連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第十三回 地域の劇場は市民の大事な財産です。(文化庁中間まとめを読んで)

可児市文化創造センターala 事務局長 篭橋義朗

地域における劇場・音楽堂は単に「もっぱら音楽、舞踊、演劇、伝統芸能及び大衆芸能等の文化芸術活動を行い、観客が見聞き等することを目的とした施設」では決してありません。そもそもの議論の入り口でズレているように思います。中小都市の劇場・ホールの建設においてはそのまちの財政力の極めて大きな部分を使用します。わが可児市を例にすれば約20年間にわたって基金を積み増して市民の夢を実現しました。可児市の一般会計の予算額が約230億円の頃に可児市文化創造センターは3カ年の継続事業ですが128億円を要して建設されました。先の基金と地方債で大部分をまかないましたが、まさに一大プロジェクトです。全国レベルで見ても劇場・ホールの建設は首長選挙等の大きな争点になるくらいの大問題を解決して建設されています。したがってそのまちの文化振興とか舞台芸術を鑑賞するだけの理由で建設されているのではなく、最終的にまちづくりであり、住民の帰属意識の醸成であり、活性化の起爆剤として重要な意味を持っていることを理解するべきです。従ってその後の運営においても当初の建設目的を実現するための活動をしなければなりません。私たちはそういう前提に立って劇場法(仮称)の成立に期待しています。

中間まとめでも記述されているように文化関係予算は減少しています。限られた予算をそれぞれの施策に配分するにあたっては優先順位に従わなければなりません。厳しい財政状況の中でそれでも予算を確保するためには「文化芸術鑑賞を一部の市民及び他市の住民に提供している場合ではない。豪雨災害で堤防を治さなきゃならない。放課後児童クラブの運営費が足りない。福祉助成事業も見直さなきゃならない。」などの施策とまともに対峙しなければならないのです。文化芸術関係の専門家は「そもそも比較するべき事柄ではない。」と一蹴されるでしょうが、中小都市の予算編成過程ではそれを乗り越えなければなりません。そこで文化芸術活動の狭い範疇での必要性のみでは、私が財政担当でも大幅減額は免れません。地域社会にとっての劇場・ホールの必要性、効用を高らかに謳ってもらいたいと思っているのは私だけではないと思います。折しも東北の大震災で再確認されたコミュニティの必要性、絆の重要性、生きる元気に対して劇場・ホールがなすべきことをさし示してほしいと思います。そのことを具体的に舞台作品であったりアウトリーチで説明し続けていくことが劇場・ホールの運営であると思っています。法によって地域の劇場・ホールの存在理由が明快に理解されない以上、予算の削減は必定です。元も子もありません。

可児市ではアーラを重要な行政施設としてまちづくりをしようとしています。それは中間まとめにある「文化の振興を目的として設置され、・・・文化芸術活動を行う機能を有する文化施設を『劇場、音楽堂とする』」という規定から離れていくことになります。アーラでは文化芸術活動は文化芸術の振興だけではなく教育、福祉、多文化共生、人権などの各分野と連携してまちづくりそのものに直接コミットしていこうとしています。中間まとめのニュアンスとして文化芸術の振興が回りまわって健全な社会の構築に資するというのでは現在の住民の納得を得ることはできません。

今回の中間まとめには民間事業者の役割が記述されていますが、もともとの設置目的が違う施設まで含めることには違和感があります。心や精神の公共事業として公立劇場・ホールが設置され、経済的利益よりも精神的利益を追求しなければならない私たちにはこの法律の制定目的が不明確に映ってしまいます。指定管理者制度の実態として経済至上主義的な運営に弊害が出ていることを私も聞いています。市民の大事な財産である公立劇場の設置目的がぼやけています。劇場法(仮称)における民間事業者においてもそのような懸念が払しょくできません。

公務員は法律を根拠に行政を行います。公立文化施設の設置者である行政としては国が考える劇場・ホールの姿として今回の劇場法(仮称)に規定される文言が全国の考え方の標準になるのであればそれをもって他施設、他施策と文化施設との重要度の比較を予算査定において査定されることになります。全国レベルでもこの傾向が出てくるでしょう。国の方針、法律の趣旨は地域で頑張っている公立文化施設の職員のモチベーションを後押しするものでなければならないと思います。
今年2月に閣議決定された文化芸術の振興に関する基本的な方針の中の劇場・音楽堂等の充実について、において劇場・音楽堂等を「地域の核」としていることについて、私は劇場が「まちづくりの核」「住民の精神的支柱」と理解しました。アーラはそのような運営をしています。今回の中間まとめの後に出てくるであろう法律案に劇場が社会に元気を与え、人間の絆を形成する起爆剤となれることを謳ってほしいと思います。

このページの上部へ