スマイリング ワークショップ インタビュー

2020年12月01日

学校に行きたくても行けない子ども達が、
自分らしさを見つめ、取り戻すために

2020年度は小中学校に出かけてのワークショップが新型コロナウイルスの影響で中止となる中、7月、市総合会館内にある教室『スマイリングルーム』と東京の講師をオンラインでつないでワークショップを実施しました。スマイリングルームでは、毎年1年を通して10回程ワークショップを実施しています。振り返ると今年で8年目という長いお付き合いです。このワークショップはどのような活動なのか、市教育研究所の成瀬英員先生、講師の新井英夫さん(体奏家・ダンスアーティスト)と黒田百合さん(劇・あそび・表現活動 Ten seeds主宰)にお話を伺いました。


- 可児市の『スマイリングルーム』という教室について、まず成瀬先生あらためて教えて頂けますか。

成瀬 スマイリングルームは、さまざまな理由で学校に行くことが出来なくなってしまった子ども達が、自分を見つめて自分らしさを取り戻して、学校復帰ができるように支援していく、子ども達の居場所になるような教室です。現在、通室してくる子ども達の人数は日々さまざまですが、平均して1日あたり10名程通ってきています。一人ひとりが自信を持って自分の人生を歩んでいけるように、それをお手伝いする事が私たちの役割であると常々思っています。

スマイリングルームは第1に「子ども達の心の居場所」、第2に「子ども達の自主性・自発性を育てて、対人関係が上手くできるように改善を図る」そして「スケジュールに合った生活ができるように力をつけて、学習の力を伸ばす」ことを目的に日々活動しています。

- 例えば学校での人間関係だったり、家庭環境だったり、障がいがあって通うことが出来なくなってしまったり、子ども達によってその理由はさまざまですね。

成瀬 一言で《不登校》と言っても、一人ひとりが全く違うと思っていいと思います。子ども達への対応も年々難しくなってきています。学校での関係、家庭の問題、最近では発達障がいの子ども達も増えています。子ども達をよく観察していると、多くはとても真面目な性格。敏感な感性を持っていて、自分を表現する事、相手とコミュニケーションをとる事を苦手と感じている子が多いです。苦手な事を少しでもクリアして、良さを伸ばしてあげる。ワークショップには、実はここについて一番期待しています。

- ワークショップ実施にあたっては現場の先生と相談しながら展開を考えていますが、講師の皆さんはどのような所に重点を置いて活動をしていますか。

黒田 まず一番大事にしているのが、ここが安心できる場で、私たちも含めて安心できる大人達が寄り添ってくれる場所であるという事。そして、一人ひとりが違っていて当たり前なんだという事。もともとは演劇だからイコール表現なんですが、表現が上手くなって欲しくてこの活動をしている訳ではなくて、人と関わることによって子ども達が変化したり、人それぞれ違っている、あの子のこういう所いいよね、そういうのを見つける活動なんだと思っています。学校では、国語や算数などの教科だけでなく、運動能力が高いとか、楽器が弾けるとか、どうしても優劣評価がありますが、これが表現活動なら、違うことが豊かになると思います。お互いが認め合えば、お互いを知ることが出来るし、他者を理解することが「生きる力につながる」。そういうところが、文化芸術の得意なところかなと思います。出来てもいいし、出来なくても別にいい。早くてもいいし、遅くてもいい。ただそういう所をみんなが認め合えたらいい。共有できることが大事かなと思ってやっています。

時には参加したくないという子もいますよね。でも私たちがやっているのは、《つい参加したくなる》そういうことを最近はとても意識しながら活動しています。例えば蜘蛛の巣みたいにビニール紐を部屋中に張り巡らせて、紐に触れないように潜り抜ける活動では、やりたくないと言っていた子にも、「ちょっとここ持ってて」とか、「ハサミ貸して」とか、その一言一言が実はやりとりになっていて。表現とか関わりが苦手だったりする子ども達も、短いフレーズの中できちんとコミュニケーションを取っている。実はそういう小さなやりとりが表現の入口だったりするので、そんな《ついやりたくなるような》入口を一緒に探しながらやっていけたらいいなと思っています。

新井 活動する上では、《人と違っていていいんだよ》ということを感じてもらえるようなことを大事にしています。でも本当にバラバラで個々が分断していてもいいということではなくて、《それぞれのペースで人と関わる事も面白いよね》と、両方いいバランスでやっていきたいと思っています。

ワークショップへの参加の仕方も、いろんな関わり方を担保しておきたい。先ほどの「紐を持ってあげる」とか、それも参加だよねって、個を尊重した上でお互いに認め合う。ありがとうを言葉で言えたり態度で示せたり、積み重なっていくことによってこれまで学校や家庭の中で味わえなかったような自己肯定感や人とつながる喜びを少しずつ積み上げられるんじゃないかなと思う。

「自立っていうのは、依存できる先をたくさん持つ事」自立支援の研究者 熊谷晋一郎さんの言葉です。自分で全部できることが自立と捉えてしまうと、それは誰もが苦しい。ちょっとずつお互いに頼っていいんだ、ちょっとずつ支え合えるよ、ということをワークショップを通じて言葉だけでなく、からだの実感で伝えたいのです。

この活動のいい所は、失敗がない事。もし本人が失敗したと感じても、誰かが助けてくれるし一緒に面白がれる、それも個性として認められる。そもそも成功・失敗って何? ちょっと視点をずらせば、失敗とか成功とか、こんなに価値観が変わる。そういった力がアートにはあるんじゃないかと思う。

ここ数年はスマイリングワークショップの内容にさまざまなアートの要素を加えています。造形であったり、即興で好きな音を出すといったような、言葉以外の表現活動も少しずつ入れるようにして、バリエーションを考えています。

- この状況下で、2020年7月、スマイリングルームと東京の新井さんの自宅をオンラインでつないでワークショップを行ってみました。実際にやってみていかがでしたか。新たな発見などはありましたか。

新井 スマイリングルームの子ども達にとって、例えば集団で何かをやるだとか、皆の前で何かを表現するという事は非常にハードルの高い事だと思うのです。でも今回、一番始めに大きな画面で部屋全体を映してもらって、画面の中央に出て来てね、とやってしまったんですけれど…。いやぁ、みんな出て来ない、出て来ない(笑)。恥ずかしいですからね。でも途中から、タブレットを2人で1つ持っての活動に移ると一転、積極的に参加してくれて。例えば表現してくださいと言って指先だけちょっと動かしていたら凄く小さな表現だけど、タブレットのカメラに向かってやると、とても大きな表現になりますよね。機器を通したからこそ小さな表現や表情を伝え合う事が出来て新鮮でした。そして画面上だと、それぞれ一人ひとりに同じチャンスが与えられている、平等と安心がある。席順も声や体の大きさも関係ない。オンラインならではのコミュニケーションの可能性も感じました。

ビデオWEB会議アプリを用いての東京⇔可児「リモート・ワークショップ」

成瀬 子ども達にとって、この小さなスマイリングルームでも非日常の体験ができる、まずそれが幸せで。リモートでのワークショップでは、新井さんが何か指示を出されて子ども達が何かするような、受け身の活動になるのかなと思っていたけれど、想像とは遥かに違っていた。子ども達の側から発信できる工夫がなされていて、これが本当に良かった。あくまでも互いの関わり合いを大切にされているなと。スマイリングルームに通う子ども達の年齢はさまざまで、今回のワークショップでも小学2年生から中学3年生までいたけれど、全く同じ土俵で出来ていたのが素晴らしかった。みんな興味も関心も違う、発達段階も違うけれども、お互いがよい影響を受け合ってサポートし合える仕組みができるんじゃないかと感じました。そういう体験を通して、子ども達の中に自信とか自己肯定感が高まってくるのではないかなと感じました。

- 先生や子ども達の声を聴きながら、これまでも活動内容に新たな展開が生まれて来ていますが、今後スマイリング ワークショップでやってみたい事、引き続き大切にしていきたい事などはありますか。

黒田 スマイリングルームで安心して活動できる子どもたちに、外とつながって欲しいという気持ちがありました。ちょうど可児市民ミュージカル『君といた夏』があり、私が演出していたのでスマイリングルームの女の子に裏方のお手伝いで、衣装のタグ付けをしてもらった事がありますが、生き生きしていましたね。クッキーをみんなに作ってきてくれる優しい子なんですが、それが本当にうれしかったです。学校ではないまた別の世界で、自分が出来る事を考える。それが「生きる力」になっていくんですね。

またこれまでにもスマイリングルームや先生対象のワークショップでやったことがあるのですが、「教科書を遊ぶ」活動をこれからも取り入れていきたいと思っています。日本地図で遊んだり、中学生以上だと歴史年表で遊んだり、《体感して遊ぶ》事を表現の他にもやっていきたいです。「学びあう」ことから「知りたくなる」気持ちが出てきたら嬉しいですね。

スマイリング ワークショップでは、Ten seeds メンバーの中でも必ず私が行くことにしています。なぜかと言うと、今日こんな事をやろうとメニューを考えて行っても、子ども達の状態がその時その時で違ったりするので、その場で柔軟に変えていく必要がある、そのためにも継続的に子ども達を見ていく必要があるからです。「今この子と何ができるだろう」「今こんな事をしたら、どう反応するかな」とか常に考えていますが、関わりあうことの原点を、彼らから学ばせてもらっている気がします。

新井 感染状況の推移を見ると、これまで通り対面でのワークショップがすぐに出来るようになるのは難しいかも。対面とオンラインでも可能なワークショップ、複数の手段を臨機応変に選んでいくのが今は現実的なのではないかと思います。オンラインは体温の感じられないコミュニケーションだと否定的に考えるのではなくて、何かを発信するためには、必ず人と関わらなくてはならないわけだから、いろんな関わりを広げるツールとして活用できれば良い。原稿が書ける子はライター役を、カメラに映ってもいい子はナレーター役を、撮影する事も参加だからカメラマン役を、とか役割分担して動画作って発信するのもいい。オンライン・リモートの強みを活かして、海外の人とつながってみたり、他市・他県の同じように不登校児童・生徒さんの教室とつながってみたり…。そんな多様で新たな経験や学びに発展する可能性があるのではないかと思います。

そして対面でワークショップが出来るようになったら、アーラでやっている「親子対象ワークショップ」や「高齢者対象ワークショップ」にスマイリングルームの子ども達に来てもらって、僕たちのアシスタントをしてもらうって事もやってみたい。アーラのワークショップをまたいだ多世代間の交流を設ける。以前、スマイリング ワークショップに高齢者ワークショップ参加者の女性が飛び入りで参加した事があったんですが、これが面白かった。普段あまり参加しにくい子ども達にも、「あなた、やりましょうよ!」って彼女はどんどん子ども達に話しかけて新鮮な関係を作ってくれた。さすが年の功!普段恥ずかしがってやらないだろうなって子も思わぬ積極的な振る舞いを見せてくれました。とてもいいマッチング、家庭や学校以外での多世代間交流、アーラならではの豊かな出会いだったと思います。

- リモートでのワークショップでは、普段は出会えないような人ともつながって一緒にやることも可能だろうし、同じ可児市でも、学校にもスマイリングルームにも通えない子ども達の参加機会ともなり得ると感じます。

成瀬 スマイリングルームに通っている子ども達は、いろんな思いを心の中に抱えていて、自分の事を分かって欲しいと思っていたり、挫折感を持っていたり、疎外感を感じていたりするので、達成感とか必要とされる実感といった子ども達の承認欲求に少しでも応えられるような活動になれば、より効果的なものになるのではないかと思います。

先日のリモート・ワークショップの日の午後に、かつてスマイリングルームに在籍していた子がたまたま訪ねて来てくれていて。高校生になって生徒会にも入って頑張っているって。今日も午前中に今は22才になった子が遊びに来て懐かしそうに話をしていきました。そういう大きくなって活躍しているOB・OGにも何かいいヒントをもらえる、仲間に入ってもらう事もできたらなと思っているところです。

何よりもスマイリングルームの先生方の子ども達に対する真摯な姿、その普段があってこそより効果的な活動ができると思っています。居心地の良い空間を先生たちが作っているからこそ、卒業した子ども達も高校生になっても社会人になってもスマイリングルームに顔を出してくれる。これからも知恵を出し合いながら展開していけたらと思っています。

講師の皆さんは、その時その時の子ども達の気持ちを大事にプログラムを組まれていると毎回感じます。周りから認めてもらえないと感じていた子も、ワークショップの中で親和性があると急にその個性が輝き出す瞬間があったり、表情が変わったりします。その時にこのワークショップの価値を感じる事があります。これからもどうぞより良いパートナー関係で引き続き宜しくお願いします。

新井英夫 あらいひでお (体奏家・ダンスアーティスト)
野口体操を学び、「力を抜く、お手本は自然界」という自然哲学に深い影響を受ける。1996年にDANCE-LABO KARADAKARAを創立、主宰。公演活動の両輪として、障がいのある方、乳幼児から高齢者まで幅広い方を対象に「からだからダンスを発見する」ワークショップを展開中。
国立音楽大学、立教大学非常勤講師。

Ten seeds テン・シーズ(劇・あそび・表現活動)
演劇をベースとして乳幼児から高齢者、障がいのある方と共に創るプログラムを各地で展開している。演劇の可能性を信じ、町や人が元気になるための舞台づくりも行っている。代表の黒田百合は、アーラの市民ミュージカル 『君といた夏』 の演出を務めている。石川県七尾東雲高校演劇科非常勤講師。日本演出家協会会員。