第77回 『オーケストラで踊ろう!』に駆けつけてくれた英国の劇場人たち。

2010年3月11日

可児市文化創造センター館長兼劇場総監督 衛 紀生

『オーケストラで踊ろう!』の演出コンサルタントとして、二週間前に可児に入ったヒラリー・ウエストレイクさんに続いて、昨夜、英国を代表する地域劇場のウエストヨークシャー・プレイハウス(WYP)のサム・パーキンスさんとゲイル・マッキンタイアさんが可児を訪れました。リーズ・ブラッドフォード空港⇒アムステルダム空港⇒成田空港⇒中部国際空港と乗り継いで24時間の旅だったそうで、それでもアーラを見ることをとても楽しみにしている様子でした。

ヒラリーさんはエリザベス女王在位50周年戴冠式のパレードの演出を担当したり、フランスをはじめとする欧州各国や東南アジアなどで演劇、ダンス、オペラの舞台演出を手がけて来られたロンドン在住の優れた演出家です。彼女は、以前から私と交流のあった在ロンドンの日本人の友人からの推薦で、経歴を見て即決で来ていただくことになりました。すでに可児に2週間以上滞在しています。可児の町と『オーケストラで踊ろう!』のリハーサルをとても楽しんでいらっしゃるようです。彼女は、可児の子どもたちが整然と稽古に励み、大人たちと同じ振付で踊っていることに驚いていました。舞台芸術の本場である英国では考えられないことだと、感心しています。

サム・パーキンスとゲイル・マッキンタイアは、英国北部のリーズ市にあるWYPから、私が今回プロデュースする『オーケストラで踊ろう!』とアーラを見るために、安売りチケットのエコノミー席で駆けつけてくれました。もう10年以上の付き合いのある劇場人で、いままで二、三回、私のプロジェクトで日本に来てもらっている旧友です。とくにサム・パーキンスは妊娠しており、大きなお腹を抱えての来日です。いささか恐縮してしまいます。彼女たち二人には、せっかくアーラに来ているのだからと、『町が元気になる処方箋』の第二弾(3月12日午後6時30分・映像シアター)として、劇場がコミュニティに果たす役割を私と話すことになっています。劇場がまちに果たす役割をお話ししてもらおうと考えています。WYPは、優れた舞台作品を創造して、ロンドンのナショナルシアターに招待されたりもしていますが、一方では地域社会への貢献プログラムを驚くほど細やかにやっている「地域社会の牽引車」と呼ばれている劇場です。

たとえば、サム・パーキンスは、犯罪をおかして刑務所に入った過去を持っていたり、麻薬に手を染めてしまった少年少女たちを音楽や演劇で社会に再チャレンジするコミュニティプログラム「ファーストフロア」を立ち上げて運営しています。英国芸術評議会や地元企業から資金調達をして、3年がかりで見事に成立させました。昨年、WYPを訪れた時にその様子を見てきました。3年前の構想段階からサムに聞いていたプログラムだっただけに、彼女の粘り強い努力の成果として、感慨深いものがありました。彼女は移民の子弟のためのプログラム「スパーク」や、高齢者のために週一回午前9時半から午後3時半まで劇場のすべての空間を使って行われる「ヘイデイズ」というプログラムも、芸術開発部長として采配をふるっています。その他に障害者たちのプログラムや幼児と若い母親のためのコミュニケーション・プログラムなども手掛けています。ゲイル・マッキンタイアーは、毎日学校に出かけていくスクール・ツアリングカンパニーの演出家です。彼女も、麻薬に手を染めた青少年のための学校プログラムをやっています。二人とも、『オーケストラで踊ろう!』には強い関心を持ってくれています。

ウエストヨークシャー・プレイハウス(WYP)は、私が世界各地や日本中で出会った地域劇場の中でトップにランクされます。舞台作品の高いレベルだけではなく、地域社会への多様な、そして数多いコミュニティプログラムでの社会貢献は、他を圧倒してずば抜けています。アーラはこのWYPを目標にしています。私がアーラの館長に就任した時に、目指すべき到達点はWYPしかない、と思いました。子どもたちや高齢者、障害を持っている方、外国人たちに向けて出かけていく「アーラまち元気プロジェクト」は、4月以降の来年度は275プログラムにもなります。WYPにまた一歩近づいた、と感じています。可児市民が住んでいて良かったと思われるためにアーラがあるようにならなければ、といつも考えています。

英国から駆けつけてくれた旧友たちにアーラを見せることができるのは、とても嬉しいことです。光栄に思っています。8ヶ月の時間をかけて創りこんできた『オーケストラで踊ろう!』を彼女たちに観てもらえることに喜びを感じます。そして、アーラとウエストヨークシャー・プレイハウスが互いに切磋琢磨して、地域社会により必要とされる劇場を目指していければと思っています。東洋の片隅の、日本にある小さなまち可児に、20時間以上の空の旅をして駆けつけてくれた英国の旧友たちに感謝しています。せいぜい可児の美味しい店に案内して、日本の味を存分に楽しんでもらいます。