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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

第一章いまこそアーツマーケティングの導入を/創客へシフトせよ (5)

「欲望の操作」ともいえる売り手のニーズによるセリング。一方、顧客のニーズから結果的に利益を得ようとするマーケティング。これらのについて考え、望ましいほどの広さを持っていない舞台芸術の市場のなかでいかに顧客を創造し、そして維持していくかを述べてゆく。

SellingからMarketingへ。

私たちは、マーケティングとセリングを混同してはいないか。簡略にまとめると、大量生産大量消費、製品志向、売り手ニーズによるものがセリングであり、受取価値志向、共感共創志向で、中長期的の発展を視野に入れて買い手のニーズに応じたベネフィットを顧客にもたらすことで結果的に利得を得ようとする経営戦略がマーケティングと規定できる。
さらに噛み砕けば、製品が最初にあって、それをいかに効率よく捌いてキャッシュに替えようと企図し、欲望を喚起する仕掛けを駆使するのがセリングであり、それはおおむね今日収益志向である。一方、まず顧客の生活課題や社会的、潜在的ニーズがあり、それを解決するための製品が生み出され、そのうえで周辺の環境を整えて購入を促すようにリードする未来志向の経営手法がマーケティングである。
ピーター・ドラッカーは「究極のマーケティングは、セリングを不要にするもの」と言い切る。言わんとするところを汲めば、プッシュ・セルを不用なものとする環境を整えなければならない、ということなのだろう。セリングを不用にすることなど考えられない、と思うかも知れない。だが、考えてみるといい。芸術団体や劇場・ホールはガルブレイスのいう「欲望の操作」以外にチケットを売るための仕事を何かしてきただろうか。

「欲望の操作」とは、大量のチラシの配布、ポスターの大量貼付、マスメディアを使ってのスポット広告やパブリシティ広告などの大量露出による購入欲求の喚起のことで、マスメディアで消費者にプレッシャーをかけて欲望を喚起するという意味ではHigh-pressure Sale(押し売り)に間違いないだろう。前述したようにガルブレイスは、とくに非必需品に関しては、消費者の選好は主体的に作られる以前に広告によって操作されている、と指摘し、これを依存効果(dependence effect)と呼んでいる。
この効果をエベレット・M・ロジャーズの実証研究であるイノベーター理論に当てはめれば、2.5%のイノベーター(革新的採用者)と13.5%のアーリー・アダプタ(初期少数採用者)を掘り起こして、これもガルブレイスのいう「欲望の模倣」を発生させたり、あるいは大量の情報をさまざまなメディアを通して流通させて油谷遵の『マーケッティング・サイコロジー』でいう「選択保証条件」(購入しようという気持ちが生じたとき、必ず無意識のうちに<だけど買ってもいいかな><下手な買い物にならないかな>という反対の気持ちをもっている」。その「反対する気持ちを沈静化する働きを持つ条件」)を整えてアーリー・マジョリティ(初期多数採採用者34%)とレイト・マジョリティ(後期多数採用者34%)という大きなパイにたどりつき、大量のチケット購入者を生み出そうというものと言えるのではないか。ロジャーズの普及理論では、イノベーターとアーリーアダプターを合わせた層のおよそ16%に普及した段階で、イノベーション(まだ普及していない新しいモノやコト)の新しい市場は急激に普及、拡大する、としている。そのためアーリー・アダプターは、「オピニオンリーダー」とも「インフルエンサー(影響者)」とも、さらには「マーケットメーカー」とも言われている。

このようにマスマーケティングの強みが、圧倒的な告知力にあるのは言うまでもない。しかし、大量のチラシ配布も一種の環境づくりには違いないが、労力を含めたコストの割に実効性は疑わしい。非科学的に過ぎないか。経済効率性が悪すぎるとは思えないか。チラシの実効率は一般的には0.3%程度なのだ。現在のようにネット社会が進捗している環境下では、顧客を維持するのに比べて新規顧客をつくるのは約8倍から10倍のコストがかかると言われる。それほどコスト・パフォーマンスは悪い。また、舞台芸術という商品特性や産業特性を考え(後述第二章参照)、あわせてマーケットの狭隘性を思うと、暗澹たる気分となる。日用品や必需品をセリングするわけではないから、魚がいるかどうか分からない場所に延々と投網を打ち続けるというのはシジュホスのような仕事(work)とは思えないか。

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