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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

第一章いまこそアーツマーケティングの導入を/創客へシフトせよ (4)

産業革命以降の経営用語として使われてきて、ランドールも誤解している「マーケティング」という語彙についてあらためて考えてみることも、今後の論旨を進めるにあたってあながち無駄ではないように思う。

マーケティングって何だろう。

第二次産業革命以降の動力技術の飛躍的進化によって工業製品の大量生産が可能となり、その結果として在庫を大量に抱えるという生産と消費の矛盾があらわになってくる。そうなると、大消費地である植民地を持たないアメリカでは大量消費を促進することを意図とする経営手法が必要となってくる。その手法を意味する言葉としてMarketから派生した「Marketing」という一般名詞が生まれることになる。
在庫のコストを回避するために「戦略的な販売活動」や「新たな需要創造」が必要になったわけだ。その経営手法から「市場をつくるという意味でマーケティング」という語彙が使われるようになったのである。その目的を達成するために大量に流される宣伝広告を、ジョン・ケネス・ガルブレイスは「欲望の操作」と言っている。これが先のランドールの認識していた「マーケティング」であり、それは取りも直さずそれはマスマーケティングにほかならない。放送メディア、新聞、ポスター、チラシなどのマスメディアを利用して、大衆をマス(大きな塊り)と捉えて不特定多数の人々に向かって大量の商品情報を流す手法である。
確かにガルブレイスが看破したように「消費者の選好は、とくに非必需品に関しては、主体的につくられる以前に広告によって操作されている」と言える。しかし、マスマーケティングにすべてを依存してしまうということは、魚がいるかいないか不確かな流れに、費用対効果を精査しないで可能なかぎりの大きな投網をつくり、ひたすら流れに打ち続けるというおよそ無駄を省みない方法でしかない。
私が子供だった頃、昭和二十年代に低空飛行の小型飛行機からさまざまな色紙に印刷された大量のチラシを地上に撒く宣伝方法があった。子供たちは広範囲に舞い散らばる色とりどりのチラシを追っかけて大量に集めるのだが、果たしてそれが親たちの手に渡ったのか。今にして思えばマスマーケティングを説明するには非常に分かりやすい光景である。
この経営手法をさらに促進拡大させたのが交通機関の革命的な進歩であり、このあたりの時代の空気は、貨車のキャベツを氷で保存しながら列車を使って一度に、しかも大量に農産物を遠隔の町まで運ぼうとする映画『エデンの東』に描かれている。
「戦略的な販売活動」や「新たな需要創造」に関連して、人々がどのような財を、どのような提供方法で必要としているのかを探るのがマーケティング・リサーチである。この手法を指してガルブレイスは「欲望の解読」と呼んでいる。
私たちが思い込まされている「マーケティング」の意味は、大量生産・大量消費の時代を背景に市場シェアを拡大することを企図した「マスマーケティング」のことである。二十世紀初頭にアメリカで編み出された造語である「マーケティング」という言葉が、いわゆる「大衆」という言葉が意味を喪失していく今世紀にあっても生き続けており、すべての誤解のはじまりとなっている。「マーケティング=マスマーケティング」では必ずしもないことを頭の片隅に置いていただきたい。私たちはいま、20世紀に生まれたマーケティングではなく、21世紀で必要とされているマーケティングに思いを巡らさなければならない。
芸術文化産業はサービス業に分類される。そして、そもそも「量」は評価の対象とはなりにくい分野であり、サービスの「品質」のみが厳しく問われるものである。この際の「サービス」は商品としての作品そのものと、その提供の仕方をあわせて意味するが、ともに「量」ではなく「品質」が問われるという点で、私たちが信じ込まされてきた二十世紀的な「マーケティング」の考え方とは相容れない。また、その商品の特性としては、「無形性」であったり、「一過性」であったり、「消滅性」であったりする。すなわち、在庫という概念のあてはまらない業態である。在庫することができない、という特性から言っても、二十世紀的意味での「マーケティング」の枠に舞台芸術サービスを包摂することはできない。
むろん、巨額の予算をかけたプロモーションをして需要を創造するマスマーケティングをしかけている舞台芸術の興行事例がないわけではない。しかし、前述したように劇場やホールが装置型産業である以上、電化製品やゲーム機器や加工食品のように青空天井で売り上げを伸ばすことはできない。装置型産業であるということは事業収入の上限はあらかじめ決められている。入場料金×販売可能客席数である。でありながら、不特定多数に向けてのプロモーションに予算の多くを割くというのは、明らかに経営的な矛盾である。一か八かの博打のようなものである。大手広告代理店がプロジェクトの一端を担っていたり、キー局のテレビ局が仕掛けているにもかかわらず、そのような不確実性にみちた案件に大きな予算をかけることに、私は驚きを禁じえない。まさに「集客」の発想であり、失敗すれば無料券をばらまく「動員」まであと一歩の考え方である。効率的な販売を意味するSellingにもなっていない。むろんSellingとMarketingも別物であることは言うまでもないが、これは後述することにする。

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