第10回 ライフスタイルをデザインできる劇場に―集客から創客へ。

2007年11月19日

可児市 文化創造センター館長兼劇場総監督 衛 紀生

 可児市文化創造センター(ala=アーラ イタリア語で「翼」の意)は、市民や周辺地域の人々にとって必要な場所になっているのだろうか、と最近良く考えます。ここには休日はもちろんのことウィークディでも本当に多くの人々がやってきます。「観る」とか「聴く」という目的ではない多くの人たちで劇場はいつもにぎわっています。年間25万人の人々がアーラにやってきています。だからと言って、その数字に満足していて良いのだろうかとも考えます。この劇場のゴールはもっと先に、ずっと先にあるのではないかと常々思うのです。

 ウェッジウッドやマイセンやロイヤルコペンハーゲンのティーカップは、私たちの生活になくてはならないものではありません。少なくとも私にとっては、です。私などはダイソーの百円のティーカップで充分に事足りています。それは私が容器としてのみのティーカップの機能を必要としているからです。しかし、私には、箱根にあるポーラ美術館の、山の傾斜を利用したガラス張りの明るい空間で過ごす時間はかけがえのないものと感じます。一年の疲れを癒す年末の温泉旅行にはなくてはならない時間とさえ思っています。

 芸術文化にも同じことが言えるのではないでしょうか。劇場や美術館やコンサートホールで鑑賞するアーツは、ウェッジウッドやマイセンやロイヤルコペンハーゲンのティーカップのように、生きていくうえでなくてはならないものではありません。食品や衣料品とは違います。ならば、まったく必要ないものなのでしょうか。美術館の入場者数し別として、舞台芸術の観客数はここ数年右肩下がりです。企業業績は上向きで景気指数も良いとされているなか個人所得は縮小傾向にあり、加えて国民負担増で可処分所得は減少しているという環境にあって、全国消費実態調査によれば、家計に占める教養娯楽費の指数はあきらかな減少を示しています。だから、劇場やコンサートホールなどに出かける機会を控えている、致し方ない、と私たちは考えるべきなのでしょうか。

 私はそうは思いません。そのような実態だからこそ、むしろアーツに対する潜在的なニーズは高まっている、と私は考えます。潜在的ニーズとは「未充足なニーズであるが、充足する商品の存在を認知していない、または自分が未充足であることを認知していない状態」(梅沢信嘉『消費者ニーズの法則』)を言います。景気は好況といわれながら自分の家計実態は縮小している、不安定な雇用環境を強いられている、格差社会の進行に漠とした不安を感じているなど、社会と個人の関係からはきしむ音が鳴りはじめている。社会全体が不安神経症を抱え込んでいるような時代になっている。だからこそ、アーツの潜在的ニーズはかつてないほど高まっていると私は考えるのです。

 製品やサービスは顧客の生活課題を解決するためのもの、とマーケティングという分野では定義づけられています。電気ドリルはという商品は、板に開けられた穴を必要としている顧客の生活課題を解決する手段として購入される、という具合です。この例にはニーズというものが明確にあります。「ここに穴を開けたい」という欲求がドリルを購入するという満足を得る行動を引き起しています。芸術に対してもニーズにしたがって、情報を得ようとしたり、チケットを購入したり、劇場に出かけたりする「満足を得ようとする行動」を起こす場合があります。このような顧客に対して公演情報を発信して働きかけることは大事です。一方で、この時代状況にあって私たちの仕事でもっとも大切と思っているのはライフスタイルを変えてみませんか、物の見方を少し変えてみませんかというアーラからの「提案」です。

 可児市文化創造センターでいえば、可児市民と周辺地域の人々の「感性」に働きかける生活提案です。「感性」に働きかけることで「行動」を起こしていただく。「行動」を起こしていただくことで、劇場を生活のサイクルの中に位置づけていただく。この提案は顧客自身が自覚するニーズにも、未充足であることを自身が気付いていない潜在的なニーズにも対応するものでなければなりません。「観る」とか「聴く」というのはあくまでも行為自体を意味するのであって、その行為は顧客が得る利益(benefit)を指すものではありません。顧客が得るものは、「感動」であったり、「心地よさ」であったり、「楽しさ」であったり、「歓び」であったり、「出会い」であったりします。そのことによって、その人の生活に「豊かさの実感」や「充足感」や「生きる意欲」や「ステータス」などをもたらします。それらが劇場や美術館やコンサートホールが顧客に提供できる利益(benefit)=価値なのです。

 来年度から可児市文化創造センターは、お客さまのライフスタイルにあわせて購入できるチケットシステムを導入します。前回でもそのあらあらの設計を書きましたが、さらに加えて可児市に転入してきた世帯に抽選で50%OFFの年間チケットとレストランでの食事券をプレゼントする計画を進めています。可児市はここ数年、毎年およそ900世帯1100人の方々が転入してきています。市の統計によれば一世帯あたり2.78人ですので、応募していただいたうちの三十世帯程度に「お引越し祝いチケット」をプレゼントする。新しい生活を可児市で始める方々に、「劇場のある生活」を提案させていただく。これほど素晴らしい劇場のある町にいらしたのだから利用しない手はないですよ、と提案させていただくことを考えています。それだけではなく、レストランとの連携によるアフターディナー、ビフォーランチを含めたチケットシステム総体をライフスタイルの提案にしたいとで私は考えます。食事つきのアニバーサリー・チケットを購入してくださった方がバースディなら、レストランのスタッフが「ハッピーバースデイ」を歌ってくれるそうです。いろいろな講座やワークショップも設けます。シアターグッズの開発も進めています。今年度から12月から1月まで「水と緑の広場」と野外ステージをイルミネーションで飾ります。毎年買い足して年々華やかになって行きます。レストランもそれにあわせてイルミネーションを設置してディナーショーを開催します。

 かつて音楽座ミュージカルに関わっていたときに「音楽座は何をする団体なのか」とマネジメント・スタッフに訊いたことがあります。「ステージを創る」、「ミュージカルをやる」とかの答えは返ってきましたが、私の期待した言葉は返ってきませんでした。音楽座ミュージカルは、代表の相川レイ子さんの考えに基づいた創作活動をしており、一連のミュージカルには彼女のある「価値」が埋め込まれていました。それは「生き方」です。音楽座はミュージカルを媒介として「生き方」を提案している、と私は思っていました。観客はその提案に対してそれぞれの答えを反芻して、それぞれの「価値」にたどりつき納得する、それが音楽座ミュージカルの観客の鑑賞体験であったと思います。多かれ少なかれ舞台を鑑賞するという体験はそういうものですが、音楽座ミュージカルはかなりストレートで明快な「生き方」の提案=メッセージを内包していたために、観客は等身大でそれを受け止めていたのではないでしょうか。十年間の休止期間を経て音楽座を復活させるときに、「音楽座ミュージカル再開」をクリスマスプレゼントとして12月24日か25日に配達されるようにカードを送ったのですが、およそ1000人からのレスポンスがありました。10年を経てまだそれだけのお客さまが音楽座ミュージカルを待っていたことは驚きに値します。それをコアな音楽座ファンとしてセグメントしたのはいうまでもないのですが、この人たちは単に音楽座ミュージカルの復活を待っていた人なのではなく、それぞれの「生き方」にさまざまなかたちで強い影響を受けた人たちなのではないかと、そのときに思いました。

 音楽座という創造団体の「提案」は上演される舞台からのメッセージとしての「価値」でしたが、劇場や美術館やコンサートホールにとって舞台を鑑賞するという顧客行動は、提供できるサービスの一部分でしかありません。私たち可児市文化創造センターは、「劇場のある生活」をそれぞれの生き方に合わせて楽しめる、すべての市民にとって必要な公共文化施設でありたいと思っています。We offer experiences(私たちは「体験」を提供する)です。劇場という時空で起こりうるあらゆる「体験」を提供するサービス業でありたいと思っています。

 来年度からK-pacコレクションという事業を始めます。これは10年以上前に上演され、高評価を得ながら何らかの事情で再演が実現していない作品を創造して上演しようとする事業です。可児市でアーチスト・イン・レジデンスというかたちをとって創りあげます。可児と東京で15ステージ前後の公演機会をもつ企画です。創造過程とリンクして全国に営業をかけます。翌年度に全国巡演をする流れをつくろうと考えています。むろん私が『おーい幾多郎』のときと同様に全国営業に回ります。K-PACコレクションの第一作目は柳美里さんの『向日葵の柩』です。演出は初演と同じ金盾進さんにお願いしました。柳さんも、金さんも大変に喜んでくれました。当時、現在のように演劇賞が多くあれば絶対に何かは受賞していただろう舞台であったし、あわせて公演回数がいかにも少なく、観ている人の少ないいわば「幻の舞台」です。主演俳優の出演交渉に時間がかかっていますが、いいかたちで実現できる感触です。これは私が就任時に清掃委託や警備委託の人たちまでを含めて約80人の全職員に示したala MISSIONの、「劇場をナショナルブランドすることを目途する高水準の舞台芸術の自主制作」はもちろんですが、「行ってみたい、住んでみたい、住んで良かったと言われるコミュニティサービスの提供」を具体的な事業にダウンロードしたものです。自分たちの住んでいる町で高水準の芸術作品が日々創られ、東京や全国に出て行く。これは市民としての「誇り」に関わるプロジェクトです。

 通常の地域公共ホールの事業はほとんど100%、1回公演です。これでは「観たい」「聴きたい」と思っている市民も「たった一日」のためにピンポイントで日程を調整しなければなりません。しかも良い席でと思えば、前売り当日、なんと三ヶ月まえに予定を入れなければなりません。忙しい今日では不可能を可能にしろと私たちが言っているようなものです。むろん1ステージなのは、買い公演がほとんどですから、経済的な事情があるのですが、お客さまからしてみれば機会が一度しかないということは不便なことです。どちらにしてもお客さまにストレスを強要していることになります。劇場ビジネスからみてもオポチュニティロスのはなはだしい仕組みです。これは地域公共ホールの赤字体質の大きな原因のひとつです。そこで私は来年度から三事業にかぎって、劇団の協力を得て複数回数公演をやることにしました。3ステージ以上の複数回数公演を秋とクリスマスシーズンと年度末に設定しました。そのひとつがk-pacコレクションです。市民の「鑑賞機会」を保障しようという意味をもつ事業の設計になっています。また、可児市文化創造センターは道具の叩き場(ワークショップ)と工具室を持っていますので、ほとんどを自前で制作できます。その技術を持った職員もいます。したがって、マーケティングさえ間違わなければ、複数回数公演と東京公演と巡回公演で損益分岐点を叩き出すことは可能性としてある、ということになります。複数回数公演は、したがって赤字体質を少しでも改善しようとする試みでもあります。

 三ヶ月前の前売り開始についてですが、前売りチケットの、開演時間48時間前ならばキャンセルでき、他の公演チケットやレストランでの食事、グッズの購入に使えるバウチャーに交換できるシステムをつくります。このことで、忙しい現代人の生活スタイルと「良い席で観たい、聴きたい」という欲求とを折り合うものにしようとしています。

 「マーケティングさえ間違わなければ」と書きましたが、来年度から「顧客コミュニケーション室」を事務局長の直轄部署として総務課内に設置します。ここでは、来年度から全面導入するウェブ・チケットの管理運営、事業担当職員とコラボレーションしての創客設計、会員システムの運営、顧客データベースの管理運営、鑑賞事業と自主制作事業の関連企画提案、ボックスオフィスとの連携強化、レストランとの連携、グッズ開発、各種チケットシステムの設計、地元企業との連携 (ala Business倶楽部)の設置運営、貸館・貸室の受付と調整を主な業務とします。私の従来からの主張である「集客から創客」を所掌する部署だけに、私も全面的に関わって仕事を進めるつもりです。

 可児市文化創造センターは、来年度から二つの芸術創造団体と地域拠点契約(Regional Stronghold Agreement 仮称)を結びます。定期公演、定期演奏会とワークショップ、アウトリーチプログラムなどをプログラミングした包括的な提携契約です。演劇では劇団文学座、音楽では新日本フィルハーモニー交響楽団がその契約相手です。ともにこの二団体に契約を依頼したのは、高水準な芸術性と多くの多様な人材を持っていること、そして決め手は、劇団文学座は毎年400を超えるワークショップやアウトリーチをやっていること、新日本フィルは周知のように墨田区と連携してコミュニティへのプログラムを日常業務として展開しているという経験と技術集積でした。先月、劇団文学座の演出家である西川信廣氏、新日本フィルハーモニー交響楽団の音楽監督クリスティアン・アルミンク氏がそれぞれ山田市長を表敬訪問してくれました。来年度の5月11日、12日に劇団文学座定期公演『風の冷たき櫻かな』(平田オリザ作 戌井市郎演出)、7月13日に新日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会(指揮:クリスティアン・アルミンク ピアノ:小菅 優  プログラム:モーツァルト作曲 ピアノ協奏曲 第30番ニ短調 K.466  ベートーヴェン作曲交響曲第5番ハ短調「運命」)が決まっており、その創客のための関連企画の準備も進めています。

 また、不定期ですが、公演とワークショップ、アウトリーチプログラムと施設の無償提供と補助を包括した地域提携契約(Regional Cooperation Agreement 仮称)を、NHKの「海のシルクロード」やその他映画音楽やテレビのテーマ曲でヒーリング・ミュージックの代表的コンポーザー・グループS・E・N・Sと東京・東中野に拠点激情をつくりレパートリーシアター運動を展開している東京演劇集団風と結びます。東京演劇集団風は『肝っ玉おっ母とその子供たち』の西日本ツアーに向けての舞台稽古を小劇場で4日間やり、最終日の5月11日の母の日に公開舞台稽古をしてもらいます。そのチケットシステムは前回に述べたとおりです。彼らにはクリスマスシーズンの複数回数公演で『Touch~孤独から愛へ』(ライル・ケスラー作 浅野佳成演出)を5ステージ上演してもらいます。S・E・N・Sの公演は10月ですが、ツアー日程の調整で日にちはまだ確定していません。桑谷前館長のときにほぼソールド・アウトしたということなので期待しています。S・E・N・Sには可児の歌をつくってもらうプロジェクトが準備されています。

 公共ホールは、それがたとえ東京にあっても専属劇団や専属オーケストラをもつことは財政的に不可能といえます。専属のアーチストがいれば、「あんなことをしてみたい」「こんなことができれば」と考えるのですが、この二つの契約には滞在の機会を頻繁にして、市民と接する機会を多くしていくことで、演劇やクラッシック音楽にある市民とのあいだの障壁をなくしていこうという企図とともに、アーチストの常駐に近い状態をアーラにつくろうとする考えがあります。

 これらのプロジェクトと平行して、多くの市民・子供たちにこの劇場の素晴らしい舞台に立ってもらおう、という企画があります。島根県文化振興財団が10年以上制作してきている市民ミュージカル『あいと地球と競売人』を200人程度の市民と6ヶ月かけて制作する事業と、これも長期間の制作を要すると思いますが、可児に在住するブラジル人、フィリピン人、その他の外国籍と可児の子供たちがオーケストラの演奏でコンテンポラリー・ダンスを踊る「ベルリンフィルと子供たち」の可児版を創りたいという要望が職員から出ています。これらを隔年で製作して行こうと考えています。『あいと地球と競売人』の演出には、金沢の Ten Seeds(テンシーズ)の黒田百合さんにお願いする交渉をしています。Ten Seedsは金沢市民芸術村のワークショップ・リーダーを育成する「指導者養成講座」に集まった金沢の演劇関係者で結成された団体で、彼女たちが障害を持った子供たちと健常の子供たちで制作した『風の又三郎』は、2003年に初演されたハンディキャップを克服してがんばる子どもたちをサポートする団体に贈られる「One by One アワード・NPO奨励賞」を受賞し、2005年に初演された「ユタとふしぎな仲間たち」は「風の又三郎」とともに全国知的障害関係施設職員研究大会石川大会のオープニングセレモニーで上演されています。黒田百合さんをはじめとするTen Seedsの方々に全面的に関わっていただくようお願いしています。

 また、金沢市民芸術村のアドバイザーをしていた頃に実施してTen Seedsのルーツとなった「ワークショップリーダー養成講座」も黒田さんたちのグループに委託します。養成のワークショップをやりながら、実際に可児の学校や福祉施設や病院にアウトリーチをして受講生の研修をしてもらおうと企画しています。Ten Seedsと黒田さんのエネルギーをアーラに宿らせてもらおうと考えています。その意味では実質的な地域拠点契約事業と言えるかもしれません。アーツを通して市民みずからが市民を支えるという共助の関係を可児に定着させたい。演劇関係者のいた金沢でさえ5年ほどはかかっています。7年くらいはかかるかもしれません。ただ、教育関係者、福祉関係者、医療関係者にも受講していただき、各職場で演劇的手法を展開してもらえれば、意外に早くに何かが起こるかもしれないと思っています。

 可児市文化創造センターには東西南北に四つの出入口があります。アーチストもスタッフも市民も、すべてがそのどこかの出入口から劇場に入ってきて、出て行きます。アーラには、ステージ関係者専用のいわゆるステージ・ドアはありません。すべてのあらゆる人々が東西南北いずれかから劇場を訪れるのです。その南ドアのところに意見箱が置かれており、そこに市民のアーラへのご意見が入れられるようになっています。勉強をしに来ている中高生の感謝の言葉や劇場全体の明るい環境をお褒めいただいたり、中には私たちが気付かなかった改善点のご指摘もいただいている。それはそれなりに私たちの励みとなっているのですが、つい先だっても、「ブラジル人を排除すべき」「パソコンコーナーのベトナム人の声がうるさい」などという、匿名をよいことに聞き捨てならない意見があったりします。それも備え付けの鉛筆での書き文字ではなくパソコンで打った印字で、です。どう見てもいい大人の所業です。心が痛みます。そこで来年度から、十代のユース・モニターから五十代以上のシニア・モニターまで三世代にわたるモニター制度をつくろうと思います。フォーシーズンで何でも良いので何かを鑑賞していただき、ワークショップやアウトリーチにもオブザーバーとしてご参加いただいて、年四回それぞれの世代のモニターに集まっていただき、ランチをしながら市民の方々の率直なご意見や建設的なご発言をいただこうと考えている。これも市民の方々にアーラを「自分たちの劇場」と思っていただくための私たちの仕事と思います。

 ここまで挙げてきた来年度以降の事業展開は、すべてがala Missionをダウンロードしたものであり、前述した潜在的ニーズにヒットすることを企図しています。そして「集客から創客へ」の具体的な事業展開です。それぞれの人が、それぞれのかたちで、それぞれの求めにしたがって、アーラと交わる。ウェッジウッドやマイセンやロイヤルコペンハーゲンはなくとも、アーラと触れることでその人の生活と世界に微妙な変化が起こる。私たちの「提案」とはそういうライフスタイルにしてみませんか、その変化を楽しみませんか、というものなのです。それぞれの人が、それぞれのかたちで、アーラのあるライフスタイルを、それぞれの思いで楽しみ始めてほしい。「新しい価値」を、そういう「体験」を、私たちは商っているのです。

 理事会の承認も得て、来年度からの、いささかハードルを高くした事業運営と劇場経営が始まりました。「まず、私たちから変わろう」と館長ゼミも月2回の割合で始めました。ゴールと情報を全職員で共有するためです。アーラはいま大きく舵を切ろうとしている、と職員にも分かってきたようです。ようやく航海は始まりました。海図はありますが、前例という羅針盤のない旅になります。職員一丸となってオールを精一杯漕ぎます。どこまにたどりつくか、見守ってください。