連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第三十三回 事務局長のひとりごと(1)~自書署名にこだわる~

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

普段見過ごしてしまうようなアーラの春の風景をひとつ紹介します。建物の一番南側の入口から外へ出ると、駐車場へ向かう通路があります。市道の上に架かっているブリッジを渡りきると背の低い樹木が見えて来て、それには"御衣黄桜"というプレートが付いています。ギョイコウサクラと読み、通常の桜の開花より少し遅れて咲く、花弁が見慣れたピンクではなく緑色の珍しい桜です。花が開いたときには緑色ですが、次第に緑色は薄れて黄緑色から黄色になります。花の色が高貴な貴族の衣裳のイメージがあることから"御衣黄"の名前が付いたとされています。もともとは市内にある工業団地の企業の敷地内にあったものですが、市外へ移転される際に市に頂いたものです。昨年は4月20日頃から咲きはじめました。1年のうち本当に限られた期間ですが目を楽しませてくれます。私の知る限り市内の地区集会場にもう1本これより大ぶりな木があります。

さて新年度を迎え、本年度も原稿を落とさないようにこのコーナーの題材の事を絶えず頭の片隅で気に掛けながら1年を過ごすこととなりそうです。昨年度はアーラにおいて行われている事業展開の様子を分野ごとに紹介してきましたが、今年度は年間テーマを「事務局長のひとりごと~館内で感じたことあれこれ~」として、行政から派遣されている立場の職員として事務所内を見回した時、あらためて気付く事、市役所との違いや違和感を覚えること等を取り上げていこうと考えています。また文量も少し短めでいきます。

年号が昭和から平成に変わる頃からでしょうか。世の中にワープロというものが普及していきます。私は字が汚く、電話を受けた際のメモ等は後で読み返しても解らないくらいの筆跡の持ち主なので、きれいな文字で出力できるのは大変重宝します。また加筆・修正が容易なことから、文章の作り方が変わっていきます。全体の構成やストーリーを事前に組み立てて冒頭から一気に書くというやり方から、まずは書き易い所から入力し始めて校正を繰り返しながら形にしていくという手法になっていきます。
ワープロ専用機が先行して普及していき、この後を追うかのようにパソコンのワープロソフトが徐々に浸透していきました。パソコンの世帯普及率が50%を超えるのが西暦でいうと2000年前後、この頃からは市役所内でも市の備品としてパソコンが職員に貸与され、この後作成するほとんどの文書が電子データで保存されることとなります。パソコンで作った文章は気のせいか出来栄えが手書きのものより良く感じます。感覚的には2割ほどアップするでしょうか。表計算ソフトを使えばグラフ作成や前年対比、割合計算も簡単に出来てしまいます。うまく活用すればペーパーレスに貢献するはずですが、そうならないところが行政の悲しい性です。出力したものも同時に保管してしまうからです。

伺書・稟議書の類や報告書等見た目が綺麗に出力できるパソコンですが、行政文書ですので起案者だったり作成者だったりを記入する欄があります。私が首を傾げるのは、そこまでパソコンで入力してしまうことです。現在市役所の窓口で住民票を取得する際等には本人確認を徹底する時代となっています。"なりすまし"を防ぐためです。具体的には申請者が確かにその本人であることを確認するため免許証等の顔写真がついたものをご提示いただいているのです。顔写真が無い場合はもう1種類何か別のものを求めて整合し、本人になりすまして不正取得することを警戒しています。そこまで徹底しているのに、自ら作成した文書の名前欄は自書せずにいるのです。パソコンで名前まで入力してしまって、それを出力し市販の認印を押印して完成、それって本当にあなたが作った文章ですか?自分で作成した公文書です。せめて名前くらいは自書しませんか。事ある度に市にも事務提案をしていますが、現実には"その他こんな意見もありました"扱いの対応になっているのがとても残念です。私達のような事務屋は技術職とは違って成果物が後に残りにくいこともあります。自分の名前を自筆で残す習慣を是非身につけて下さい。
話は少しずれますが、市役所では時間外勤務の申請や休暇願・出張命令を受けるのはパソコンで行います。目の前にいる上司への申請をパソコンで配信するのです。システムはパソコンを閉じた時間と連動しているので、架空の時間外勤務が派生しにくい仕組みとなっており、集計作業が容易なパソコンの特性を活かす目的もあります。一方財団の事務所内では未だに手書きの申請書を出して「お願いします」、上司は押印しながら「ご苦労さま」の風景が日常です。極めてアナログな方式ですが、人間らしい関係の原点を感じる光景です。

また、舞台関係の仕事をしていると、いわゆる"裏方さん"は皆が黒っぽい服装をしていることに気が付きます。縁の下の力持ちに徹して決して前面には出ないようにするということや、作業時の汚れが目立たないようにするためということに当然起因していると思われますが、黒色があまり好きでない私にとっては違和感を覚えています。原色の色使いは問題外としても、紺やグレーくらいは大丈夫かなと自分勝手なスタンダードを設定しています。まあこれは好き嫌いの問題ではなく"郷に入っては~"ということなのですが。
事務局やスタッフには女性職員も多いけれども、持ち前のセンスの良さで黒を主体とした服をうまく着こなしています。小物やちょっとしたアクセントで色に変化を付けたりしています。着るものでその日の気分が変わることもあるでしょうから、暗い色の服を着続けるとストレスが溜まらないものかと余計な心配をしてしまいますが、舞台担当が無い時等は明るい色の服を着てくることもあり、そんな時は何故かホッとします。上手に自分をコントロールできているなと安心するのです。またきっと休みの日にはうまく気分転換をしているのでしょう。新年度を迎え職員のメンタルヘルスも気になる春先です。

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