「創客の劇場経営 ― 人間を中心に据えるマーケティング」

第七章 High-touch Marketingが「創客」を進める。

コミュニケーションは、話す方が主導するように思われがちだが、聞く方がその成立に大きく関与している。コミュニケーションは、双方向でありながらも、「共感」することで成立する人間関係の作法だからだ。マーケティングにも同様のことが言える。受け手が「共感」しないことにはマーケティングは成り立たない。

「情報」を無造作に投げ出しているチラシ

その原理を無視したチラシを最近は良く見かける。「情報」を無造作に投げ出しているようなチラシである。催し物がある、ということと、その日時、場所さえ伝わればよいような無機質なチラシである。むろん、チラシという媒体には限界性がある。どんなに素晴らしいチラシができたとしても、それに触れた人間の中で広告に注意を払うのは50パーセント以下、広告に触れた人間の中で見出しが何を訴えていたか思い出せるのは30パーセント、広告主の団体の名前を覚えているのは25パーセント、本文の広告文を読む人は10パーセント以下、と言われている。実質的な観客となるヒット率は、0.2%前後という。1000枚のチラシが劇場に招き入れるのは2人か、多くても3人ということだ。

チラシをコミュニケーション・ツールとして扱っているか

いささか絶望的な数字だが、それでもチラシには人間の「リマインダー機能」という、思い出させる能力を刺激して、「これは何だろう?」という疑問を生じさせ、より注意を傾けるという行動を起こさせる。この一連の受け手のプロセスを実現するには、リマインダーを刺激して印象に残るデザインは大事になってくるし、「何だろう?」という受け手の能動性に応える強いメッセージが大切になってくる。つまり、チラシを媒介としたコミュニケーションを、いかに絶望的な数字であろうと、仕組まなければ何も起こらない。仕組まれるのは受け手を「共感」へいざなうアップ・トゥ・デートなメッセージである。心に働きかける、受け手の身になって仕組まれたメッセージである。チラシをコミュニケーション・ツールと扱っているか、あるいはインフォメーション・ツールとして位置づけているかで、その団体のアーツマネジメントへの意識の濃淡がはっきりと窺える。

コミュニケーションとは、心が共鳴しあう状態を生み出すこと

アーツマーケティングにおいては、この「共感」がキーワードである。そして、「新しい価値」をともに生みだす「共創」も合わせてキーワードとなる。「共創」とは、互いに物語を編み出すことで「価値」を創り出す想像力と創造力に依拠した行為である。そうして行動に人を向かわせるには、激しく心を揺さぶらないまでも、たとえ微かにでも心を動かさなければならない。コミュニケーションとは、心が共鳴しあう状態を生み出すことに他ならない。心が共鳴する状態で行われる双方向のコミュニケーションで「共感」と「共創」が進行する関係づくりを、私はハイタッチ・マーケティングと呼んでいる。
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