第73回 衛館長!平成28年度芸術選奨文部科学大臣賞受賞おめでとうございます!

2017年5月12日

可児市文化創造センターala 事務局長 山口和己


このたび、可児市文化創造センターの館長兼劇場総監督の衛紀生氏が平成28年度の芸術選奨文部科学大臣賞(芸術振興部門)を受賞され、本市ではアーラを中心に祝賀ムードに包まれています。 私が、そのニュースを知ったのは、ご本人に内定の報があった翌日の2月某日の朝のことです。朝の朝礼が終わった時、「ちょっといいですか?」の一言で館長室に誘われた私。いつもとちょっと違う雰囲気に、館長が言葉を発する前に、「何かありましたか?」と心配する私に、静かに夕べあった文化庁からの電話の内容を話し始められました。「おめでとうございます!!」と込み上げてくるものを堪えてお祝いの言葉をかける
私に、未だ実感のないような表情で、「ただ、このことが正式に発表される前に他に漏れれば、無効になるようです」と淡々と話され、私はこのことが公にされるまでの一定期間、緘口令下に置かれることとなりました。

受賞理由は、館長エッセイや文化庁ホームページ等ですでにご承知のことかも知れませんが、館長就任以来、「地域社会への貢献」を掲げ、市内の中高生を主催公演に招待して劇場体験をプレゼントするという「私のあしながおじさんプロジェクト」を立ち上げ、さらに、平成27年度からは、親子が一緒に舞台芸術鑑賞を体験し、親子のコミュニケーションを取り戻す目的を持つ「私のあしながおじさんプロジェクトFor Family」を加え、大きな成果を上げたこと。そのほか、「まち元気プロジェクト」と称した各種事業を展開し、正に劇場・音楽堂の範となる「社会包摂活動」の先駆者、と評されてのものでした。

「私のあしながおじさんプロジェクト」とは、館長が当初非常勤として就任された平成19年度に始めた事業で、市内の企業や団体あるいは個人から一口3万円の寄付を募り、市内の中高生でクラシック、ジャズ、オペラ、演劇などの複数事業からお気に入りの事業を選んで応募してもらいチケットをプレゼントする事業で、鑑賞後には、各々協賛をいただいた「あしながおじさん」にお礼や公演の感想を手紙にしたためていただき、それをアーラが預かった上でまとめてお届けをするというものです。

平成27年度からスタートした「私のあしながおじさんプロジェクトFor Family」は、同じ原資のなかで、経済的に恵まれないことから就学援助を受けておられる家庭やひとり親家庭で児童扶養手当を受給されている家庭を家族ごと招待するというもので、平成28年度は延べ43組、124名のファミリーが鑑賞されました。 この市内の企業、団体、個人の善意に支えられた事業は、始めた最初の年の19万5千円が、平成27年度には60万円に寄付額が伸び、平成28年度には、当初予算に計上したこの60万円の原資が明らかに不足することが予想されたことから、担当職員が奔走して83万円まで善意を集め、何とか希望する中高生及びファミリーの希望をかなえることができました。最終的に両方合わせて延べ223人が鑑賞されました。

4月1日現在で、市内には市立中学校に通う中学生が2,773人います。高校生については、広域となり把握できませんが、仮に自宅通学者の進学率を80%とすれば、約2,200人の高校生がいることとなり、約5,000人の応募資格者がいることになります。応募資格は市内在住もしくは在学ですので、市内の私立中学校、隣町の私立中学校に通う生徒、また、市外から本市の高校へ通う生徒らを加えるとさらに数字は大きくなります。 また、「For Family」分野においては、平成28年度末の時点で、就学援助を受ける要保護、準要保護の児童生徒は545人で、一方、ひとり親家庭811世帯のうち、児童扶養手当を受給される世帯が672世帯。したがって応募資格者は545人と672世帯の家族ということになります。672世帯を単純に最低限の親子2人と仮定して1,344人、これに545人を加えると1,889人、上記の中高生と合わせると約6,889人の応募資格者となります。就学援助と児童扶養手当の両方に該当する家庭もあると思われますので、「For Family」の応募資格者は最終的には正確に予測す
ることは困難ではあります。

いずれにしても、これだけ多くの応募資格者が全員応募することはありえませんが、この中で応募される皆さんの希望は、概ね、現在寄せられている善意で満たされている状況と言えます。 衛館長が、学校単位、学年単位等の集団で鑑賞することの無意味さを訴えながら始められたこの事業。完全に定着してきた感があります。というよりも、さらに口コミ等で広がっていく様相を呈しています。

衛館長は常々「社会包摂」を論じられる中で、この「私のあしながおじさんプロジェクト」について、やる気さえあれば何れの公立文化施設もすぐに始められる事業として積極的に推奨してこられました。 予算は、市内の企業、団体、個人の善意に支えてもらい、チケットも「SOLD OUT」などはまずあり得ず、少なからず空席は生じるもので、この分のチケットを充てれば済むことです。余分にかかるものがあるとすれば、それは事務の手間くらいのことです。 企業等から寄付を募り、一方で鑑賞希望を募ってのマッチング、さらに善意が見えるような演出をした仲介、鑑賞後のフォローとフィードバックなどとなりましょうか。「For Family」に関しては、プライバシーに配慮しつつ進めるので、市役所との連携も必須となります。 こうした手間隙をかけて行うことについて、事務量や目先の費用対効果等で二の足を踏んでいては、将来の支援者は創り出せないし、日々の生活に追われ希望を失いかけている人々に寄り添うこともできません。

逆風に晒されようが、自分自身の信念を貫き、行動を続けてきた館長の姿勢は我々にとっての模範であり、目標としなければならないことだと思っています。 そして、それが今回の文化庁芸術選奨文部科学大臣賞受賞に繋がりました。本当に心からお祝いを申し上げます。