連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第三十六回 事務局長のひとりごと(4)~「顧客満足度」について考えたこと~

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

最近「顧客満足度」について考えたこと2題。
まずは腕時計についてのお話から。女性に比べて男性の装飾品やアクセサリーの類というのは限られています。思い浮かぶものの筆頭は腕時計でしょうか。アナログ人間の私にとって腕時計は必需品ですが、20歳の時に少し背伸びして購入した時計をヘビーローテーションしてきました。当時の値段や買ったお店は不思議なことにしっかり覚えています。昔のことは良く覚えているんですけどねぇ。その腕時計は薄型で白地の文字盤、文字はローマ数字、ベルトや電池を交換しながら30年間使い続けてきましたが、ついに止まってしまいました。一度火事場で吸管を押さえる際に水にどっぷり浸かったこともあり、分解しても直る可能性は低く、裏蓋の傷口は腐食が進んだ状態になっているので「長い間お疲れ様でした」の最期でした。

それでもこの歳まわりになってくると時には少しフォーマルな時計が必要な場面もあり、今春に新しい腕時計を求めたわけですが、しばらくするとその時計メーカーからアンケートが届きました。この時計を選んだ理由や購入店での対応状況、現在の満足度等を選択肢で問うものです。なるほど売って終わりではなく、こうしてフォローすることにより顧客との接点を持ち続けるという姿勢に感心しました。しかし私の場合、それ以前に宛名が間違っていたので自由意見欄にそこを指摘して投函しました。「顧客の名前を間違えては、いくらアンケートを採っても顧客満足度は向上しないのではないですか。」と記入して。具体的には私の名前の「孝」の字が「考」と入力されており、その事は今までにもよくあることなんですが、私の奥底にある少し(?)意地悪な性格が出てしまい、国内最大手メーカーのお客様係がどう対応するのか見定めたかったこともあります。

その結果どうなったかというと「反応なし」なんですヨ。アンケートには該当する部分に○印を記入したので、満足度算出のための基礎資料としての目的は達しています。その点からすると自由意見は参考程度なのでしょう。でも顧客の“生の声”、時には耳の痛い内容もあるでしょうが、より一歩前へ進むにはそれを大事にしなければならないと考えます。目や耳を逸らしたくなる気持ちも理解できない訳ではありません。私もこれまでの公務員人生において環境や福祉といった部署で泥臭い現場に数多く立ち会っており、地域住民と最前線で直に接することの大変さや苦労は今の若い財団職員の比ではなく体験しています。今回の件でいえば、私は少なくとも名前を正しく書き直した保証書の再送付くらいはあるかと推測していました。差出人もわかっているので、そのくらいのことは出来るでしょうと。数多くの顧客の中では決して上得意様では無いのは確かなことですが、今回の一件でこのメーカーに対する好感度が下がってしまいました。(ちなみに腕時計自体は充分満足しており、これから先、経年変化でいい味が出てくることを期待しています。)

もうひとつのお話については、東京恵比寿の三ツ星フレンチレストランでサービス部門の責任者のひとりを務める「宮崎辰」さんを取り上げたドキュメンタリー番組を観たことでした。サービスマンは本場フランスではシェフと肩を並べる高度な技能を求められる専門職で“メートル・ドテル”と称されますが、宮崎さんはメートル・ドテルの腕を競う世界大会で日本人初の世界一となった方です。宮崎さんの顧客満足に対する考え方は「100%の満足は実現できて当たり前。あらゆる手だてを駆使して極上の空間を演出し100%以上の満足を追求していくことが、サービスマンにとって最も大切。」というもの。収録中でも常に目配り気配りの連続です。穏やかな表情の内側で、もの凄い集中力を研ぎ澄ましているのが解ります。

番組内でのエピソードとして、彼女の誕生日にプロポーズをしたいという男性から、人生をかけたディナーの演出を託されたことを紹介しています。それに対して宮崎さんはこれまでの経験から最善のシナリオを構成します。でも決してガチガチの台本の類ではありません。当日の会話や食事の進み具合で臨機応変に微調整していきます。経験値の多さからくる“ゆとり”です。放送が進むにつれて観ているこちらまでしっかり感情移入してしまい、最後に彼のプロポーズに対して彼女がOKの返事をした時には思わずガッツポーズをしてしまいます。
これだけでもいい番組でしたが、驚いたのは幸せいっぱいの二人を見送って、最後に宮崎さんのコメントを収録している時だったんですが、先程の彼と彼女が戻ってきたことでした。用件は今夜の記念に宮崎さんと一緒に写真を撮りたいというもの。これまでの人生で最良の日を過ごして、興奮と名残り惜しさが相まって思わず二人の意見が一致し戻ってきたものと誰もが推測できます。この行動はその夜の演出に対しての最大の賛辞であることは間違いありません。お金には換算できない満足度の表現がそこにはあります。
「顧客満足度」というのはアンケートによる統計数値ばかりでなく、ひとつひとつの現場での積み重ねであるということを考えた出来事2題でした。

今月は事務所内で違和感を覚えることをひとつ紹介します。財団職員の勤務体系は、施設が朝の9時から夜の10時30分まで開いていることから“早番”“遅番”を設けて対応しています。早番は市役所と同じ時刻までに出勤し朝礼を行い、遅番は閉館を見届けるため昼過ぎに出勤する訳ですが、ここで違和感を覚えるのが「おはようございます」の挨拶です。時には休日の夕方からの打合せのために出てくることもありますが、その際も「こんばんは」ではなく「おはようございます」の挨拶です。
芸能関係ではよく知られていることですが、いわゆる水商売の世界でも昼とか夜とかの区別がないためこのような挨拶に必然的になっているようです。時間を問わずいつも誰かが働いている人にとっては、今が「おはよう」なのか「こんにちは」なのか「こんばんは」なのかを区別するより「おはようございます」と統一した方がよいのでしょう。朝であろうと昼や夜中であろうとその日の仕事で最初に顔を合わせた時には「おはようございます」となるのです。
また「おはよう」には「おはよう」+「ございます」という丁寧形がありますが、「こんにちは」や「こんばんは」にはそれがないからという説も一理あります。結局長い歴史のなかで、一番丁寧で無難な表現がオールマイティとして選ばれ残ったのではないでしょうか。
私も流されやすい性格のため、職場にいる時はこの慣習に染まりつつありますが、財団職員の皆さんには出演者やスタッフへの声かけ時はともかく、施設予約やチケット購入のため来館される市民の方に対しては、その時間帯に合った普通の挨拶をしましょうネ。

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