連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第三十二回 本年度を締めくくる市民参加型事業「オーケストラで踊ろう!」

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

現在、市議会は3月定例会の会期中です。今回の議会の中心はなんといっても新年度当初予算案の審議と議決となります。本市においても財政事情が厳しい中、各部署で市民サービスの向上を目指して予算要求を行い、幾度にも及ぶ財政担当の査定を経て予算編成事務を進めてきました。財団の事務局長が担う業務のうち最重要ランクに位置する"指定管理料の確保"に向けての最終段階となっています。喫緊の課題は経年変化による建物の修繕費用の増、設置機材の老朽化や故障等への対応です。施設や備品が次々と耐用年数を超えてきています。特に今年度は開館10年目ということで、本来なら節目のこの年に交換しておくとよい機材等も多いのですが、市全体の財政事情から、現状で不具合が出ていないものは翌年度以降にその対応が持ち越しとなっています。支出経費の平準化ではなく"後回し"の対応です。議会説明については私の専任事項となっていますので、財団の運営方針と事業展開の意向や意図を説明しご理解をいただくよう、孤軍奮闘ですが対応しています。

さて、今月は自主企画公演である「オーケストラで踊ろう!」の紹介です。アーラ=可児市文化"創造"センターという名が示すように、地域に根付いた劇場として市のまちづくりに貢献するため、自主事業である「alaまち元気プロジェクト」メニューに多くの時間と人と予算を集中させています。その中では年に1作品、大型の市民参加型事業を制作しています。ジャンルは3年サイクルとし、一昨年の音楽劇「わが町可児」、昨年のミュージカル「君といた夏」に続き、今年はコンテンポラリーダンスの年になります。7月にご紹介した「アーラコレクションシリーズ」、これは出演者やスタッフが市内に1ケ月半滞在して芝居を1から創り上げていくものですが、これを本年度前半の山場だとしたら、後半の山は間違いなくこれから紹介する3月公演の市民参加で展開する「オーケストラで踊ろう!」です。

これは生のオーケストラが奏でるドヴォルザークの交響曲第9番「新世界より」に合わせて、50名を越える市民ダンサーがステージで踊るもので、クラシック音楽とコンテンポラリーダンスの融合による新しい芸術表現です。曲名は知らなくても、曲を聞けば皆さんもこの聞き覚えのあるメロディーを口ずさむことができるでしょう。映画のバックグランドミュージックやテレビのCM、童謡で聞くことができます。でも何しろ壮大な曲なので、ダンスとコラボするイメージや当日の来場者の反応が私には想像しにくいです。振付・構成・演出はダンスカンパニー「イデビアンクルー」の井手茂太(しげひろ)さん、演奏は60名を超える地元の可児交響楽団、演奏を指揮するのは古谷誠一さんです。舞台の上では踊りが繰り広げられ、舞台下のオーケストラピットでは迫力ある生の音楽が流れます。

この公演に関しては遡ること昨年の11月中旬に応募者全員に対してオーディションを行いました。市民参加という前提ですので、よほど協調性のない方は別として、何らかの形で参加いただけるように皆さんの適正を見て大まかなグループ分けをしたというのが正確なところでしょうか。曲の構成が第4楽章まであるので、3つのグループに分け、それぞれが1~3の各楽章を担当、最後の第4楽章は全員で踊るという大まかな構成です。稽古は12月から毎週末に行ってきました。各グループの稽古時間は1回につき3時間、井手さんを始めとする3人の講師陣は土曜日の午後、夜間そして日曜日の午前と3つのグループに全て対応します。計9時間分のレッスンです。井手さんのレベルの高い指導力と絶妙なトークで参加者は飽きることなく稽古を積み重ねていきます。
試行錯誤で制作を進めている一方で、入場券は着々と売れています。今回参加する市民の方が自分の出演するチケットを"手売り"する効果もあるのでしょう。舞台への期待が徐々に高まっていきます。

公演まで1ケ月を切った2月中旬からは、本番会場である主劇場の舞台が空いていればここも使って稽古が続きます。この時期に合わせて、イギリスのウェスト・ヨークシャー・プレイハウスで劇場付きの演出補を務められたクリス・ヒルさんが来日しました。全体の演出を最終的にアドバイスしていただくためです。クリスさんの指導は当然ながら英語です。通訳を介するものの、温厚な人懐っこいお人柄を前面に出した温かな指導が続きます。学校で英語を学んでいる子どもたちには副次的な効果も期待されます。好きなダンスをして英国人から英語で直接指導を受けるということは、貴重な体験になるに違いありません。その様子を家族や友達にいきいきとした表情で話す姿があれば、さらに嬉しい限りです。
時には部分的に行っている舞台での稽古を客席後方から撮影し、その画像を全体の構成どおりに編集し直して出演者とスタッフ全員で確認する機会を作ります。講師の方からの指摘も有効ですが、自分たちの演技している映像を客席からの客観的な視線で見直すと自発的に修正点が見い出せるようです。全員が一斉に止まる瞬間、また動き出す瞬間、手を挙げる角度、各々の立ち位置の間隔・・舞台の上で演技をしている時には気が付かないことが、少し離れた場所から撮ったもので見直すと明らかな違いに気が付きます。

3月に入るとこれまで別々に稽古を続けていた"踊り"と"演奏"とがついに合体、初回には舞台の上と下とで「よろしくお願いします。」の状態です。演奏者は舞台の上で何が行われているのか全く見えません。指揮者のみ進行状況が判りますが、その指揮者もオーケストラピットから顔だけ出して観客席にご挨拶です。舞台美術や照明・音響も次々と本番仕様になっていきます。合同リハーサルや通し稽古を重ねることを通じて出演者とスタッフ全員が同じ時間と空間を共有、文字通りの"一体感"が会場内に芽生えます。さあ本番です。

本番は3月第2週の土曜日の夕方と翌日の日曜日午後の2公演、予告ベルはいつも聞きなれたチャイムではなくブザーです。これまでの稽古と明らかに違うのは客席が満席になっている事。張りつめた緊張感の中、指揮者のタクトが振り下ろされました。まずは演奏のみの序曲、それが終わると幕が開き、第1、第2、第3楽章をそれぞれの担当グループがこれまでに何度も行ってきた稽古通りに踊ります。そしてフィナーレの第4楽章、色とりどりの衣裳のダンサー全員が舞台の一番奥で横一線に並びます。私は限られた時間で稽古を見てきただけですが、精悍に立ち前方を見据えている皆の姿を目にすると、さすがに目頭が熱くなり込み上げてくるものがあります。楽団の力強い演奏に合わせ一歩また一歩と前へ進む姿は私にとってこの舞台一番の見どころです。最後は幕が閉まるか閉まらないかのうちに会場からの割れんばかりの拍手。本年度の財団関連事業は未だ少し残っていますが、達成感のお裾分けとともに脱力感も貰ってしまいました。

気が付けば3月中旬、私にとってあっという間の1年でした。この連載は月1回のペースで進めてきましたので今回で12回目となります。あらためて初回の就任後2週間目に書いたものを読み直してみると「自分は文化芸術の専門家ではないので背伸びをした芸術論を他の資料から書き写すのではなく、職員が現場の最前線で踏ん張っている姿を紹介するのが自分の役目」と自覚して、身の丈に合った言葉を使い、アーラにおいて実際に行われている事業展開の様子を分野ごとに紹介してきました。
テレビで観るような著名人に直接会うことにも少しは慣れてきたかなと感じます。この冬には人間国宝の方にお会いしてお話させていただく機会も得ました。現場の第一線で活躍している人にはどの方にもオーラというものが確かにあって、周りにいる人を知らないうちに元気にする影響力があることも身をもって体感しました。また、これは私の中での不確定な仮説ですが、一流の域を超えた超一流の方は舞台の上に立つと当然ながら他を寄せつけない迫力があるのですが、普段はオーラを消すかのごとく過ごしている印象があります。舞台を降りると周りの風景に自然と溶け込んでしまうのです。そのあたりについては、これからさらに場数を踏んで検証していきます。

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