「アーラ・まち元気プロジェクト」のこれから

2021年12月11日

可児市文化創造センター館長 篭橋義朗

可児市文化創造センターの社会包摂事業のまとめである「まち元気プロジェクトレポート2020」を発刊しました。その巻頭あいさつを転記します。

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「もともと私たちはつながり、支えあい、触れ合って生きてきた。これからも」

2020年度は新型コロナ禍の一年でした。会食の制限から飲食店の時間制限、酒類の販売禁止、営業自粛、旅行の自粛、学校では休校から始まり分散登校、給食は黙食、修学旅行や運動会や部活動の縮小など、およそ人々の喜び、楽しみ、癒しの機会がすべて奪われました。私たちはそれまで意識するとかしないにかかわらず、その喜びや楽しみや癒しから明日に向かって生きる力を蓄えながら生活していたことを痛切に自覚させられました。そしていまだに「我慢」の日々を送っています。それまでの喜びや楽しみ、癒しの経験があるからこそ我慢できるのであり、コロナが終息した後の期待も込めて今も我慢しています。

ただしこれは大人中心の考えであり、今後社会を担っていく子どもたちのことを考えると一層焦りを感じます。私たち大人は豊かな楽しい学校生活を営んだ蓄積を持っていますが、子どもたちは2年にわたる間その経験をしないまま、不満なく抵抗もできずに、知らないままに成長を続けています。知らないから我慢の量は大人よりも少ないかもしれません。しかし私は子どもたちの将来にどのような影響が出るのかが不安でなりません。

人類の根源的な生存の様式を規制せざるを得ないこのコロナ禍にあって、私たちは誰もが傷ついています。その心の傷を癒し、人と人とのつながりを取り戻して再び元気に歩き出すように努めなければなりません。

2009年から取り組んでいる「まち元気プロジェクト」はもう12年間も継続しています。閉塞感に満ちた社会情勢に問題意識を持ち、文化芸術の分野からの取り組みを始めました。それまで生涯学習事業や公民館事業により、心豊かな生活を送ることができるように講座やワークショップが全国で展開されていましたが、文化芸術には生きづらさや孤独・孤立を癒し、解消する力があることに着目して継続して活動をしてきました。特に今年度は「アーラまち元気そうだん室」を発足させました。これは市民に寄り添い、それぞれの生きづらさに対する解決策を一緒に考えていくことができないか。そして心の元気を取り戻して元気なまちづくりの一翼を担いたいというものです。一地方都市の取り組みではありますが、全国の公立文化施設の取り組みに参考になれば幸いです。

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以上ですが、前段はこのコロナ禍における教訓として思い知らされた「つながりの大切さ」「Face to Faceの重要性」「遊びや余暇の大切さ」などたくさんの人間に必要な行動があります。それらのことをまずは取り戻そうと再出発しなければならない、と思ったわけであります。先端技術を駆使して解決できるとは思っていませんし、新たな生活様式に人間がすぐに移行するようなことは机の上ではできても実際には無理であることを私たちは自覚しなければならないと思います。「変えなければならないこと」と「変えてはいけないこと」に対して賢明な判断をしなければなりません。文化芸術が持つ力を今こそ発揮しなければならないのではないでしょうか。

そして子どもたちに対して私たち大人はもっと思いを馳せなければなりません。このコロナ禍の2年間は子どもの成長にとって取り返しのつかないことになってしまっています。私たち大人はこの2年間にできなかった楽しみや癒しの行事をやり直すことができますが、子どもにとってはそうはいきません。本来ならだれもが経験するはずだった運動会で、普段、学業成績では芳しくない子が保護者の大声援の中で颯爽とゴールテープを切って走ったであろう徒競走やリレー競技、6年生では応援団に入って思い切り声を張り上げて下級生を指導しようと思っていたこと、修学旅行では先生の目を盗んでの枕投げや子どもだけのグループで観光地を探検しようとしていたことがことごとく中止や縮小となってしまいました。部活動の最終年として学校の名前を背負って大会に出場した高揚感は得られないまま部活が禁止されてしまいました。普段なら机を寄せ合って笑顔でおしゃべりしながら過ごす給食の時間が黙食となってしまいました。それでも先生たちは何とかいい思い出を、と様々な工夫で活動していただきましたが、普通であるべき体験ができなかったことは間違いありません。それらは子供の成長にとっては極めて大事な体験です。我々大人はそれらのことを念頭に置いて、今後はさらに活発に体験やつながりの活動をしていかなければならないと思いました。

なお、この報告書はHPで公開していますし、冊子そのものであれば送付します。お問い合わせください。

以上のことから考えると、私たち公立文化施設が行わなければならないことは、コロナ禍で顕在化したような孤独、孤立に対応するモデルとしての事業や心豊かな住みごこちの良いまちづくりに対するモデル事業なのではないかと思います。「モデル」としたのには訳があります。これらの課題は直接に市町村行政が担うものであり、広くその効果をいきわたらせるのは公共団体でしかないのです。それは福祉部門であったり子育て部門であったり、教育委員会であったりします。そこのことを先駆的に実践してこれらの行政部門につなげることが任務なのではないでしょうか。ただしこのことだけが任務ではありません。そもそも地方の劇場では住民要望としての娯楽やエンターテインメント的鑑賞事業も必須の任務でもあります。この両者をバランスをとってコーディネートすることが必須であります。

館長に就任して半年が経過しました。この間はコロナ禍により、まともに事業開催ができなかったので現況の分析やこれからの方向性を探ることはできませんでしたが、世の中が落ち着いてくることを期待しながら、アーラが可児市立の文化施設であることを念頭に、活動を進化、深化させるよう努力してまいります。