に入り舞台の様子を発信することもあり、これまでもいい関係を築いています。先月には成人式の模様を生中継、その途中には新成人へのインタビューも差し込みながら番組を進行しました。劇場内に入ることができるのは新成人だけですので、子どもさんやお孫さんの晴れ姿や式典の様子を同時進行でテレビ観覧できました。

今年の1月からは、新しい取り組みとしてコミュニティFMとのお付き合いが始まりました。内容は“午後3時の時報”、軽快な音楽に合わせて30秒間の施設紹介をし、最後に「可児市文化創造センターが3時をお知らせします・・」で締めくくります。結構いい仕上がりになっています。東海地方の方には午後3時の時報といえば、名古屋名物の和菓子“ういろう”の製造・販売メーカーが提供するAMラジオ局のものを思い浮かべることでしょう。こんな風に生活の一部として定着することが目標です。本市からの放送は出力ワット数が限られているのでそんなに遠くまで届きませんが、近隣の市町の方は周波数76.8MHz“FMらら”を是非お聞き下さい。

さて今月は指定管理者制度について一考。今月初めに名古屋で開催された世界劇場会議国際フォーラムにおいても「指定管理者制度10年、公立劇場のいま」をテーマに、非正規雇用の急増や人材育成のジレンマ等、各現場で抱えている共通の課題について活発な議論が繰り広げられました。この内容もお伝えしたいところですが、私の役割は日頃劇場運営に携わっていない市民の方へアーラの現状を絡めてお伝えする立ち位置と考えていますので、“指定管理者制度とは何か”というところから始めさせていただきます。

この制度は、平成15年9月の地方自治法の改正によってできた制度です。従来は公民館、文化施設、社会福祉施設などの公の施設の管理については、直営以外は契約による管理委託制度のみが認められ、委託先は自治体が50%以上出資する法人や公共的団体に限られてきました。しかし新しい制度の導入により、幅広い団体の中から施設を管理する者を指定することができるようになりました。指定管理者となれる者は従来の公共的団体だけでなく、民間事業者やNPO、自治会等の地縁団体まで広がります。一定の団体であれば法人格は必要ではありませんが、個人を指定することはできません。
この背景には公の施設の管理について民間事業者の手法を活用することで、サービスの向上と管理運営コストの削減が期待されています。 また条例の範囲内で利用料金の設定や収受も可能となります。総務省通知に示されている選定についての例示的基準では「住民の平等利用の確保」「施設効用の最大化」「管理経費の縮減」「管理を安定的に行う物的、人的能力の保有」となっています。「公平性」「有効性」「経済性」「安定性」です。
指定の方法については、条例に基づいて選定審議会等で選考を行い、議会の議決を経て期間を定めて指定します。なお小学校や幼稚園などのように、個別の法律によって施設の管理主体が限定されている施設はこの制度をとることはできません。

アーラの運営の実態については、開館した当時は直営方式を採用していました。文化芸術に関する事業や施設の管理については“財団に委託”、在職派遣している市職員の人件費については“市で対応”、その他の運営費については“財団に補助”という区分けで運営を進めます。
平成18年度からは指定管理者制度を導入、財団が指定を受け第1期は平成18年度から22年度の5年間、その後再指定を受け第2期は平成23年度から27年度の5年間です。現在は通算では8年目となる第2期の3年目となります。その間市民の文化芸術や交流・生きがい創出の拠点として、着実に実績を積み重ねてきています。4年目にあたる新年度中にこれまでの評価を行い、最終年度の27年度に市の選定事務を受けるという流れです。

評価については第38回「事業は評価ではなく点検へ」の後半部分で、数値化の困難さ、現場では評価というより満足度の向上や自己点検という視点の方が現実的というお話をしました。しかし今回は指定管理者として評価される側です。提供する「サービスの向上」と指定管理料に反映される行政が支出する「運営コストの削減」が大きな観点となります。経費については尺度が金額であり比較が容易ですが、サービスの評価については何度も繰り返しますが数値化が困難を極めます。共に実現できていれば何も悩まなくてもいいですが、どちらかにウェイトが傾いてしまった場合、この評価をどう判断するのか。総務省の当初の意図は「サービスの向上」>「コストの削減」です。評価については、その基軸となる価値概念がまず確定されなければなりません。施設の目的と達成水準を明確に定義し数値化しなければ、評価が有効に働かないのです。現状では結局のところ指定管理者として総合的な能力が問われています。
アーラについては財団が指定を受けていますが、外部審査委員を含めた選定委員会の選定理由としては次のような評価があります。財団は利用者の市民・専門家のスタッフ・施設設置者の行政という三者の連携による運営を、良好なパートナーシップのもと継続して行っていること。市の意向である市民参加の手法を取り入れており、これは民間企業には馴染まないこと。先進的な設備が導入された施設について、制作や技術面で財団の効率的・効果的な運営が期待できること。技術職員も財団職員であり、市民利用の支援を行うことが期待されていること、等々が挙げられています。

管理委託制度の下では、永続的にそれが続くことが前提でしたが、指定管理者制度では期間が定められることから、必ず期限が訪れ再指定が行われます。従ってその間の管理運営状況やサービスの質が悪ければ継続指定は望めません。全国的にみると、少し古い統計ですが指定管理者制度を導入している公立文化施設のうち、指定期間が4年以上の施設は平成19年度では4割弱でした。平成22年度には約65%まで伸びますが、7年以上の期間を採用している施設は依然として1%にも達していません。傾向としては多くの割合を占める区分が「3~4年未満」から「5~7年未満」にシフトしていることが顕著に読みとれます。実質5年が大半を占めているということなのでしょう。
ということは、指定管理者は5年間のうちに成果を出さなければなりません。いや、状況はもっと深刻です。5年間の指定期間の場合、前述のように最終年度は次期更新の選定事務が行われ、その前の年はそのための評価が行われることとなります。実質腰を落ち着けて取り組める期間はまるまる5年という訳ではありません。可児市では現在11の施設について指定管理者制度を適用しています。うちアーラを含めた10施設が平成23年度から5年間の指定期間、残りの1施設は25年度を初年度としていますので終期が他の施設と異なるものの、期間は他と同様5年間です。

地方自治法では指定期間については定めていませんが、短すぎれば中・長期的な展望にたった創意工夫を行うことが困難です。「劇場、音楽堂等の事業の活性化のための取組に関する指針」の中でも、優れた実演芸術の制作や専門的人材の確保・育成には一定期間を要することを考慮して期間設定をするよう明記しています。
長期的に安定したサービスが求められる施設においては、例えば従来の5年から期間設定を10年に延伸することにより、人材の確保や育成に充てる時間の確保がより可能となります。短期間では正規職員を雇用するよりも臨時職員の採用により運営することになってしまい、職員自身も専門性や自覚が身に付きません。指定期間を延ばすことによって緊張感が失われたり、他の参入機会を妨げたりという意見はあるでしょうが、質の高いサービスを安定して継続的に提供するためには少し先を見据える必要があります。短期間のうちに成果を求める結果、場当たり的な運営に陥る危惧もでてきます。
少なくともどの施設も一律の指定期間という考え方ではなく、「維持管理が中心の施設は5年程度、企画運営に重点を置く施設は10年程度」とする考え方が必要です。特に利用者との信頼関係の構築に時間を要し、その関係を基に安定したサービスを提供する場合はなおさらです。

アーラは施設建設前から市民との協働により、その基本理念を市民文化の創造に置いてきました。文化“創造”センターという名称が示しているとおり、ただ単に鑑賞するだけではない、市民が文化芸術を創造できる施設を目指して建設されています。そしてその目的の推進役として財団が設立され数々の成果を挙げてきたところです。このことは市民文化が形成されていく過程として大きな意義を持っています。
財団の施設運営については文化庁の特別支援施設としての評価を受けるなど、全国からアーラの動向に注目が集まっています。文化施設の専門性や舞台管理の特殊性を考慮して、直営では困難な機動性や弾力性への期待にこれまでも応えてきました。また新年度については今年以上に指定管理料の削減をしています。

再指定にあたっては、公共性を果たすための運営を行うことができる事業者が他に存在しているか、といった市場環境の有無を是非確認していただきたいものです。開館から10年以上にわたって継続している唯一無二の運営者を交替することは、これまで市が投資してきた蓄積を活かしきれないとともに、建設以前の計画段階から培ってきた市民協働の理念と絆を無に帰す懸念があります。現制度では、指定期間の満了後も同じ管理者が継続して指定を受けられる保証は無く、選考に漏れた場合はほとんどの職員が入れ替わってしまいます。これでは利用者との信頼関係の再構築は困難を極めます。現場の事務局を預かる身としては、指定管理料の多寡だけで選定することについては賛成する訳にはいきません。経費削減の効果ばかりに注目するのではなく、地域のまちづくりにどのような貢献をするのかという視点で評価することが大切です。目先の効率を追求するあまり、可能性を有している施設について貸館に軸足を置いた運営をすることは致命的な過ちを犯すこととなります。安定したサービスを継続して実施できる信頼性の高い事業者の選定と、その事業者が腰を落ち着けて施設運営に取り組める指定期間の確保が必要です。また同じ経費で何ができるのかを競う方式も有効と考えます。

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