大型市民参加公演 市民ミュージカル
 「君といた夏」~スタンドバイミー可児~

2022年07月04日

この体験が一人ひとりの「生きる力」に繋がっていく。

毎年恒例の大型市民参加公演。今回は「ミュージカル」の年。8月に出演者オーディション、10月から翌年3月の本番まで毎週末の稽古を5か月間。出演者・市民サポーターは100人を超え、演技・歌・ダンスが盛り込まれるため必然的にスタッフの数も多くなる。そして前回公演ではチケットが完売した、お客様の期待度も高い演目。・・・3度目の再演とは言え、このタスキを引き継ぐことは重いプレッシャー。


覚悟はしていたつもりだが、「想定外」の洗礼はオーディション初日から降りかかる。メインキャスト候補の男の子が「部活との両立が難しいから辞退します」と申し出る。目に涙をいっぱいためた彼を見て、慌てて本人とお母様を説得。ご理解頂けほっと胸を撫で下ろしたのもつかの間、今度はスケジュール調整の困難さが降りかかる。塾そして部活動など子ども達は何て忙しい毎日を過ごしていることか。天秤にかけて稽古を優先させたその選択を悔いることがないよう尽くさなければと心に決める。

この作品は、初演・再演で主役を演じた子たちが今回は不良役を演じたり、森の昆虫を演じた子たちが小学生役を演じたりと、出演者の成長を感じることができる。しかしそれが時に慣れ合いとなりちょっとした事件も起こる。1回目の劇場稽古終わりの楽屋の汚さに愕然とする。大切なところを軽んじてしまっているのではないか。翌週の稽古で子ども達を叱る。叱り慣れていないので、いろんな思いが交錯して胃がキリキリしてくる。「ここが学校だった良いのに」稽古場が楽しくて小学生が言ってくれた言葉も、今の私には「これが毎日続く…!?それは勘弁してくれ」としか思えない。伝えるべきことはきちんと伝えなければならない。そして翌週からの楽屋はピカピカ、それが他の楽屋にも影響され本当に綺麗な稽古場がそこに。分かってくれた事が嬉しくて心のモヤモヤまでも綺麗に。

森の昆虫そして動物チームは、ただただ可愛いい存在。通し稽古はきっと集中力持たないだろうと高を括っていたが、そこには食い入るように稽古を見つめる姿が。これまで自分たちの出演シーンしか知らず、初めて作品の全体像が見え、改めて役割を理解する。その日、目の色が変わり、そしてお気に入りシーンを覚えて真似をし始める。こうやって憧れは芽吹いていく。

インフルエンザの流行する冬期に行われる稽古。体調管理の注意は促してもやはり起こる時は起こる。本番前日に主役の1人が熱を出しゲネプロを前に大事を取って早退させる。もう祈るしかない事態。りす役の小学生が泣き始める。いつも周りに気を配っているしっかり者の彼女。小さな体で明日を心配する姿に「大丈夫だから」という言葉しか出てこない。翌日、元気になって戻って来た彼にハグの嵐。その姿を見て、「あぁ、いつの間にか仲間になっていたんだ…」と本番前に胸が熱くなる。

出演者という表方からサポーターという裏方になってくれた参加者も。写真は撮れるし、代役も出来るし、気が利くし、何と言ってもこの作品を愛していることが行動の端々から感じられる。スタッフの手が回らないところを見事にカバーし、小さい子ども達にとっては憧れのお兄さん的存在に。出演する以外にも作品づくりへの携わり方があること、裏方という存在への気付きのきっかけになったと思う。毎週末の稽古場レポートや衣装製作、小道具集めと、たくさんのサポーターの皆さんが作品を支えてくれている。ひとつの作品に関わる人の多さ、思いの重さを、当初感じていたプレッシャーとは違う、有難いという感情が勝っていく―。

 満員御礼となった本番の客席。それぞれの良い所を存分に伸ばしてくれたこれまでの稽古を自信に、いざ晴れの舞台へ。やりきった笑顔が、感極まった泣き顔が公演の成功を物語る。また今年も「君といた夏」への愛が年輪となる。

1つの頂きを目指して共に歩いていた仲間たちも、ゴールと共にそれぞれが違う道を歩き始める。これから向かう道には色んな事が待ち受けている。それでも、仲間と一緒にいた時間やエールのようなメロディ、ひとりひとりの「君といた夏」が、その時の自分を支え、奮い起こしてくれるはず。また会いたいな、帰りたいな、と思った時に故郷のようにそこに当たり前にあるアーラでありたい。

開催日程
【稽古】2017年 10月~3月(計43回) 【公演】2018年 3/3、4 (2回公演)
会場 ala 主劇場、演劇ロフト、ほか
参加者・出演者
【参加者】市民キャスト83人 延べ2,541人
【スタッフ】 脚本・作詞:瀬戸口郁    歌唱指導:満田恵子
       作曲・音楽監督:上田亨          殺陣指導:井上一馬(イッツフォーリーズ)
       演出:黒田百合                        演出助手:三井恵子、所村佳子、堀江ありさ
                      振付:神崎由布子      振付助手:齋藤瑞穂
集客数 計1,640人(全2回公演)