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インタビュー:多文化共生プロジェクト 2020

 

人の輪、気遣いの輪、気づきの輪が広がっていく

可児市の人口の約7.8%(2020年7月1日現在)は外国にルーツのある人。alaでは国籍も年齢もさまざまな参加者たちが同じ時間を共有しながら1つの舞台を作り上げる「多文化共生プロジェクト」を2008年から実施しています。そこでは何が行われ何が起こったのか、プロジェクトに出演者・アドバイザーとして初期段階から携わる住吉エリオさんと、2018年より作・演出を手掛けている鹿目由紀さん(劇作家・演出家・劇団あおきりみかん主宰)にお話を伺いました。

多文化写真
(前列・左2番目:鹿目さん 中央・1番奥:エリオさん)

2018年から多文化共生プロジェクトの作・演出を務める鹿目由紀さん。作品づくりでは、出演者へのインタビューをもとに脚本を起こすというドキュメンタリー演劇の手法がとられています。インタビューから作品が生み出され、その言葉を本人が語るので、ドラマとしての演技のおもしろさと、その人自身のリアルな姿について知るきっかけともなるのが特徴だと思いますが、実際に作・演出に取り組んでみての印象と、過去2作品での創作上のエピソードを聞かせてください。

鹿目 ドキュメンタリー演劇というスタイルは初めてでしたが、参加する皆さんの人生をストーリーに反映させていく作業は、話し合いを軸に《人とのつながり》を深めながら創作を進めていくこれまでの芝居づくりと何ら変わらないと思いました。逆に参加者の声を先に聞いて制作を進める事に面白さを感じることができました。インタビューを通して日本で暮らしている外国籍の人が、言葉だけでなく文化や考え方の違いなど想定外の壁にぶつかりいろいろ悩んでいると改めて気付きました。それを掘り下げて脚本に起こし、この物語の中で何か解決の糸口が見つかればと思いました。毎年インタビューを重ねる中で、「この人に元気になって欲しい」という人に必ず出会い、そして出会う人によって作品の方向性が導かれます。

2018年の『ある夜、あるBarにて』では、ブラジルのバーは日本人がイメージするものとは違い、大人だけでなく家族で訪れたり、初めての人でも分け隔てなく仲間のように集う場であるとインタビューで聞き、「そういう交流の場が人を助けるような機能も果たしているのかな、そこがこの芝居そのもの」と感じました。そこで「可児市の何処かにある、ブラジルっぽいバー(BOTECO)」を舞台にしようと決めました。物語はブラジル人参加者ミネーロさんとの出会いが軸になっています。日本に来て6年、未だ日本語が拙い事に罪悪感を持っていて、日本では本来のお喋りで面白い自分が出せないと言っていました。その本音を彼自身の言葉で舞台でも話してもらおうと思いました。始めの頃は遠慮がちで無口だったけれど、稽古が進むにつれ明るくなっていく彼を見て、「ああ、これが本当のミネーロなんだろうな」という所までたどり着く事が出来たのが大きかったです。彼の変化は稽古の中でも感じられたし、劇中でもそういう物語になっています。

【ミネーロ】日本はいいところだよ。だけどね、今は居場所がないんだ。

僕はこれからちゃんと日本での居場所を見つけたいと思っている。

僕は牧場で育った自分を誇りに思っている。だからこれからチーズを作って売る仕事を

したいと思っている。

これから日本社会に入って行こうと思っている。ドアをノックして、そのドアを開けて、

日本社会にきちんと顔を見せようと思っている。だから今日、市役所に行ったんだ。

でも…ダメだった。全然うまく話せなくて…だけど一生懸命 身振り手振りする勇気も

なくて…諦めて市役所を出て来たんだ。

落ち込んでとぼとぼ歩いていたら、このバーの明かりが見えた。

 

【バーのお客さん達】自分の体験談を話す。

みんな同じだよ。みんないろんな悩みを抱えている。だけど必死に生きている。

ミネーロ、罪悪感を感じることはないよ。そしてもし悩んだら、いつでもここに来なよ。

ここが君の居場所だと思えるように、僕も、みんなも、喜んで受け入れるよ。

多文化写真
(2018年 稽古の様子)                                     (公演の様子 ミネーロさんの独白)

鹿目 2019年の『にぎやかなお葬式』では、お葬式にまつわる話を参加者一人ひとりに聞いてみたら、みんな色々なエピソードを持っていたのと同時に、国や宗教によりお葬式のやり方がさまざまである事が分かり、その会場を舞台にしてみようと思いました。そして長年、多文化共生プロジェクトを支えてくださっているエリオさんを役柄を通じて語りたいような気持ちになりました。そんな事を考えている時、エリオさんの知人の方が思い詰めて自ら命を絶ち、周りの方々が心を痛めているという話を聞きました。そこで「日本でも共存して生きていける」というメッセージを込めたいと思いました。エリオさんが天寿を全うして皆に見送られる役となり、たくさんの人と交流し温かく明るい彼の事を皆が語る物語。ブラジルで生まれたけれども、フィリピンの人とも日本の人とも関わりがあって、お葬式に集まって来るのは国籍も年齢もさまざまな人たち。そして遺言には「わたしが死んだら、お葬式は、好きなようにやってください エリオ」とあるように、ブラジルの花飾りに、日本の花輪、フィリピンのリボンと前例のない会場に葬儀場の人たちも困惑。お葬式に対する考え方や風習の違いから参列者の意見が交錯し大混乱に。皆が言い合いをする中で、ひとりの女の子が「エリオさんが、うらやましい。」と言い始める。「こんなに皆に愛されて、96歳まで生きて。わたしは今、毎日「生きていても意味がない」と思っている。」…心に秘めた彼女の言葉をきっかけに、参列者それぞれの胸の内も吐露されていき、故人を心から見送りたい気持ちはどんな国籍でも世代でも変わらない、ひとつのやり方が全てではないと。またそれぞれが抱えている「悩み」も、国を超えて共通するものがあると分かり合い、皆が自分の思う形で送るのがいいという事に落ち着き、最後はペルーのやり方を追加して皆で踊りながら棺を運ぶというストーリー。言葉も年齢も超え、文化と文化が融合しての最高の『にぎやかなお葬式』になりました。

 
(2019年公演の様子 参列者が心の内を吐露し、最後には固定観念を超えて故人を送る)

― 毎回、取材をしていく中で、作品のテーマやキーマンになるような方々・エピソードに出会われるという事ですが、インタビューをした人たちがそのまま役として舞台に立ち、それを演出する上で大事にされている事はありますか。

鹿目 例えばプロデュース公演でも市民劇でも、「一人ひとりのいい所を生かしていこう」という大きな目標がありますが、特にこの多文化共生プロジェクトでは、「密に人と知り合っていこう」という気持ちが更に強くなります。大きな目標以外にも、小さな目標も叶えたいという演出家としての欲が出てきます。例えば2019年の『にぎやかなお葬式』では、ビィトル君が描いた大きな絵がお葬式の最後に出てきます。これは、彼が将来、絵を描く事を生業としていきたいと考えているけれども、その夢を叶える事はなかなか難しいという事も分かってきていて。では作品の中で、夢を持っている人が「こういう事をやった」と自信につながるような場面を作りたいと思いました。そんな、それぞれの参加理由とか迷いなどを作品の中で叶えていくには、どうしたらいいかという欲張りな気持ちが出てきてしまいます。参加者それぞれを思い描いたシーンの稽古を進めていくうちに、彼ら自身の変化も見えてきたり、それがまさにドキュメンタリー演劇たる所以とも思いました。現場で全てが少しずつ変わっていく、肌で感じるというか、「今日は気持ちが上がっているな、落ち込んでいるな、嫌な事あったのかな」とか。プロの俳優だったら個人的な感情は作品に必要ではないかもしれないけれども、このプロジェクトでは出演者の気持ちと作品が合致している事が全てで、それがドキュメンタリー作品を作る、その在り方なのかなとも思いました。

― 出演者として参加し、近年は参加者同士をつなげるアドバイザーとしてもプロジェクトを支えている住吉エリオさん。参加のきっかけと参加してみて感じた事を教えてください。

エリオ 日本に来て20年になりますが、来日当初は、家と職場の行き来のみで仕事以外の楽しみがない状態でした。ほとんどのブラジル人は今でも日本に来たら仕事一色になる。ブラジルと日本では生活の仕方がそれほど違ってしまう。ブラジルでやっていた趣味を続けようと思っても、例えばスポーツをやるにしても、施設はどうしたら借りられるのか言葉の壁で分からない。それでも好きな事をやるべきではないかと思っていた時に、このプロジェクトに参加しないかと声を掛けてもらいました。ブラジルでは劇場に行くのも好きでしたが、いざ台本をもらってみると舞台で表現するなんて、最初は経験のない僕がいいのかなとも思いました。でもこのプロジェクトは、同じ町に住む人に自分を知ってもらう、いいきっかけになるのではと。人となりを知ってもらえたら、国籍を超えた関係性が築けるのではないかと感じました。そこで、プライベートで日本人と触れ合う機会がほとんどない周りの外国人にも参加を呼びかけました。出演することで地元の日本人とたくさん交流が生まれ、プロジェクトで使う日本語は職場で使う限られた単語ではなく日常会話なので、新しい日本語もどんどん覚えられたと思います。

参加者のバニーちゃんはプロジェクトをきっかけに地元の日本人と触れ合ってたくさん知り合いができました。彼女のこの10年の変化は凄い。変わったと思います。ミネーロは、今チーズ作りをしているけれども、作る時には周りの皆に声をかけて注文を受けたり、交流するなかで心が解放されていると感じます。日本人と気楽に普通に会話する事が良かったと思うし、日本語も上手になったと思います。日本に出稼ぎに来ているブラジル人は、これまではほとんどの人が派遣社員でアパート住まい。自治会に入ったり近所の日本人と知り合ったり、その勇気もなかったりしたけれど、いま多くのブラジル人が市内に一軒家を建て始めています。そうなったら、これからは日本のコミュニティに入らざるを得ない。国籍の違う人たちと触れ合うという事がこれからもっと大切な事になってくると思います。

― 今年は新型コロナの影響もあって、リモートでの作品づくりという初めての試みに挑戦中ですが、参加者インタビューを経ての感想と、今後の脚本の方向性について教えてください。

鹿目 継続してプロジェクトに参加されている方へのインタビューは、空気感が分かっているので画面上でも伝わるものが変わらないというか、むしろ一人ひとりに対して、より深く切り込んだ話までできた気がします。そして今回は多文化共生センター・フレビアの協力のもと、さつき教室(高校進学を希望する在住外国人の子どもの進学支援教室)の生徒さんへも授業の一環として「仕事」をテーマに話を聞き合う機会を頂きました。初めてお会いする人たちとのリモートでの会話は、少し遠慮がちでもあったのですが、とても面白かったです。後で先生が、教室ではわりと消極的だった子たちが積極的に参加して仕事に対する考えを話してくれたことに驚いたと仰っていました。

 
(リモートでの「さつき教室」生徒さんへのインタビューの様子)

鹿目 たくさんのインタビューをもとに、今回は、「とある人が生まれてから死ぬまで」について、粘土で作ったキャラクターに参加者が台詞を吹き込む動画を作りたいと思っています。これまでのように軸となる登場人物を設けるのではなく、このキャラクターに誰もが全部投影していくような。「誰でもない人間」として生まれて、例えば「ブラジルに生まれてこう育った」とか「フィリピンから日本に来てこういう夢がある」とか、キャラクターにどんどん色んな要素を入れていくことで、取材した皆さん全てをすくい上げるような作品にしたいと考えています。仮タイトルは『Trabalho (トラバーユ)』。ポルトガル語の「トラバーユ」は、「仕事」という意味ですが、いろんな場面で広い意味で使われるそうです。日本だと仕事はお金に結びつくイメージですが、子どもの世話やボランティア活動など時間をかけて行うことはトラバーユと言うそうです。とある人が生まれてから最後に死ぬまでに、何かいいトラバーユができたかという事を描きたい。そして作品が出来上がったら、観る人にとっても「自分はこの気持ち分かるな」とか、どこかの誰かにもリンクするような作品になればと思っています。

エリオ 今年は今までとは違う作り方だけれども、とても面白いと思っています。この状況の中で、違うやり方が出て来て、その方法を使いながら新しい作品を作るのはいい経験だと思います。これまでは稽古場に来てもらってやっていた事も、場所に縛られない分、妊婦さんや日本にいない人など、いつもなら参加してもらえないような人でも参加することができる。本来の自分のキャラクターのまま自分を表現して、それを知ってもらう事で外国人が地域に入りやすくなる、これをチャンスにするのがいいと思っています。

― これまでは公演会場に来られた限られたお客様に向けての発信でしたが、今回は映像作品ですので、多文化共生について考えた事がなかった方でも、いつでもどこでも気軽に観る事ができます。たくさんの《私のトラバーユ》が詰まった今年の作品を多くの人に届けて、《気付きの輪》が広がる事を願っています。作品は11月にYouTubeで公開予定です。

 

鹿目由紀 かのめゆき(作・演出/劇団あおきりみかん)
1976年、福島県会津若松市生まれ。劇団あおきりみかん主宰、劇作家、演出家。南山大学文学部卒。名古屋市在住。日本劇作家協会東海支部プロデュース「劇王」で四年連続優勝、第16回劇作家協会新人戯曲賞、若手演出家コンクール優秀賞、名古屋市芸術創造賞、平成22年度愛知県芸術文化選奨、第18回松原英治・若尾正也記念演劇賞など。『おそ松さん on STAGE ~SIX MEN’S SHOW TIME~』シリーズ、中村雅俊45thアニバーサリー公演 『勝小吉伝 〜ああ わが人生最良の今日〜』など外部脚本も手掛ける。平成29年度・文化庁新進芸術家海外研修(短期)でイギリス・ロンドンにて研修。日本劇作家協会運営委員。日本演出者協会会員。2018年度よりala多文化共生プロジェクトの脚本・演出を務めている

<ala TIMES 11月号(10/1発行号)巻頭特集に抜粋版を掲載>