連載 館長 vs 局長	「公共劇場」へ舵を切る その理念と経営の実際

第三十八回 「劇場法」で地域に活性化のきざしが。

可児市文化創造センターala館長兼劇場総監督  衛 紀生

2012年(平成24年)6月27日に成立施行された「劇場音楽堂等の活性化に関する法律」(いわゆる「劇場法」)と、2013年(平成25年)3月29日に公布されたそれに関わる「大臣指針」、さらに関連した2013年度(平成25年度)の「劇場音楽堂活性化事業」の予算が14億7000万円から30億300万円にほぼ倍増というドラスティックな外部環境の変化によるものか、最近は建物への視察よりも劇場経営に関するレクチャー視察依頼が目に見えて多くなった。あわせて、既存の劇場ホールの経営刷新のための経営コンサルタントの依頼も増えている。現在は私個人として3館を抱えているほどである。雪崩を打つような動きではないが、何かがゆっくりと動きつつあるという感触である。

今年度の「劇場音楽堂活性化事業」から「地域の中核劇場音楽堂」という包括的な区分がなくなり、「創造事業」、「人材育成事業」、「普及啓発事業」という活動別支援になって細分化されて補助金申請のハードルが下がったことと、地域巡回公演に対する「劇場音楽堂間ネットワーク構築支援事業」という旅費交通費、運搬費を10分の10で補助する、かつての「舞台芸術の魅力発見事業」に近い支援が復活して、「買い公演」のみで運営されている地域の中小館でも補助金にアクセスしやすくなったことが少なからず影響しているのではないか、とその「変化」を感じている。「劇場音楽堂間ネットワーク構築支援事業」は連携を組むのだが、概算払いはないために幹事館が一括して立て替え払いをしなければならないので、中小館にとっては重い負担感はあるだろうが、それでも「買い公演」の間接経費がほぼ全額補助されることは大きい。

また、支援システムの改変ということもあるだろうが、私は、「劇場法」が大いに論議され、多くの関係者が右往左往した2010年、2011年の際には傍観視していた、あるいは「自分たちには関係がない」と無関心であった地域の中小館と、改革意識なく日々の糊口を凌ぐように事業をこなしてきた中核都市の劇場ホールに何らかの動きが出てきたのには、「大臣指針」の功績が大きいと思っている。「大臣指針」が彼らの目線の高さで編まれていることが大きく影響しているのではないか。目の行き届いた「指針」となっていることで、中小各館が「劇場法」とそれに関する補助システムを身近に感じていることが、彼らの背中を押しているのではないかと思っている。

さる8月30日に来年度概算要求が発表されたが、不確定要素がまだ大きいものの、劇場音楽堂等活性化事業が30億300万円から37億4400万円に増額され、さらに同事業の拡充分として「子どもを対象とした支援プログラム創設」として4億9000万円が嵩上げされている。総額12億3100万円の増額となる。これは、文化庁がいかに地域の中小館や改革志向の中核都市館を重点化しているかの表われである。「子どもを対象とした支援プログラム創設」によって、「劇場音楽堂等活性化事業」へのアプライのし易さは今年度に増して門戸が広がったと評価している。結構なことである。現況をブレイクスルーしようとする改革意欲ある劇場ホールには何らかの「受け皿」が用意されているということである。

むろん問題がないわけではない。現況をブレイクスルーしようとする意欲は結構だし、そのための補助制度が整備されつつあることも歓迎するのだが、「外観」だけを整えても「内面」がともなわなければその改革意欲にはおのずと限界がある。2003年の指定管理者制度の導入以降、プロパー職員の「3年雇止め」が常態化している。「大臣指針」にも、「設置者又は運営者は、その設置又は運営する劇場、音楽堂等の設置目的及び運営方針を踏まえ、当該劇場、音楽堂等の事業の実施に求められる専門的人材の範囲の特定、確保の方法、職制等を明確にし、専門的人材を配置するとともに、各自の能力を十分に発揮し得る職場環境を確保するよう努めるものとする」とある。

また、「必要な専門的人材が配置されている施設にあっては、より質の高い事業を継続的に実施する観点から、年齢構成に配慮しつつ、分野ごとに必要な専門的人材を適正に配置すること」とも書かれてある。ここでより重要なのは「年齢構成に配慮しつつ、分野ごとに必要な専門的人材を適正に配置する」という件だ。日本の公立劇場やホールのヒューマンリソース・マネジメントにおいて、あまり顕在化してはいないがすこぶる深刻な問題に、正規・非正規の雇用形態が技術や人脈の継承を阻害しているという現実がある。「優れた実演芸術の公演等の制作、有能な専門的人材の養成・確保等に一定期間を要するという劇場、音楽堂等の特性を踏まえ、適切な指定管理期間を定めること」は、「指定管理者制度の運用に関する事項」にある文言だが、指定管理者制度が専門的な人材と技術の集積を阻害しているとの認識と危機意識が文化庁にはあるのだろうと推察できる。

いくら外側だけ変えて外面を整えても、内面がきちんと改革されていなければ、獲得した補助金はドブに捨てるようなものである。上記の「大臣指針」の文言の吟味を待つまでもなく劇場ホールの活性化の90%はヒューマン・リソース・マネジメントに依っている。それへの軽重によっては、事業という「建物」の基礎は脆弱な基盤にもなり、盤石な基礎を持ってさらに進化していく余力をも生むのだ。臨時職員の募集では「臨時職員」の器の人間しか集まらない。契約職員の募集では「契約職員」の器しか応募してこないのは自明である。5年を目途にして「正職員への登用」を謳っているところもあるが、「そうしても、職員の質がね」との財団幹部の発言を耳にしたことがある。「入口」に制限を設けているのだから、いくら一定年数後に正規雇用にしたって、募集した時の最初の枠内の質の人材しかいないのは分かり切ったことだ。「3年雇止め」の常態化は、幹部職員と設置者たる自治体の見識のなさの結果である。劇場ホールは「サービス業」である。サービスは「モノ」がするのではなく「ヒト」がするのである。ならば劇場ホールに肝要なのは「ヒト」であり、その「ヒト」が持っている、そして日々「利息」を生んで行く「関係資産」が重要なのは分かり切ったことである。

この内部改革をして初めて、「劇場音楽堂等活性化事業」の果実が生きてくるのである。「大臣指針」の精神を汲み取る、ということはそういうことではないか。補助金のハードルが下がり、門戸が広くなったことは結構なことであり、評価するのだが、「雇用」に関する改革を置き去りにして「棚から牡丹餅」の補助金だけに期待するのは真の改革思考とは言えない。「燈台下暗し」にならないように警告しておく。「雇用改革」が進んで初めて、いまの「きざし」が大きなうねりとなり、地域の活性化へと実を結ぶのである。

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