連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第一回 はじめに

可児市文化創造センターala 事務局長 篭橋義朗

2010年度(1月)に地域創造大賞(総務大臣賞)、そして2011年度からの文化庁の「優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業」の地域の中核施設としての採択をいただき、これまでの可児市文化創造センター・アーラの活動が評価されたことに対して私は10年ほど前のオープン以来からアーラの運営に携わってきた者として、大きな達成感と新しいステージ立ったという期待と重圧の中にいます。これまでの事務局長として"現場"の様々な活動、経験を紹介していくことが、同じように劇場で働く職員の皆様、劇場運営の専門家の皆様の参考になればと思い、記させていただきます。

アーラの建設経緯は【市民参加でのアーラ建設詳細】にその経緯が詳述されていますので参考にしてください。これはアーラ建設にあたってそのファシリテーターとしてお世話になった名古屋大学の清水裕之教授が書かれたものですので是非読んでいただきたいと思います。ここに書かれていることは当時、市民参加でのホール建設が話題になり始めたころで、可児市としても市を挙げてのビッグプロジェクトとしてその手法を採用した結果の試行錯誤の詳細です。しかしこのことは現在のアーラ運営に強く反映していることから紹介させていただきました。

可児市では建設から運営に至るまでの理念の一つとして「市民と専門家と行政のコラボレート」を標榜しています。私たち職員はずっとこの3者を調整していくことによって劇場が運営されなければならないと思います。ともすると専門家にすべてを任せて従属したり、市民要望だけを基準に運営したり、または行政的判断のみで運営されがちになりますが、それでは道を誤ることになると思います。特に職員としては専門家、プロ、芸術家の意見に多大な影響を受けることになります。私も多数の研修、講演等で多くの意見を伺いました。専門家といえども必ずしも地域のことをよく知っているとは限らず、また人によって意見は微妙に違っています。芸術性が最優先であったり、経済性が最優先であったり、または東京での舞台芸術事情をそのまま持ち込まれたりします。そういう経験を何度か経てきましたが、今は職員としての力量はそれらの意見をいかにカスタマイズできるかにかかっているという考えに至りました。公立文化施設の役割は単に芸術の振興というあいまいな役割ではなくその地域の住民が生活の質を豊かにし、まちづくりの拠点、住民の心の拠りどころであるということです。可児市でいえば可児市民のことについては、ここに生活していないことには分からないということだと思います。可児市文化創造センターの館長の条件は舞台芸術の専門家であることと共に可児市で生活していただき、常勤であることです。そのうえで各種の施策を打っていくことが大事であると思います。そして職員は可児市での生活者としてのプロ、行政のプロとして誇りと責任を持って主体的にまちづくりのことを考え続けることが重要であると思っています。

劇場は公共施設の中でも特に専門的施設であると言われています。現実にたくさんの専門的領域があるのですが、それぞれの芸術分野の専門家はたくさんいますが「公立劇場運営の専門家」となるとこれは本当に少ないのではないかと思います。劇場運営の長は舞台芸術のことはもちろんのこと、マーケティングに関すること、資金調達に関すること、顧客サービスに関すること、市民参加に関すること、組織運営に関すること等々、およそ舞台芸術家だけの領域ではない分野も統括しなければならない職種であります。逆に考えればそれぞれの専門家を配し、統括できるならば必ずしも舞台芸術関係者ではない人材も劇場運営の長となることができるのではないかとも思っています。現にアーラではバースデーサプライズ(公演日の月に誕生日が属するお客様にバースデーカードとバラ一輪を館長が手渡しするサービス)をはじめとした各種顧客サービス、市内外におけるロビー活動、可児市の福祉、教育、多文化共生等の施策との連携などを実施してブランドアップや市民の支持の形成に努めています。これらはこれまであまり積極的に行われてこなかった活動ですが、そういうことが公立文化施設にとっては重要な成果であると思います。

以上のようなこれからの劇場にとっての重要な要素の必要性を衛館長による「館長ゼミ」(隔週)で職員全員は勉強しています。最近の文化庁の「優れた劇場・音楽堂からの創造発信事業」をはじめとする各種施策や文部科学省のコミュニケーション教育施策にもこの方向が表れているように思います。公立劇場が真に市民の生活の拠りどころとなり、頼りにされる存在となる方向の曲がり角に我々職員は立っているのだと思います。もともと公立文化施設の運営資金が公費で賄われているということは、そのオーナーは市民全員ということになります。したがってそこで働く我々の仕事に対するモチベーションはその報酬ではなく、文化芸術を通した公共的な使命を果たすことであります。教育、福祉、多文化共生、まちづくりなどの広い分野がフィールドであることを考えれば、我々は誇りと使命感を持って活動しなければならないと思います。衛館長はアーラについて、自身の"遺言"としてアーラにDNAを残すとまで言われ、たじたじとしながら事務局長としてはその責任の重さを痛感しているところです。

今後は、アーラの運営について施設管理を含めた細部にわたる施策の紹介、思うところを記していきたいと思います。よろしくお願いします。

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