連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第三十七回 事務局長のひとりごと(5)~1日勤務して一人前の仕事量にならないとは~

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

私事で恐縮ですが、我が家では犬を飼っています、それも3匹も。犬種はミニチュアダックスで、室内で飼っているので家の中はいつもグチャグチャです。誰もいない間2階へ上るのを防ぐために階段の登り口を高くしてあるので、家族はそれを大きく跨いでから上る不便さを毎日味わっています。またソファもいつの間にか犬の寝床として占領されてしまいました。休日の午後遅くは私がそこを借りる形で一緒に昼寝をしています。かといって私は犬が好きな訳ではありません。この3匹が大丈夫なだけで、動物は犬を含めて苦手です。
何年か前のある日、仕事から帰ると玄関にゲージ(柵)が置いてあり、その中に1匹の犬がいました。犬嫌いな私を鋭く感知して吠えまくります。ペットショップで売れ残って成犬となってしまったメス犬を引き取ってきたそうです。家族曰く「目が合った」のだとか。毛色が黒と白のまだらなことから“銀”(ギン)と名付けました。その後しばらくして対となるオス犬を購入してきます。やんちゃで落ち着きがないことから“走”(ラン)と呼んでいます。この2匹の間に子犬が産まれることとなりました。

人間さながらに腹部レントゲンを撮って4匹の子どもを確認、秋の夜遅くに産気づき、明け方に自宅出産となりました。この時点で計6匹です。その当時の動画を見ていると思わず目元が緩んでしまいますが、現実にはとてもこんなにたくさん育てられないので、知り合いに1匹また1匹と譲り渡しました。実際に子犬の顔を見て選んでもらったわけですが、やはり元気のいい子、器量のいい子から選ばれ、最後に育ちの一番遅い子が残りました。この子がこの秋6歳となります。名前もそんなに深く考えることもせず、両親の名前との語呂合わせで“栗”(マロン)としました。私から携帯メールを送りつけられるお友達の皆さん、時間のある時にアドレスを確認して、そして大きく頷いて下さい。
日常生活の中で身近に犬に接することにより、犬の持つ癒し効果を我が身で実感するとともに、家族の会話のうち多くの部分を犬の話題が占める現状や、多感な時期の子どもの情緒安定への貢献などを考えると、犬を残して宿泊を伴う家族旅行ができないというデメリットを差し引いても充分我が家の一員です。

アーラでは新しい取り組みとして、今年の11月にセラピードッグのデモンストレーションとトークを行います。ステージに立つのはブルースシンガーの大木トオルさん、私が言うまでもなくミュージシャンとしての知名度は高いものがありますが、一方で国際セラピードッグ協会の代表として、訓練された犬により様々な障がいを持つ人や高齢者・終末医療の患者さんの心を支える活動を精力的に行っています。
表情を失ったはずの高齢者が犬と接しているうちに笑顔になったり、言葉が出なかった方が犬の名前を呼ぶようになったり、余命いくばくもないと言われたガン患者が生きる意欲を取り戻す、そんな奇跡としか思えない成果を数多く目のあたりにしてきました。被災地では避難所や仮設住宅で被災者と触れ合い、孤独死や自死を防ぐ心のケアも担っています。犬たちの無償の愛情が被災者の心を癒すことを肌で感じてきました。
また、各地の動物愛護センターなどから殺処分寸前の捨て犬を救助し、セラピードッグとして生きられるよう支援も行っています。私財をなげうって犬を訓練する施設も作られました。「国内では毎日多くの犬が殺処分されている。処分される寸前の犬を助けセラピードッグになることで、今度は犬が人を助ける。」という大木さんのコメントが印象的です。新たな取組みですので、参加者を含め関わった方にどこまでこちらの企画した意図を伝えられるかわかりませんが、開催当日に楽しんでもらえるだけでなく、何か感じるものを持ち帰っていただけるよう事業展開を進めていきます。

さてアーラの開館時間は、前回もお話したように午前9時から午後10時30分までとなっています。職員の対応は朝の午前8時30分までに出勤し朝礼後に開館準備、閉館時間の午後10時30分に最終利用者の方を見届け後片付けをすると、平均すると夜は11時頃まで勤務しています。時間にして14時間30分です。場合によっては、それからその日の事務の整理や翌日の準備を行いますので、退館時間が日付を越えていることも決して珍しくありません。
また施設としては、休館日は火曜日の1日だけとなっています。1週間を通すと14.5時間×6日=87時間(A)、市民の方に対応できる体制をとっています。
一方で、財団職員は1日7時間45分の勤務時間となっています。これとは別に休憩時間が1時間あるわけですが、昼休み時間でも自席でカップラーメンを啜りながらパソコンを打っている姿をみると、とても休憩になっているとは思えません。しかしそれは含めず正規の分のみで計算すると、週休2日を確保して1週間トータルでは7.75時間×5日=38.75時間(B)の勤務です。
この両者を比較すると(B)/(A)=0.445となります。つまり1週間単位で考えると、どの時間帯にも職員が1人対応できる状態を「1」とするなら(こんな前提条件自体、違和感を覚えるのですが)現実に1人の職員が1日勤務しても施設の運営時間を分母とすると、一人前の仕事量どころか半分以下しかカバーできていないということとなります。1日通常勤務をしても一人前の仕事量になっていないのです。財団職員は23名いますが、そのうち5名は舞台技術の専門職員ですので、一般的な感覚に置き換えれば、(23-5)人×0.445=約8人で事務所を運営していることと同じです。もっと言えば事務局長は受付事務には全く役に立たないので状況は更に深刻です。この体制で数えることのできる来館者数34.3万人に対応しているのです。

確かに早番・遅番のコアタイムである午後2時~5時の間はともかく、午前中と夕方以降は職員数の少なさは明らかです。来館者の方から指摘されることもしばしばです。期間業務職員として2名の方にお手伝いいただいてはいるものの、開催事業が重なる時やチケットの発売日、貸館申込の解禁日等は人手が一気に不足します。またあまり知られていませんが、貸館に伴うピアノの移動についても一気に人員を割かれてしまいます。文化センターや劇場・ホール類の人事配置を検討する際には、名簿に記載される総人数だけではなく、そのあたりも考慮して組織編成をする必要があります。

財団事務局の課長以上で構成されるチーフ会議で「職員の健康管理に留意し、有休休暇の積極的な取得を!」と私から呼びかけるものの、次から次へと業務量が増大し、代休も取得できずにいる職員の状態を見るにつけ、自分の置かれているポストとは別に“人としてその発言はどうなのヨ”と自問自答せざるをえません。1年間を通して俯瞰すると春先は比較的余裕があったはずですが、それを実感することもなく、怒涛の夏へと突入しています。

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