連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第十回 アーラコレクションについて

可児市文化創造センターala 事務局長 篭橋義朗

8月31日から今年度のala Collectionシリーズvol.4「エレジー」の稽古が始まりました。(アーラコレクションシリーズについてはHPをご覧ください)9月2日に演出の西川信廣さん、役者で平幹二朗さん、坂部文昭さん、角替和江さん、山本郁子さん、大沢健さんとスタッフ、市民サポーター、担当職員との顔合わせがありました。私としては舞台やテレビでしか拝見したことがない"あの平幹二朗"と同じ部屋で同じ空気を吸っていること自体が信じ難く、市民サポータに対しても「よろしくお願いします。」と御挨拶され、サポーターともども恐縮しきりでした。新聞の地方版やケーブルテレビで情報が広がってきたら"騒ぎ"が大きくなるかもしれません。今年度は9月末まで稽古し、10月1日から8公演、10月13日から東京吉祥寺シアターで7公演、全国で8か所11公演を行う長丁場の事業です。

このアーラコレクションはアーラの演劇創造事業のメインとして平成19年度から取り組んでいます。地域劇場で第一線の役者、演出家が当地に滞在してゼロから舞台作品を制作するというのは全国で初めてではないでしょうか。その意味・意義は様々ですが、第一には可児市、アーラの文化芸術の蓄積です。これまでの地方都市の文化会館で行われる音楽や演劇の公演はほとんどが一夜限りの賑わいを作るだけで、文化芸術を消費するだけでした。可児市には何も残りません。宿泊さえも名古屋になってしまいます。アーラでもポップスの公演はそのような形となってしまいます。職員としては多額の予算がかけられているのに何ともむなしい作業をしなければなりません。しかしアーラコレクションは約40日間にわたって役者や演出家、スタッフが市内にある戸建て住宅やウィークリーマンションに滞在して自転車などで毎日アーラに通い稽古を重ねます。その行き帰り、休日などにはスーパーなどで買い物をし、居酒屋などにも出没します。日にちがたてばアーラのロビーを歩いている平幹二朗さんを観ても違和感がなくなってくるから不思議です。可児市の空気になじんでくるというか・・・。昨年の馬渕晴子さん、一昨年の音無美紀子さん、麻丘めぐみさんたちも市民サポーターたちと友達同士のように親しげに話していました。「芸術家のいるまち」という感じですね。
第二は市民の可児市、アーラに対する誇り、帰属意識の醸成です。
この町で日常的に一流の舞台作品が創造されていること、しかも大俳優の平幹二朗が40日間も滞在しているということは可児市が一流の俳優の創作活動を支えることができるということで、これは十分に市民の自負心を満足させます。周辺住民から「可児市はすごいね。」「文化芸術が盛んですね。」の羨望の声も聞きます。他市の住民から聞けば悪い気はしません。このことが可児市の印象を良くし、ひいては住んでみたい街、住み続けたい街というものになっていくのだと思います。衛館長の目指す可児市のシティプロモーションの一環としてのアーラということに大きく貢献していると思います。ちなみにアーラは今日(9/11)も大変な賑わいです。ちょっと紹介しますと演劇ロフトでは「エレジー」の稽古で西川信廣さん演出で平幹二朗他の出演者全員と市民サポーター数名がいます。美術ロフトでは高校生のための演劇ワークショップで文学座の若松泰弘さんが講師として高校生約30人が活動しています。主劇場では周辺の市民団体がフラダンスの発表会をやっています。出演者が250人です。小劇場では市内のピアノ教室の発表会です。先ほど「エレジー」の出演者の大沢健さんが休憩で芝生広場のベンチで芝生で遊ぶ子どもたちを眺めていました。公演用に華やいだ飾りをしたロビーは老若男女、多種多様のみなさんが入り乱れています。
第三には職員の舞台制作スキルの向上です。
アーラがオープンした2002年当時の制作職員はほとんどが初心者であり、制作としての育成が急務であったころに当時アーラの舞台技術課長であった我が国を代表する舞台監督さんに言われたことがあります。「舞台作品を一本作らせることが最短距離です。」との言葉が今も私の頭の中にあります。当時の私ではなかなか理解できなかったのですが、今になって考えるとまさに言い当てていたと思います。ただ、当時のアーラではそれを実現するには組織的スキルの面において時期尚早であったのですが5年目になってその舞台監督さんの紹介で一人の職員を新国立劇場の制作見習いとして約三カ月の研修に出しました。たった三ヶ月でしたが制作現場を体験してきたことによる自信と身のこなし方とかが見違えるようになって帰ってきました。現在のアーラコレクションでもしかりですが舞台芸術に関する基本的なこと(予算のこと、役者やスタッフとの関係、煩雑な手続きの関係など)が詰まっています。それが劇場を市民が利用するときにも大いに役立ち様々なアドバイスができるようになっています。

アーティストインレジデンスの演劇版となるわけですが、地域劇場においてはこの手法が決定版だと思います。全国的には劇場に付属する芸術団体、オーケストラ、劇団などがあるところが優れているように思われがちですが、現状では県立または大都市でしか例がありません。施設の特色として「区別」はあっても「優れている」とは言えないと思います。でなければ中小都市の劇場・ホールとしては必然的に運営モデルとすることはできないからです。圧倒的多数の地域ではそのようなことが無理であり、やるべきではありません。演劇でいえば地域に東京から未だ無名(地域では)の役者や演出家に移住してもらって年間の生活費を支給し作品創造にあたりながら地域にワークショップに行くということが考えられますが、まず作品についてはレパートリーを創ったとしてもいつも同じ演目になるわけで収支は全くとれません。さらに稽古場として施設を占有しなければならず、誰のために作った施設なのかという疑問に全く答えられません。予算的には人件費と制作費(新作)で1億円から5千万円の間でしょうが、検討の余地はありません。このようなことを念頭に私自身の立場(事務局長)としてはアーラコレクションの事業決定にはかなりぎりぎりの政策的決断を要しました。しかし、過去に評価された舞台作品のリメイク、大がかりな舞台装置はないこと、出演者が著名であること、全国公演もできる上質なもの、期間が限定されていること、市民が参加できることなどを考慮した結果、アーラにふさわしいと思いました。特に今回は文化庁芸術祭に参加できましたので頑張りがいもあります。何か事件が起こらないかな、と思っています。

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