連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第六回 「劇場法」(仮称)を地域にいて考えると

可児市文化創造センターala 事務局長 篭橋義朗

昨年から、文化庁では「劇場法」(仮称)の検討が進められています。典型的な中小都市にある可児市文化創造センター・アーラでも、法律ともなれば無関心でいられるはずはありません。国の動き、芸術界の動きをキャッチしていなければならないと思っています。劇場法についてはこれまで衛館長が幾度となく主張していることはみなさんご承知だと思います。もちろん私の考えも衛館長と一致していますので、あえて私から言うまでもありませんが、地方公務員であり財団事務局長としてのフィルターを通すと以下のようになります。

地域の劇場・ホールは公民館や図書館のようにその根拠となる法律が整備されていないことからその運営の仕方も千差万別となります。これを考え方の上で統一しようというのが今回の劇場法(仮称)の検討課題だと思います。まずは劇場法の領域が公立文化施設を対象とするものであるならば、市町村立の劇場・ホールは現状でどういう設立根拠を持っているかから考える必要があります。

地方自治法第244条で「普通地方公共団体は、住民の福祉を増進する目的をもつてその利用に供するための施設(これを公の施設という。)を設けるものとする。」とあり、第244条の2で「普通地方公共団体は、公の施設の設置及びその管理に関する事項は、条例でこれを定めなければならない。」となっています。可児市文化創造センター・アーラも公の施設として可児市条例を根拠に設置されています。

可児市の私が全国の地域劇場で働く職員や文化振興担当部署の気持ちを想像すると以下のようになります。
その職員の意識、行動の根底には地方自治法の精神があります。その第1条の2で「地方公共団体は、住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものとする。」と言っておりこれが基本となります。この自治法でも公立の劇場・ホールのことを「公の施設」としているだけでその運営の基本は示されていません。それが全国で千差万別の運営がなされている原因だと思います。その「千差万別の運営方法」が芸術界などの不満や地域住民の様々な要望につながっているのだと思います。
そして何かの根拠によりかかりたくなった場合に、類似の施設である公民館の運営方法があります。それは社会教育法の第20条の「公民館は、市町村その他一定区域内の住民のために、実際生活に即する教育、学術及び文化に関する各種の事業を行い、もつて住民の教養の向上、健康の増進、情操の純化を図り、生活文化の振興、社会福祉の増進に寄与することを目的とする。」というものです。第23条で営利目的事業や選挙目的や宗教支援が禁止されています。さらに図書館法では「利用料金は徴収してはならない。」とあります。この二つの法律は歴史も長く、市町村職員の意識に強く影響していますので、芸術関係者に対して職員の対応が厳格な印象を与えるのはこの意識が原因となっているのだと思います。
ちなみに可児市文化創造センターの建設(2000年)に当たっての主要な財源は約57億円の基金と約59億円の借金です。この借金は地方債といいますが、当時の国の施策である地方の均衡ある発展のための「地域総合整備事業債」(元利償還金の30%を交付税算入)として主にまちづくりの核となる文化施設を建設するという理由で国から借り入れを許可されたものです。その返済が終わるのが平成34年です。今でも毎年3億円ほどの返済が続いています。したがって論理的には建設に係る資金の調達理由は生きています。ということは「まちづくりの核」として建設されたものを時が過ぎたら劇場法(仮称)によって文化芸術だけに傾斜していくことは建設財源の調達の理由から言っても筋が通りません。おそらく全国の大部分の劇場・ホールは可児市と同じように財源を調達していると思います。最近では「市町村合併特例債」でしょう。その許可理由も住民の融和とかランドマークとしてという理由だろうと思います。

一方で厚生労働省所管の興行場法では第1条で「「興行場」とは、映画、演劇、音楽、スポーツ、演芸又は観せ物を、公衆に見せ、又は聞かせる施設をいう。」、第1条の2で「「興行場営業」とは、業として興行場を経営することをいう。」とあります。明らかに民間の劇場のことを言っています。しかし、一般的に住民が理解している公立の劇場・ホールの事業に関する感覚はこの形に近いのではないでしょうか。だから自主事業をやって賑わいを作ると「儲かってますね。」と反応されます。実際は 施設維持管理経費と人件費を合わせれば黒字となっている公共ホールは全国に一つもありません。興行だけで利益が生まれるのであれば、民間劇場が全国の地方都市にいくつもあって不思議ではないでしょう。いや民間劇場でも劇場単体では非常に厳しい状況であるのではないでしょうか。

そして最後に平成13年に施行された文化芸術振興基本法第4条で地方公共団体の責務として同法の基本理念にのっとって各種文化芸術施策を策定し実施することが謳われております。この基本法によって一定の設立運営根拠が説明できているのではないかと思います。文化芸術振興施策が行政においても「地方公共団体の責務」と明言されたことは画期的であったと思います。

これらの考え方を総合して劇場・ホールを運営していますが、以上を整理して繰り返すと、劇場法(仮称)という「法」が文化芸術振興のみでいかに規定しようと、地方自治法を基盤として設置された公立劇場・ホールの設置理念は動かしようがありません。地方自治法がもとめる地域振興に資する地域文化の振興を任務とする職員(財団職員を含む)が運営、指導するかぎり空文化する恐れは十分あります。少なくともアーラでは実効性がありません。ましてや興行場法の足らないところを条文追加して実演団体が公演しやすいように改良するだけの「法」では論外です。そうなると現在検討されている劇場法(仮称)が全国の2,000を超える劇場・ホールの運営のモデルとなるには相当の時間と、芸術分野の専門家以外の幅広い知見を動員する必要があると思います。そしてそれは地方自治法が謳う住民福祉の理念と文化芸術振興基本法の理念が合成された結果でなければモデルとはなりえません。

さらには、この議論の中で多くの専門家や研究者、実演家が発言されていますが、その方々が地域劇場の設立根拠や郷土を誇りに思い共同体の中核施設としての劇場・ホールを盛り上げたいという住民の気持ちを理解しているとは到底思えません。せめて中小都市が総力を挙げて建設した唯一の劇場・ホールが地域住民に対してするべきこと、なすべきことの指針を示していただきたいと思います。

そこでどういう趣旨で法制化すべきかは衛館長の主張のとおりです。「館長エッセイ(2011.6.1付け他)」をお読みください。

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