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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

第一章いまこそアーツマーケティングの導入を/創客へシフトせよ (4)

2003年当時、英国北部リーズ市のウエストヨークシャー・プレイハウス(WYP)でコミュニケーション部長をやっていたケイト・サンダーソンは、「顧客とのリレーションシップはマス・メディアによってではなく、コミュニケーションでしか作り出せない」と明快に答えてくれた。千葉商科大学の井関利明氏も、私が代表を務めるNPO法人舞台芸術環境フォーラムが主催した第三回国際劇場経営セミナー&シンポジウム『集客から創客へ』で「マーケティングとはコミュニケーションのことです」と、ワン・トゥ・ワン・マーケティングの日本への紹介者らしく明確に言い切っている。また、同じセミナーで、かつてロイヤル・シェイクスピア・カンパニー(RSC)に所属し、現在はアーツマーケティングの専門家として多くの業績を持っているフリーランスのアーツ・コンサルタント、ヘザー・メイトランドは、「マーケティングとは観客、参観者、参加者の観点から物事を見つめること」と顧客からの視点を強調している。

マスマーケティングは、大量生産・大量消費というその発想地点から製品をキャッシュに替えるという生産者主権の考え方であり、製品志向のマーケティング手法である。それに対して消費者主権のマーケティングはすべてを顧客の視点で考える顧客価値志向のマーケティングである。

アーツマーケティングもまた、顧客価値志向であるべきと考える。と書くと、やはり客の求めるものを創り、提供するポピュリズムではないか、と反論がかえってきそうだが、作品を中心にして経営を考えること自体が製品志向、生産者主権である。アーチストがそのように考えることはありうるとしても、マネジメントやマーケティングに従事する者は、舞台芸術が作品と鑑賞者の関係が双方向のコミュニケーションによる共同生産性によって成立しているという前提に立つべきである。主観的にはいかに強烈な主張や表現であっても、それは他人の眼差しにさらされないかぎり、公的なものにはなりえない。また、佐藤信はインタビュー『パブリックシアターの可能性』のなかで「もうひとつはプロが依拠するための現代演劇なら現代演劇の観客についてもっと真剣に考えていかなければならない」と発言している。

したがって、アーツマーケティングとは、顧客との関与をどのように仕組むかを抜きには考えられない仕事(task)である。そのことをベースとして自分たちの仕事を設計すべきである。舞台と観客が共創と共感の関係にあることを前提として仕事(task)を発想すべきではないか。劇場・ホールにあってマーケッターが考えるべきは、創造環境と鑑賞環境を整備することで顧客とのあいだにWIN-WINの関係を成立させ、より良い「劇場経験」という顧客価値を成立させるための効果的な演出は何かを探り、考え、実施することにほかならない。

とりわけ、サービスを演出することを生業とする人々(=アーツマネージャーもアーツマーケッターもここに分類される。注著者)が、顧客の心の動き―言葉に出ることのない微妙なフィーリング―に十分に注意を払ってこなかった。

南カリフォルニア大学マーシャル・スクール・オブ・ビジネスのリチャード・チェースとスリラム・ダスは、『サービス・マネジメントの心理学』で上記のような警句を発して、顧客志向になりきれていないサービス業の組織と従業員に注意を促している


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