連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第二十八回 シネマについて思うこと~備忘録を整理して(邦画編)

可児市文化創造センターala 事務局長 桜井孝治

市では市民意向を把握するため定期的に市民アンケートを実施しています。それによりますと、市内にあったらいいなという施設、今後欲しい施設としては「総合体育館」「総合運動場」「50mプール」が常に上位に挙げられますが、その次ぐらいに「映画館」が登場します。市内には映画館がありません。近隣では大型ショッピングセンター内に併設したり遊技場に隣接したりするシネコン(シネマコンプレックス)形式が主流です。公共交通が発達していない中小都市にとっては共有の駐車場が整備されていることも魅力です。
シネコンでは座席数の異なる複数のスクリーンを組み合わせ、集客力の見込める作品は客席数の多いスクリーンで上映、封切りから時間の経った作品や集客数は少ないもののロングランの作品は客席数の少ないスクリーンで上映する方式を採ることが多くなっています。共通のロビーでは公演している映画の一覧表とその時刻表が並び、観たい映画に合わせてチケットを購入、お目当てのゲートから入場します。売店でファストフードを買うこともできます。合理性を追求する現代人にマッチしたシステムであり、子どもが映画を観ている間に親がショッピングモールで買い物をすることもできます。併設する商業施設としては飲食店はもちろんのこと、中には日帰り温泉を併設している所もあります。

アーラ内には「映像シアター」という部屋があります。試写室という呼び方がピッタリで100名が収容できます。私自身は窓の無い部屋は苦手なので、ここでの長時間の滞在は少し息苦しく感じてしまいますが、映画館の代替施設としての役割を果たしています。また少し大がかりになりますが、小劇場にスクリーンを張って映画を上映することもできます。こうすると座席数が300近くまで拡大、音響もサラウンドとなり、本格的な映像劇場が完成します。お勧めです。
アーラでは本年度も数多くのシネマ企画を投げかけています。

  • 「アーラ映画祭2012」(10月)  邦画を中心に 11作品 延べ25回上映
    うち3作品では監督に来館いただきトークショーを開催
  • 「アーラ映画祭プレ上映会」(5月) 同じく邦画を4作品 延べ12回上映
  • 「アーラシネマコネクション」 毎月洋画を1本、各数回上映
  • 「シネコレforキッズ」 夏休みに子ども向けを3本、延べ6回上映(無料)

これに加えて文化庁と東京国立近代美術館フィルムセンターが全国で展開する「優秀映画鑑賞推進事業」の上映館の1つとして来年2月には黒澤映画を4本上映します。

このアーラ独自のシネマ企画で登場するのが「映画祭実行委員会」。市民で結成された熱心なボランティアが企画から映画の選定、当日の運営までこなします。今秋のイベント期間中の10日間には私もメンバーの方々といろいろなお話ができましたが、皆さん前向きのいい目をしています。会議時には熱い議論も戦わせるようですが、なるほどといったシネマを選んできます。質の高い優れた作品を上映し、映画の素晴らしさを広める活動をしています。
アーラでは本当にたくさんの市民の方が程良い距離感、いろいろな分野で運営に関わっています。これまで紹介した市民によるサポーターや裏方スタッフだけでも「alaクルーズ」、手作りレンガ事業の主催者として紹介しましたが、ホールでの公演時のフロントスタッフとしても欠かせない存在です。センターの運営にも絶大な協力をいただいています。自主企画事業「高き彼物」の市民サポーター、多文化共生事業での通訳を含めたサポーターなどなど。9月の地歌舞伎大会でも市民の方によりサポート隊が結成され、大道具の制作・ペンキ塗りから細かい小物の作成まで作業を手伝っていただきました。また未紹介ですが、演劇活動を通して子どもたちの育成を目指す「演ゲキッズクラブ」では保護者を中心とした強力なサポーターが本番中の音響や照明の操作まで担当してくれています。

4月の自己紹介でも少し触れましたが、私は社会人になってから映画を少しずつ観るようになりました。忘れっぽいので観た映画のタイトルをメモするようにしています。その数が約350本を過ぎた頃からもう少し詳しく記録しようと"タイトル、鑑賞日、原題、主演、助演、監督、あらすじ、評価"を残すようになっていきます。最近ではDVDが鑑賞の中心ですが、累計すると現在まで約30年、本数にすると約1,450本がこれまでの私の鑑賞歴です。マニアの方なら数年で達成するような数字ですが、普段の生活を送りながらコツコツと積み重ねてきました。
今回あらためて見直してみると、メモしてあるものについて映画を観たことは確かに覚えているのですが、ストーリーはもとより結末も覚えていないものがあまりにも多く愕然とします。情けないですがこれが現実でかなり凹みます。手間・ヒマ・費用をかけてきたのに、時にはメモしてある主役も記憶と結びつかないのです。特に刑事ものや恋愛ものは数が多すぎて、記憶がグチャグチャになっています。
そんな中、特に記憶に残っている映画をご紹介します、というか自分のために記録することとします。ご多分に漏れず洋画ではトム・クルーズの"ミッションインポッシブル"やジェイスン・ステイサムの"トランスポーター"、マット・デイモンの"ボーン~"シリーズ、邦画では"海猿"や"踊る大捜査線""ジブリ"シリーズなどは毎回楽しみにしています。ご年配の方にとっての"寅さん"や、もう少し若い方の"釣りバカ日誌"と同じ感覚です。しかし、自分自身の振り返りという観点から、誰もが知っている興行色の強い作品は避け"公開からかなりの年数が経ったけど、なお印象に残っているシネマ"という視点で書き留めてみました。強く印象に残っているということで、改めて並べてみると昔の映画は内容が重いもの、最近の映画はほのぼのとしたものが多くなってしまいましたが、自分の備忘録として今回(邦画)と次回(洋画)に分けて書き留めます。よその家の子のビデオを見せられるのと同様、関心の無い方には苦痛でしょうが、そんな中でも共感いただけるものがあれば幸いです。

観た割合としては邦画2割、洋画8割位なので邦画の絶対数が少ないですが、今回は邦画を何本か。
「楢山節考」 1983年
食糧が限られた状況で長寿は恥とされている山深い寒村を舞台に、働きが衰え死を目前にした母親を姨捨(うばすて)山に連れて行く息子。これは貧しい村の未来を守る為の掟であり、山へ行くことは死を意味する。2度目の映画化を今村昌平監督がメガホンを取ります。主演の緒形拳さんは2007年にアーラの舞台に立っています。その時はかつてご自身が在籍した新国劇の名作「白野弁十郎」に挑みました。アーラの主劇場と小劇場の間の通路に歴代公演した主なポスターやチラシが掲示してありますが、ここを通る度に一度お目にかかりたかったものだとしみじみ感じます。レストラン内にもサインが掲げてあります。私の友人の鰻屋さんで食事をした際の写真がそのお店に残っています。

「乱」 1985年
ご存じ黒澤映画。日本の戦国時代を舞台に戦国の世を生き抜いた年老いた武将とその三人の息子への家督相続を大規模な合戦シーンを交えて描いています。三本の矢の逸話も織り交ぜている。青い空、緑の大地、部隊ごとのテーマカラー。衣裳デザイナーのワダエミさんの存在を知ったのもこの映画でした。仲代達矢さんの迫力ある演技はもとより、根津甚八さん原田美枝子さんは若手俳優として登場、この頃から存在感たっぷりです。

「39/刑法第三十九条」 1999年
犯行時に心身喪失状態であった時には責任能力がなく、心神耗弱時には極刑が免れるという刑法39条にスポットを当てる。法廷モノは結構好きなジャンルです。精神鑑定をテーマに二転三転する裁判劇で、法の網目を掻い潜る被疑者の行動や狂言に困窮する司法の現状に一石を投じる。監督は森田芳光さん。この作品と遺作となった「僕達急行 A列車で行こう」が同じ監督のメガホンとは信じ難い。
既に確定した罪罰では改めて処罰されないということを逆手にとったアシュレイ・ジャッド主演の「ダブル・ジョパティー」(1999年)と同時上映する企画はどうですか?

「ホタル」 2001年
特攻隊の生き残りである男とその妻の人生を描く人間ドラマ。特攻兵士たちの勇気と苦悩、それを見守った女たちの心の痛みと戦争の悲劇、空しさを浮き彫りにする。同時に後世への伝承やけじめのつけ方を、心情を語る抑えた演技で表現しています。主演は高倉健、田中裕子、監督は降旗康男。この三者の組合せは以前「夜叉」(1985年)でもあったような記憶が。夫婦役としては大滝秀治さんの遺作ともなった「あなたへ」(2012年)でも再現されています。

「FLOWERS-フラワーズ-」 2003年
四季折々の美しい風景を背景に、昭和初期から現代にかけてそれぞれの人生を賢明に強く美しく生きる3世代の女性たちを描きます。登場する6人の女性は、ある化粧品のCMに揃って出演したのですが、映画での役柄は必ずしも年齢順になっていないので、人間相関図を作りながら見ていくことをお勧めします。ある瞬間に登場人物の関係が親子であったり姉妹であったりすることが突然判りスッキリします。この映画はナオミ・ワッツ、アネット・ベニングの「愛する人」と是非見比べてみて下さい。

最近では「阪急電車 片道15分の奇跡」(2011年)もいい映画でした。関西のローカル電車を舞台としたハートフルな群像劇で、見終わった後にほのぼのとした気持ちにさせてくれます。バイオリズムが下降気味の方には、ぜひお勧めです。この映画が気に入った方は引き続き原田知世・大泉洋主演の「しあわせのパン」(2011年)をご覧ください。「ALWAYS 三丁目の夕日64」(2012年)も観る人にある程度展開を予測させながらも、実際にはそれをさらに上回るストーリーを展開し強い満足度を提供してくれます。
また、個々の作品というよりは俳優で観るのは渡辺謙さん。最近では「ラストサムライ」(2003年)「SAYURI」(2005年)「明日の記憶」(2006年)「硫黄島からの手紙」(2006年)「沈まぬ太陽」(2009年)・・和洋、硬軟どちらもOK、渋い役柄が素敵です。

以上、どちらかというと地味な映画を何本か紹介しました。いざ振り返ってみると古いアルバムの整理と同じで、作業が横道に逸れて前に進みません。映画の内容は忘れたものは多いのですが、その当時のどうでもいいような記憶が何故か蘇るのが不思議です。ここまで来るのに結構心地よい疲労を感じましたので、残りは次回ということで。次回までにはリストを再度見直し今度は洋画をセレクトしていきます。

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