連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第九回 森山威男ジャズナイトのこと

可児市文化創造センターala 事務局長 篭橋義朗

「"山下洋輔トリオ"のドラマー森山威男が可児市に住んでる。」と聞いたのはアーラがオープンする2年前。2000年のことでした。Jazzについての知識がほとんどなかった私は、山下洋輔トリオが60・70年代にパワフルで前衛的な演奏をするすごいバンドということだけで、自分はJazzに興味はなく、あまり知らなかったのが実情です。アーラの建設とオープンの準備に奔走していた私に知人が会う機会を作ってくれましたが、私にとっては初対面であり、当然名前も知らない状態で対面することとなった。緊張しながら会ってみるとそのビッグなプロフィールからは想像できないくらい穏やかでやさしく、そして軽妙な語り口は人をひきつけるに充分でした。そうそうたる友人達のこと、Jazzのことなどその話にぐいぐいと引っ張り込まれ、気が付いたときにはすっかり森山さんのことが好きになっていました。それもまだ演奏を聴かないうちにです。
私が生で森山さんの演奏を聴いたのはそれから程なくして、多治見市笠原のスタジオFで森山威男カルテットのライブがあった時ですが、まさに衝撃的でした。その迫力、音量、叩く姿、どれも圧倒的に包み込まれました。そして最も驚いたことがありました。それは・・・。普通、ドラムの音量を上げると"やかましい"、"騒々しい"、"他の楽器の音が聞こえない"などいいことは一つもないのだが、森山さんのドラムは美しいのです。表現がおかしいかもしれませんが、鼓膜を強く振動させるだけではなく、鼓膜を通り越して脳に、心臓に、そして心にまでその振動が伝わり、なんとも心地よくなるのです。こんな経験は初めてでした。どうして森山さんのドラムだけにそんなことを感じるかということは後に述べますが、とにかくアーラのオープンまでは待てない。一日も早く市民に聴いてもらいたい。そう思ってアーラのオープン前年の9月に可児市福祉センターで演奏してもらうことをお願いしたのです。「森山威男ジャズナイト」でした。私は忙しさのせいもあったのですが、なんの変哲もないシンプルなネーミングでした。しかし、ただのJazzコンサートでJazzファンだけが聴くのではなく、Jazzを知らない人にもどうしても聴いてほしかったことから、主催者としてコピーをつけさせてもらうことにしました。「魂を打ち抜く!Jazzドラマー」とさせていただきました。「魂」としたのは森山さんの音は耳ではなく、体でもなく、頭でもない、もっと人間の深いところの部分に響を与えるから。「打ち抜く」としたのは本当は「撃ちぬく」にしたいぐらいでしたが、ドラムと離れる恐れから「打つ」として、森山さんがそのスティックに思いを込めた乾いた音が、鼓膜が振動するヒマも与えず脳天から体中を突き抜ける感覚を表現したかったからでした。まさに快感なのです。後日、"森山ドラム道場"としてアーラにおける講座の中で森山さんが強調していたのは、演奏するにあたって最も重要としていることは「正確性」であるということです。それを聞いて大音量のドラミングがどうして美しく聴こえるかという私の疑問は解決しました。そう思って聴いていると、自由奔放に叩いているように見える森山の演奏が、確かな技術に裏打ちされたひとつひとつの音が均等に、力強く、同じ強さで叩かれているのが分かります。
2001年9月に福祉センターから始まった「森山威男ジャズナイト」は翌年にアーラの主劇場に場所を移して今年で11回目を迎えることとなります。これまで山下洋輔、ケイコ・リー、ジョージ・ガゾーンなどのゲストを交えて開催してきていますが、可児市民の来場者が期待以上に多く、その反響も「こんなすごい演奏は聴いたことがない。」「こんなすごい人が可児市にいるなんて・・・。誇りだ。」「パワーをもらった。生きる元気が湧いてくる。」「これを聴かないと夏が終わらない。」「Jazzは知らないけどすばらしい。」など、Jazzをよく知っている人からの賛辞もいっぱいでうれしいのですが市民の反響が何よりもうれしい。ただ、森山さんのJazzはよくある耳触りのよいおしゃれな音ではありません。圧倒的な音量とパワフルな演奏で、Jazz界からすれば異端児でしょう。それが東京のコアなファンが集まるJazzスポットではなく地方の公共ホールで毎年多くの観客を集めるということは極めて稀なことだと思います。
毎回いろんなアーティストを加えて開催しており、どの企画も面白くすばらしい。「これまでの演奏の中で今回が一番よかった。」と毎年言っていますが、ここまでやっていると、どの回がよかったか、ではないような気がします。それもそのはずで毎年、森山さんが全精力を注ぎ込んで叩く姿は聴く者の心を揺さぶり、陶酔させてくれることに変わりがないからだと思います。

この「森山威男ジャズナイト」は毎年9月の第3土曜日と決めて開催しています。お客様は北海道、九州、東京、大阪などから毎回季節の祭りのように訪れてくれますし、旧友に再会したような懐かしさに包まれます。そして何よりも可児市民や近くの町から同じ人が聴きに来てくれることに喜びを感じています。
このジャズコンサートは自主制作公演であることも強調したいと思います。プロデュースは森山威男、以下技術スタッフまですべてがアーラの職員ということが自慢です。具体的に言いますと、音響はアーラ舞台技術課の音響チーフが森山の最高の音を出すために打ち合わせを重ね、今では森山さんの指摘がほとんどないぐらいに熟練しています。ちなみにアーラの音響機材は森山威男ジャズナイトを基準にして整備してきたようなものです。照明も演奏する曲ごとに聴き込み曲のイメージを照明で表現できるようになっています。舞台監督はメンバーの配置やステージ上の導線や背景の道具を森山さんと話し合いながら作っています。みんな「世界の森山」のメインイベントを支えることで1年間のサイクルを考えているようです。

今年は9月17日(土)18:30からアーラ主劇場で開催します。会場でお会いしましょう。
最後にこの「森山威男ジャズナイト2012」以降をアーラ以外(全国)で公演できるようにしたいと思っています。もし公共ホールにいる職員の方がこれを読んでいましたら、お問い合わせしていただければありがたいと思っています。

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