第67回 「正規職員」と「非正規職員」を考える

2016年3月31日

可児市文化創造センターala 事務局長 山口和己

アーラに来てまもなく1年が経とうとしています。1年間のおおかたの事業も経験し、劇場の雰囲気、決まりなども何とか身に着け、また、このアーラでの四季の移り変わりも一通り体感することができました。もう、「不慣れで…」などと言って甘えてはいられないと自分に言い聞かせて新年度を迎えようと思っています。

さて、この4月1日には、昨年4月に当財団で採用し、1年間契約職員として勤務してきた1名の職員を改めて選考会を経て正職員として採用します。また、この3月31日付で事情により退職する職員の補充として、1名の契約職員を採用します。そして、この契約職員もこれからの1年間しっかり勤務して、正式採用を目指していくことになります。

当館の衛館長は、「職員は大事な経営資源である」として、劇場音楽堂等における正規職員の雇用にこだわり、特に2003年の指定管理者制度導入後に、全国で加速度的に進んだ職員の非正規化への流れに非常に憂いを感じています。
私は、市役所に勤務してきたこれまでの間に、一般的に非正規雇用と称される「臨時職員」、「嘱託職員」、「期限付き任用職員」の補助事務に助けをもらってきましたし、また、その勤務条件を敢えて希望して応募される人たちの事情もよく理解しております。組織も大きく、多業種を抱える市全体の業務を効率的に行なっていくためには必要不可欠な存在だと思っています。
ただ、指定管理料を節約するために、劇場音楽堂等において闇雲に非正規職員を多用することについては、私も館長と同じく反対です。「非正規雇用」を簡単に定義付けると、①給与の金額が少ない、②雇用自体が不安定、③キャリア形成の仕組みが未整備といった特徴があり、一般的に日本では「パートタイマー」、「アルバイト」、「契約社員(期間社員)」、「契約職員(臨時職員)」「派遣社員(登録型派遣)」などと呼ばれるような社員・職員の雇用のことを言います。ヨーロッパなどでは、早い段階からフルタイム社員とパートタイム社員の均等待遇、すなわち同一労働同一賃金の動きがあり、たとえばフランスでは、1981年に、ドイツでは1985年に差別的取り扱いを禁止しています。EUでも1997年にパートタイム労働指令を発令。差別禁止と時間比例の原則が確立されました。

また、アメリカでは、人種や性、年齢などでの差別には規制をかけるものの、それぞれの雇用形態は企業と労働者の間の契約に基づくものとして、国は口を出さしません。しかし、契約の原理で、同じ仕事をしながら賃金に大きな差が出ることはありません。
このように欧米においては、正規、非正規という明確な区分はそれほど目立たないと言えます。むしろ、イタリア、デンマーク、オーストラリア、ニュージーランド、カナダなどでは、非正規労働者の賃金の方が正社員より高いと指摘する人もいるようです。
正規、非正規の区分(差別)が目立たないこうした欧米の土壌においては、出産、育児、介護等の個人の事情に合わせて勤務形態を可変的に運用することはそれほど困難なことではないのではないでしょうか。
一方、日本では、昨年9月の労働者派遣法の改正により、派遣期間の最長3年という制限を無くしました。政府が考える同一労働同一賃金を目指す一過程とも言える改正のようですが、ただ、これは、それまでの低賃金、恒常派遣を合法化する結果となり、本来目指す雇用の安定、保護を図ることに本当に繋がるのか少し心配な面もあります。

また、韓国が2006年に作った「非正規職保護法」は、雇用期間が2年を超えた有期雇用者は無期雇用とし、派遣労働者に直接雇用を義務付け、賃金・勤務条件で正職員との間に不当な差別をしてはならないとしましたが、2年勤務以前での大量解雇を生むだけに終わったようで、未だに労働者の地位向上には繋がっていないようです。
私は、同一労働同一賃金というような、正規と非正規の賃金や手当ての格差が解消されることがまず第1に必要な段階だと思います。そして、その次が、福利厚生等の溝を少しでも埋めていくことだと思います。しかし、究極の雇用期間の違いはどうしようもなく、それに伴う社会的信用性には、どうしても差は残ってしまうのではないかと感じていますし、正規は正規なりの責任を背負うべきだとも考えています。

目を、このアーラに移してみると、確かに衛館長の言葉のとおり、「職員は大事な経営資源であり、しかもそれは技術集積のみならず、社会的関係資本という「利息」を生む無形資産である」ということだと私も思います。そして、それは正規職員であることによって、モチベーションも一層高まり、責任と信用のもと、生み出す「利息」はさらに高いものになると考えます。
私は、【館長VS局長第58回~「男女雇用機会均等法」制定30年に寄せて】の中で、日本の産前産後の休暇制度や育児休業制度は、これまで行政主導で進められてきており、官公庁が率先して制度化、実施化を進めてきたこと、また、当財団が準用する可児市職員の休暇制度の内容を記載しました。
これに、年間、5日間取れる介護休暇等を加えると、出産・育児・介護に係る休暇が揃う訳で、さらに年間最高で40日付与される有給休暇を加えれば、当財団における休暇に関する福利厚生はたいへん恵まれたものであると言えます。

それでも、長くて育児休業の3年、介護については先がはっきり見えてきません。これが市役所のような大所帯でしたら、職員は休暇を取り、その間、期限付任用職員を充て、他の職員でフォローするなどして凌ぐ等の方法が考えられますが、このアーラでは、すんなりとはいかず、退職を選択してしまうケースがこれまでにはありました。
何とかこうした資産を失うことに歯止めをかけたいところですが、今のところ市役所のように、職員が休暇を取得中には非正規職員で補い、職場内での理解度を高めて復帰しやすい環境を整え、当該職員は休暇制度をうまく活用してシフト勤務等を和らげることで早期復帰を目指す、といった流れを作ることではないかと考えています。あくまでも、ケースバイケースということになるとは思いますが。
折しも、政府が「同一労働同一賃金」の実現方法を検討する有識者検討会の初会合を開いたという報道があり、5月中には「ニッポン一億総活躍プラン」に反映させ、年内中には不当な賃金格差事例などを示すガイドラインを作成することとなったようです。

この報道の中で、一億総活躍担当大臣は「子育て、介護と仕事の両立が可能となる働き方改革の実現が不可欠で、非正規で働く方々の待遇改善を図ることが大変重要だ」と述べておられます。そのとおりだと思いますが、現在のフルタイム労働者に対するパ-トタイム労働者の賃金水準を国際比較すると、日本の57%に対して、35年前に差別取り扱いを禁止したフランスで89%、31年前に禁止したドイツで79%とのこと、大臣の発言された社会の実現は果たして何年先のこととなるのか、大変気にかかるところです。