館長就任あいさつ

2021年7月18日

可児市文化創造センター館長 篭橋義朗

5月1日から可児市文化創造センター・アーラの館長に就任しました。私としては9年ぶりのアーラ復帰ということになり、久しぶりの古巣に帰った心境です。私のことは可児市内ではご存じの方も多いと思いますが、このHPは市外の方にも広く閲覧されていると思いますので、この場を借りて自己紹介から始めたいと思います。同時にそのことがアーラと私との関係とほぼ重なることになりますので、あえて記載することにしました。

私とアーラとの関わりは開館前の2000年からとなります。オープン前となります。可児市に文化会館を建設すべしとの市民要望に応える形で可児市教育委員会内に文化センター建設準備室が設置された時に配属となり、もともと希望していた事業でしたので喜び勇んで異動しました。2002年7月27日に開館して19年が経過するアーラでありますが、私は市教育委員会文化センター建設準備室で2年間、アーラの建設と運営財団の設立に携わり、可児市民と劇場運営の専門家との協議を重ね建設・運営の理念を考えてまいりました。当時は建設と市民組織の立ち上げと運営財団の設立など追いつめられるような気持ちで仕事をしていました。現在は岡崎市民会館の芸術監督で当時名古屋大学教授の清水裕之さんをファシリテーターとして設計と開館準備の佳境に入っている時期でした。可児市としては市民の声を聴き専門家の声を聴きながら「最先端の劇場」「あるべき劇場」を目指していました。その前提として、とにかく市民にそのことを理解してもらう努力が必要です。市民の支持が得られない、また計画から建設、そしてオープンまでの情報が開示されないで完成したホールは不幸が待っていると私は思っています。何故か?それは市民の税金を原資としており、最終的には市民がオーナーだから、という発想です。

そして開館以後、初代館長の桑谷哲男氏の5年間、二代目館長の衛紀生氏の5年間と10年間にわたってアーラの運営に尽力させていただきました。その後、可児市役所に戻り教育委員会事務局長として1年半、教育長として7年半を過ごして、この度の館長就任ということになります。この間、多目的ホールの建設、芸術監督制について、ボランティアについて、行政と文化芸術について、義務教育と文化芸術について、等々現場との関わりで生じる様々なことに対して考え続けてきました。それらについてはおいおい記述していくことになりますが、今回は最初に「社会包摂型の劇場」について述べたいと思います。

「社会包摂型劇場経営」については衛紀生前館長が長年にわたって主張されていることであり、アーラの経営を実践されてきた中でさらに確立された考え方だと思います。衛前館長の退任と私の就任の記者会見で、アーラの基礎は衛前館長と篭橋で作ったと言っていただきました。誠に光栄であると思っています。ただ私には私なりに「社会包摂」の解釈をしておりまして包摂型の社会というイメージは一致していますが、アプローチの違いはあります。

長年、行政を学び、実践してきた私としてはアーラができる以前から芸術分野と行政は相容れない、もしくは対立するものだという認識がありました。しかし公立文化施設である可児市文化創造センター・アーラの運営を事務局長として参画していくにあたってはどうしてもお互いの分野の相互理解が必要であり、それなくしては立ち行かないとの思いが強くありました。このHPにある「館長VS局長」もそんなことから始まったと記憶しています。行政の側としてはそれまで芸術分野の専門性には口を出しづらく、当たり障りのない態度でやり過ごしてきた記憶があります。しかし、アーラの建設理念が文化芸術によるまちづくりである以上、行政の論理を芸術分野の人々も理解しなければならない。相互理解が絶対条件となりました。

もともと行政の基本は「日本国憲法」の擁護と「地方自治法」、「教育基本法」の順守であります。これをまじめに追求すれば行政は自然と包摂的な制度、考え方が基本であることがわかります。また公務員には日本国憲法を擁護する任務があるわけでありますし、特に市町村行政においては住民にもっとも近い存在であることから老若男女すべての住民を対象に包摂的な考えで職務を遂行しており、職員にはその義務、習性があります。すべての住民の基本的人権が守られなければなりません。そのために行政組織が編成されています。特に福祉関係、教育関係の仕事はその色彩が濃厚です。そのため私にとっては社会包摂を旨とした運営という考え方はほとんど違和感なく当然のことと理解しています。なので公立文化施設の運営においても、根底にその考え方があれば大きく道を外れることはない、と思っています。

衛前館長が「社会的処方箋活動の拠点施設」と規定しているその趣旨、我が国の現状分析、将来の方向性等についてはこれまでのエッセイを読んでいただきたいと思っていますが、共にアーラの事務室で机を並べていた私としては、研究者でもなく評論家でもない元公務員、元教育長として、上記の考え方を基本として、私なりの頭、言葉で整理して理解をしてきたつもりです。地域劇場を運営するにあたっては、直接に市民と作り上げることを念頭に住民の視点から文化芸術界を見ていかなければならないと思っています。そのうえで今後も市民に寄り添い、ともに癒し癒され心の安らぎと豊かさを感じられるよう運営していこうと思っています。