連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第三十一回 幅広い音楽ジャンルへの期待に応えるために ~本格的なクラシックを担うアーラの役割~

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

可児市では1月の第2日曜日に成人式を行っています。新成人の皆さん、おめでとうございます。アーラが開館する前に実施していた式典会場は、パイプ椅子を会場いっぱいに並べても参加者を1度に収容できなかったため、校区別に午前の部・午後の部と分かれて開催していました。アーラの座席数を決める際には"成人式をみんなで一緒に行えること"という要件もあったと記憶しています。今年も参加者が分かれることなく一堂に会して例年どおり厳粛な式典が挙行されました。新成人の代表を中心とした企画運営委員会の見せ場であるアトラクションも好評で、小・中学校時代の恩師のビデオレターやご本人登場では会場の雰囲気が一気に盛り上がります。最後は多くの中学校の卒業式で歌われた「旅立ちの日に」を5年ぶりに参加者全員で大合唱した後、記念撮影をしてお開きです。参加者はそれぞれ近況を報告し合ったり、早速開かれた同窓会会場へ出掛けたりしていました。誰もがこれから先の大きな可能性を秘めている一方で、大人としての自覚が求められ自分の行動に責任も課せられます。決して楽しいことばかりの人生が確約されているわけではありませんが、自分らしい生き方をしてくれることを私達先輩は期待しています。

さて今月は、アーラが担う役割としての本格的なクラシックへの取り組みについてご紹介します。
2013年の年始早々には恒例の「ニューイヤー・コンサート」を実施しました。今年は世界最高のウィンナ・ワルツ、ポルカを聴かせてくれるウィーン・フォルクスオーパー交響楽団、演奏プログラムはヨハン・シュトラウスⅡ、レハールのオペレッタやポルカ、「美しく青きドナウ」をはじめとした名曲揃い。舞台装花も華やかさを演出しています。指揮はお茶目な一面も持ち合わせているグイド・マンクージ氏、また東京サントリーホールを沸かせた名実ともに充実した二人の歌手と、選抜された2組のバレエ・プリンシパルによるパフォーマンスがお洒落で楽しいコンサートを繰り広げ、優雅な年の幕開けが行えました。最後にはクラッカーが祝砲のごとく鳴り響いて華々しい終幕です。来場される方の中には着物姿の人もおみえになります。公演後のアンケートと見ると市内の方が圧倒的に多く、地元の新年行事としてすっかり定着していることを実感すると同時に、早くも来年の開催を期待する声の多さに驚いています。
事務局の立場からするとこのコンサートは年始休暇明け2日目の開催であり、昨年末にある程度準備を進めていたとはいえ担当職員は出演者や来場者対応はもちろん、一般事務も始まるのでバタバタの状態です。本来なら本番公演の客席の反応を会場内でじっくり見届けるといいのですがそんな余裕はありません。しかし公演後、扉から出てみえる方々の満足された顔が全てを物語っています。やりがいを実感する瞬間です。
また、人数限定ですがこのコンサートの前には"ビフォア・パーティー"として出演者ら3名による演奏とトークとともに、コース料理の提供とプレゼント抽選会が行われ、本公演への期待の高まりを演出しました。地道ですがこういう関連企画の積み重ねが満足度の向上、ひいてはアーラの評価、市の魅力度の向上に結びついていくのではないかと考えています。

2008年度よりアーラは日本を代表する「新日本フィルハーモニー交響楽団」と劇団「文学座」の2団体と地域拠点契約を結んでいます。"クラシック"と"演劇"について主軸となる幹を持ち合わせていることが他の会館にはない事業運営の強みです。今回は音楽がテーマですのでそのうち「新日本フィルハーモニー交響楽団」についてご紹介すると、新日本フィルは1972年小澤征爾氏のもとに楽員による自主運営のオーケストラとして創立し、優れた企画と充実した演奏で日本を代表するオーケストラの一つとして高い評価を得ています。高水準な芸術性を持つ一方で、東京都墨田区と連携してコミュニティへのプログラムを日常業務として展開する等、アーラと共通する"匂い"を感じます。

昨年9月には、この新日本フィルにより「田園」が演奏されました。指揮者は実力・人気の高い音楽監督クリスティアン・アルミンク氏、5度目の主劇場登場です。ピアノはアーラ初登場の弓張美季さん。幅広く知られた曲目と確かな演奏により、新日本フィルの公演を定着させるとともに新たな観客の発掘を図りました。またここでも関連企画"リハーサル見学&ケーキセット"が好評です。普段一般に公開されることの無いリハーサルの一部を会場内で体感していただいた後、レストランでシェフオリジナルのケーキをいただいていると、先ほどまで舞台で指揮を執っていたアルミンクさんご本人が登場、最後は小グループに分かれて一緒に記念撮影です。ファンのみならず、思い出に残る一日となりました。
また、地域拠点契約に基づく事業として"お出かけコンサート"を行っています。
新日本フィルのメンバーが、学校・公民館・福祉施設等に出向き、ミニ演奏会と楽しいトークを届けることにより、身近にクラシックに触れる機会を提供します。可児市民と劇場以外の場で接することにより、お互いに親近感を持ちわが町のオーケストラとして認知されるようになります。
さらに"音楽クリニック"と題して、市内の中学校で吹奏楽を愛好する生徒を対象に直接指導を行う機会を設定しています。楽器の持ち方から音の出し方など基礎的な練習からになりますが、生徒たちは真剣に受講しています。講師の指導を聞き洩らすまいと、メモを取っている生徒さんがいるのも印象的です。
その他、本年度の本格的なクラシックへの取り組みとしては、日本を代表するNHK交響楽団トップメンバーによる「N響室内合奏団」の公演や、日本屈指の実力派ピアニスト中村紘子さんによるピアノコンサートを開催しました。特に「中村紘子ピアノリサイタル」においては、アンコールに5度も応えていただきお客様も大満足でした。

また、広くクラシックファンの裾野を広げるという点からは次の事業を実施しています。地元音楽事務所が2ケ月に1度位の割合で企画する「音楽家の集い」。入場料を安価に抑えて、来場者も数十人程度の規模で展開しています。クラシックの入門編としてはお勧めです。これから演奏活動を重ねていく出演者が続々と登場、彼らの今後の活躍が楽しみです。今年も年始休暇明けの日に演奏会を設定していたので、雑談の中でもう少し準備に余裕があるといいですねと話しかけると、移動交通費等の経費を抑えるために東京の音楽学校等で勉強している学生さんがこちらへ帰省している時に合わせて演奏会を企画していることのこと・・。取り組む姿勢に頭が下がります。
夏には「おやこでうたうコンサート」を実施しました。これは夏休みの企画として地元のクラシック音楽家の演奏を、劇場より更に間近なロフト空間で鑑賞するというものです。この日ばかりは会場内が子どもの声でいっぱい。演奏曲はできる限り子どもさんに馴染みのある曲を中心に構成し、クラシック初心者にも理解しやすい内容としています。小さい子を持つクラシック好きなお母さんにとってもストレス解消となるのではないでしょうか。会場内は"子どもの声が迷惑をかけるのはお互い様"の雰囲気です。楽器の特徴を紹介するコーナーや、時には演奏体験等を行うこともあります。この企画は来月末の春休みにも実施します。
「音楽の絵本」も好評です。多分皆さんが想像するよりは本格的なコンサートです。私などはあの格好でよく演奏できるものだと感心します。児童劇ともキャラクターショーとも違う独自のスタイルが話題を呼んでおり、アーラでも平成21年度から連続公演を行っています。

邦楽部門における「古典芸能」については、市民活動の分野としてはあまり活発に行われるものではありませんが、市民要望が多くなくても長期的な視点から"公益"の施設として"やらなければならないもの""後世に伝えていかなければならないもの"ととらえ取り組んでいます。今年は人間国宝の常磐津一巴太夫(いちはだゆう)さんの素浄瑠璃、その多彩で奥深い芸の心に触れることができました。素浄瑠璃は素語りともいい、人形や俳優を伴わず浄瑠璃の深い意味や情を豊かに表現することで、さまざまな登場人物を語り分け自然描写や情景を浮かび上がらせなければならない難しいものですが、「派手に、品よく、たっぷりと」をモットーとする一巴太夫さんの美しい声と節、"艶"とでも言うのでしょうか、それらを堪能しました。また公演後はリラックスした雰囲気の中で一巴太夫さんから直接お話を伺うお茶会を企画、師の深い人間性や人間国宝になるまでに至った魅力を参加者皆さんが直に感じることができました。

"ポップス"部門では、やはり知名度や認知度の高いアーティストの招聘はアーラに期待されるところです。主劇場の座席数が1,019席ということもあり、従来から興行色の強いものは採算の見込みがある近隣の1,300席~1,500席のホールで行うという棲み分けが自然とできています。しかし市民要望の強いジャンルであることは間違いないので、年に2本程度は大型ポップスコンサートを開催しています。本年度の例でいえば6月に谷村新司さんが登場、昼間には今回のツアーに同行している娘さんが福祉施設を訪問し、生の音楽を届けてくれました。メインの夜の部には谷村新司さんが主劇場に登場。曲間の最初のトーク部分では、ほんの1分たらずで観客を魅了してしまいます。このテクニックはお見事。最近の曲と懐かしの曲を上手に折り込みながら、また地元の少年少女合唱団を交えて楽しく進行していきました。
今月22日にはイルカさん("さん"付けするのも変ですが)が登場します。チケット発売初日の窓口には長蛇の列。やはりこの部門の期待値は大きく、公演当日が今から楽しみです。

音楽は演劇や映画に比べると市民が何らかの形で関わる機会が多くなっています。言いかえればそれだけ音楽に対する関心や期待は大きく幅広くなっています。その全てをアーラが請け負うことはできません。官民の役割分担という観点からも、市民を含めた民間や学校等でできることには支援の立場で臨み、アーラでなければできないことや、現時点では市民の需要は少ないかもしれないけれども市民にとって本当に必要なものはアーラが担っていく。そんなスタンスでこれからも臨んでいきたいと考えます。財団が持つ専門的知識や人脈を活用して上質なクラシックや後世に引継ぐべき古典芸能を普及啓発していき、総体としてまち全体から俯瞰した時に、幅広い音楽ジャンルへの期待に誰かが何らかの形で応えている、そういうまちづくりの一翼をアーラは担っていきます。

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