Special 『百日紅、午後四時』市毛良枝&鈴木聡 インタビュー

質の高い演劇作品をお届けする ala Collectionシリーズ の第13弾は、市毛良枝さん主演、鈴木聡さん作・演出の『百日紅、午後四時』。ただいま絶賛執筆中の新作舞台を前に、お二人が「人生100年をどう生きる?」をテーマに語らいました。

今回の舞台は、市毛さん演じる主人公の66歳の女性が、人生100年を前向きに生きるために新たな一歩を踏み出す、ひと夏の物語だそうですね。

市毛 そのようです。台本を受け取っていないので私はまだ何も知りませんが(笑)。

鈴木 僕もまだよく知りません(笑)。まだ執筆の途中 なので(*取材当時2022年7月時点)、これから変わっていくかもしれませんしね。いや、何かの記事で 人生100年 という言葉を見たんですよ。「100年も長生き出来るならいいな、これからまだいろいろなことが出来る」とポジティブに考える人もいるだろうけど、むしろ健康や経済的なことへの不安、これが一番大きいですよね。また健康や経済はさて置き、「これから私、一体何をしたらいいの?」と戸惑う人が多いと。そんな記事を読んで、これはちょっと考えなきゃなと思ったんですよ。

市毛 私の母が、あと二ヶ月で101歳というところで他界したんです。まさにジャスト100歳で。その100歳を迎えるまでの時間を見て来ていますから、私もやっぱり「人生100年って言われてもね…」と思ってしまうかも(笑)。不謹慎な話ですけど、とくに大きな病気もない場合、死ぬ理由がなくて大変だよな、というのが実感なんです。最後の5年間をいかに退屈させずに暮らさせるか、それにすごく苦労したので、これで本当に幸せなんだろうか…って考えてしまったんですね。


鈴木 そうでしょうねえ。

市毛 …と言いながら、その5年間に3回くらい、海外旅行に行ってるんですけど。最後まで、楽しいことをやりたい気持ちを絶対に捨てなかった。

鈴木 その意欲がすごいじゃないですか!市毛さんは、もし仮に健康で、お金の心配もない状態で100歳まで生きるとしたら、どうですか?

市毛 自分で自分のことを何でも出来るなら、100歳まで生きてもいいかな。

鈴木 きっと山登りをするでしょうね(笑)。たとえば僕ならずっとお芝居を書いていて、この先それが出来なくなる時がきっと来るじゃないですか。もうクリエイティブなことが出来なくなったら、死んじゃってもいいや…ってわりと最近まで思っていたんですよ。ところが、コロナ禍を経験して、出来るだけ長生きしたいと思うようになったんです。なぜかと言うと、この世の中の変化を見届けたいから。すごく強烈にそう思うようになりましたね。

市毛 なるほどね〜。この先どうなるか、見てみたい気はしますね。



主人公の女性が、先の人生を見据えてどんな決断をし、何を実行するのかが気になりますね。

鈴木 何を自分の軸として生きていこうか、思い悩む主人公にしたいと思っているんです。

市毛 我々の世代は、皆そうですからね。

鈴木 この『百日紅、午後四時』ってなかなかいいタイトルでしょ?

市毛 そうそう、このタイトルの意味は、台本を読んだらわかるのかな?と思っているんですけど。

鈴木 百日紅の花言葉が、”雄弁” ”愛嬌” 、それから ”不用意” なんですよ。だからこの主人公の女性は、おしゃべりで、愛嬌があって、ちょっと不用意なことを言ったりして問題を起こすんです。


市毛 アッハッハ、なるほど〜。ちょっと不安になって来ましたよ、そんなにたくさんしゃべる人にしないでくださいね。お手柔らかにお願いします(笑)。

鈴木 百日紅は真っ赤な夏の花で、生命力がある。人生100年を24時間に例えれば、66歳は午後四時あたりなんですよ。日は陰っていくけれど、これから美味しいものを食べて、お酒も飲んで、楽しい夜はこれからよ!となるわけですね。



まだまだ続く人生に向けた一歩を後押ししてくれる、そんな心豊かな演劇体験が期待出来そうです。

鈴木 よく”第二の人生” なんて言い方をしますけど、今までいろんなことを試してみて、自分にはこれが向いていて、これは向いていない、そんなふうにある程度、自分の能力の見極めがついて来ていると思うんです。力の使い方にしても、こうすれば効率的に出来るな…といった経験も積んで来ている。その経験を持って何か新しいことを始めようとするなら、若い時には出来なかったことも出来るかもしれないな…、漠然とそんな気がするんですよね。そう考えると、これからの残りの人生は終わりに向かっていく時間なのか、何かもう一回新しいことを始められる時間なのか、これは本当に気持ち一つのような気がします。これからまた幕を開けるぞ!と思っていたほうが元気になれるので、そんな主人公を描きたいですね。ただ、彼女の周りの人たちにはそれぞれの思惑があるから、「いやいやそんな、子供染みたことを!」とか「ちょっと冷静になって!」とか言う家族が出て来て、そこでまた思い悩んだり、また周囲も主人公に影響されて考えたり…。そのへんのてんやわんやを、面白おかしく、ちょっぴり真面目に、お客さんと一緒に考える芝居にしたいと思っています。

市毛 私は、「今から何者にもならなくていい」と考えると、何でも出来るなと思うんですね。コロナ禍になって思ったのは、もし自分が35歳くらいの俳優だったら、先のことを考えてすごく不安になっただろうなと。この年になったらもう何者にもならなくていい、贅沢しないと決めれば、そんなにお金もかからない。50年ほど仕事をして来て、年金世代になってしまうと、正直「ここから先、好きなことをしていいのね」って気持ちになったので。このお話の主人公みたいなことをするかは、分からないですけど(笑)。何でも出来ると思うと、楽しいですよね。

鈴木 「何者にもならなくていい」っていい言葉ですね。台詞にいただこうかな。(一同笑)

 

 

取材/上野紀子 撮影/伊藤晴世 協力/フリーペーパーMEG

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