連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第三十八回 事務局長のひとりごと(6)~事業は「評価」ではなく「点検」へ~

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

私がこのコーナーを担当した初回(通算では第21回)にご紹介した県指定史跡「金山城址」について、国(文部科学省)の文化審議会は6月に開催された同審議会文化財分科会の審議・議決を経て、国史跡として指定することについて文部科学大臣に答申しました。この結果官報告示後に可児市では「長塚古墳」に続き2番目の国史跡として指定されることになります。長塚古墳は昭和31年に指定されているので、実に半世紀以上ぶりの史跡指定となる訳です。名称は国内にある他の施設名称と混同しないように「美濃金山城跡」となりました。全国には「金山」と付く場所がたくさんあるようです。
美濃金山城跡は、木曽川の左岸、古城山にある東美濃の中心的山城であり、石垣や礎石、瓦を使用した織豊系城郭の特徴をよくとどめ、慶長6(1601)年の破城の状況とともに山城の変遷を考えるうえで重要であるとして国史跡の評価を受けたものです。

私は人事異動により文化財担当部署よりこちらに来ましたが、残った職員があとひと踏ん張りして見事国指定への道を開いてくれました。奇しくもこちらでも念願であった「劇場・音楽堂等活性化事業」における特別支援事業に国(文化庁)の採択を受けることもでき、こんな大きな節目の両方に関わったのも何かの縁と感じています。
頼もしいのは文化財の担当者もアーラの職員も指定を受けたことによる浮ついた気持ちの緩みがないということです。当然指定自体がゴールではありませんので、ここで目標を失ってはいけません。むしろこれからが真価を問われることになる訳です。皆、各自の当面の目標に向けていい目をして日常業務を進めています。

アーラでは納涼の夏場と年明けの新春に“かに寄席”を開催しています。毎年好評をいただいている企画で、年度始めに発売するチケットメニューの中にもこの2本をパッケージしたものがあるのですが、非常に多くのお客様が朝早くから並ばれる人気の高い企画となっています。席亭の花井伸夫氏監修のもと、会場内を寄席らしさで演出するために色物を番付したり、ホワイエに幟を立てたりして華やかさやワクワク感を演出し、来場者の満足度をさらに高めています。 

特に今年の納涼寄席は、出演者のトリとして落語家の春風亭昇太さんをお招きしました。昇太さんは中部地区で放映されている国営放送でも戦国の城跡を訪ねる人気シリーズの番組を持つなど、城好きとしても広く知られています。昨年秋にこのラインナップを知った時、ぜひ可児の城跡にも訪れて欲しいと願い、文化財担当者から直接連絡を入れてもらいました。城跡について熱く語ったのが功を奏したのか、舞台の前に美濃金山城跡に登っていただくことが実現の運びとなります。昇太さんは当日朝5時起きで東京発の始発の新幹線に飛び乗り、8時半には隣接の美濃太田駅に降り立ちました。その様子は早速落語の“まくら”部分で城跡の魅力を含め、おもしろおかしく披露してくれました。また担当者の名前も満員の客席で何度も紹介していただき、職員も汗だくでご案内した苦労が報われてよかったです。

余談ですが、以前の私は昇太さんが出演する日曜日夕方の大喜利番組を見終わると少なからず“サザエさん症候群”となっていました。この状態は日曜日の夕方『サザエさん』を見た後、翌日からまた通学・仕事をしなければならないという現実をあらためて認識して憂鬱になり、体調不良や倦怠感を訴える症状を指します。世界的にも“ブルーマンデー”という言葉があるように、休日明けの物憂い月曜日として誰もが経験し広く認識されているようですから、万国共通の憂鬱感なのでしょう。今の私は火曜日休みなのでこの症状は全く発症していませんが、飲み会希望を月曜日に指定するので、ただでさえ少ない友人がどんどん少なくなっています。

さて、行政が行う事業については様々な形で「評価」が行われます。公共が自主財源を充当して実施するので、その効果や経済性を目に見える形で検証し公表していく。公表しないまでも、いつでも説明できる状態にしておく、これは当然必要なことです。“PDCAサイクル”という言葉を目にしたり耳にしたりすることもあるでしょう。場合によっては評価の結果「事業仕分け」の対象となり、これまで継続してきた事業の打ち切りに結びつくこともあります。
“文化・芸術”の分野については、その効果が人間の内面に訴えかけることは誰もが体感することです。つまり事業の成果については感覚的にその手ごたえを実感する訳ですが、それを数値化するということに困難を極めています。
数値化を前面に押し出すならば、約20年前までの主流だった「予算の執行率」いわゆる消化率なんていうのは論外としても、まずは数値化し易い統計数値である施設への「来館者数」や「部屋の稼働率」あたりが目に見える形で客観的に比較することが可能な指標となります。アーラについてはその両者とも着実に右肩上がりで伸びてきています。それをクリアした現段階では、次のステージとしてそれを一歩進めた「満足度」を測ることに苦慮しています。

満足度については、財団が実施する事業についてアンケートを入口でお渡しし出口において受け取っていますが、これも概して評価が高いものとなっています。自分でお金を払って入場されているので、名古屋まで行かなくても都市部の相場よりも安く、地元で見たいものが見られたということもあり満足度が高くなる訳です。こういう方は自由意見欄に「次は○○さんのコンサートを開いて下さい」とか「○○という劇団の舞台が観たいです」と同じジャンルのアーティストの招聘要望を書かれることが多くなっています。
ここで注意しなくてはいけないことは、鑑賞した公演について不満とまではいかないけれども満足していない方は不提出で帰られる傾向があるため、提出いただいたアンケートだけを分析して満足度を判断しては正確な情報を把握できないということです。自主事業の公演や講座等では必ずアンケートを実施していますが、その回収率は平成24年度の全事業を均すと14%に留まっています。
レストランでもそうですが、満足の場合は帰り際に「美味しかったです、また来ます」となるでしょうが、期待外れの場合は特に「料理が私の口には合いませんでした」と公言することは日本人の気質からしてもないでしょう。無言で退席しそれ以降再度来店することはありません。好意的なアンケートだけから結果を導き出しては判断を誤ります。

ちなみに、このアンケートの回収率を少しでも上げることが従来からの課題でしたが、今年それが一気に解決しました。方法は簡単なことでした。アンケート用紙と一緒にゴルフ場でスコアを記入する際に使うような、鉛筆の芯が付いたプラスチックのペンを一緒にお渡ししたのです。そうすると、来場者は公演途中の休憩の時間や公演終了後の帰宅ラッシュを待つ間に自席で記入する行動を取られるようになりました。ペンを持ち帰りするデメリットはあるものの、確かに混雑したホワイエの少ない記入場所で慌ただしく公演を振り返るよりは、余韻に浸った状態で落ち着いて答えることができます。

平成23年度からは新たな取組みとして「アーラ鑑賞モニター制度」を創設しました。これは市民の方を対象に公募するもので、市内でもできるだけ各地に居住し、違った年齢層から選出します。この方達に自主事業を数本見ていただきます。ジャンルはクラシックから朗読劇、演劇、市民参加事業、アーラコレクションシリーズなど今年は7本になります。興味のあるものだけでなく、普段あまり見ない分野も含めて全て鑑賞いただき、その素直な意見をフィードバックしてもらうものです。どちらかというとこの初めて鑑賞された際の評価を重要視しています。時には本質を突いたご意見や、普段のアンケートからは気が付かないような視点からのご指摘を受けますが、アーラが“裸の王様”にならないためにも必要と捉えています。

昨年度もそうでしたが、初回のモニター会議の際には皆さん「初めまして」の状態でしたが、徐々に財団職員やモニターさん同士の間に面識ができ交流が深まっていきました。一例を挙げれば、対象事業には映画は含まれていないのですが、昔映画ファンだった方が、モニターになったことを契機にアーラで上映する映画の開催日には足繁く通っていただくようになりました。映画祭の期間中はカバンから「今日はどの映画だったっけ」と何枚もある前売りチケットを探す姿は微笑ましいものがあります。また昨年モニターをされた別の方は、鑑賞モニターとして久しぶりにクラシックコンサートを聞いて来場へのハードルが下がったのか、今年はお友達を誘ってチケットを購入して来館いただきました。いずれも事務局としては嬉しい限りです。

可児市では、今後直面する“これまでに経験したことのない超高齢社会への備え”を最重要課題として、限られた財源を有効に活用するため、重点的に予算配分をする、言いかえれば重点施策以外は抑制していく方針を採っています。若い世代が住みたいと感じる魅力あるまちを創造するために重点事業が指定され、これに「ヒト・モノ・カネ」を優先的に投資しています。そしてその事業の進捗状況や成果、課題については、庁内をはじめ市民の方々、議会と共有していきます。その一方で全ての事業について必要性や目的を今一度明確にするとともに、これまでの実施状況を踏まえて事業を常に点検・検証・改善することとしています。
本市においても「行政評価システム」はご多分に漏れず行ってきましたが、行政評価を行うこと自体に新たな資料作成を伴う膨大な事務量が発生している現状から、昨年度をもって廃止しました。この背景には組織目標制度や予算編成過程を通じて、PDCAサイクルのCの部分、Check(点検)による実質的な業務改善が定着しつつあると判断されたことがあります。

アーラも市の施設でありますので、財団もこの考え方を軸とし、これからも事業の必要性を再確認するとともに、その効果について目に見える形で検証していきます。その際には従来の「評価」という考え方ではなく、事業を実施する当事者であることから「点検」という立ち位置になります。節目節目で立ち止まってこれまでを振り返り、新たに前に進んでいく。満足度の測定の難しい文化・芸術の分野ではありますが、数値化が無理と最初から諦めるのではなく、どうしたら実状に近いものになるか更に試行錯誤していきます。

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