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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

第一章いまこそアーツマーケティングの導入を/創客へシフトせよ (1)

舞台芸術の競争相手

「認識の困難性」を克服するには付加価値によってブランディングを戦略的に進める必要があるが、それは後述するとして、ここでは舞台芸術や劇場・ホールが余暇時間の品質において競争しなければならない相手について考えてみよう。

アーツ団体が理解しなければならないのは、自分たちの競争相手が誰かということと、競争で優位に立つために自分たちはどんなことを提供できるのかということ。マネージャーたちは、自分たちの強みと弱みを理解する必要があるし、最良の戦略を決定する過程においては、できるだけ多くの競争情報を集めるべきである。(フィリップ・コトラー&ジョアン・シェフ・バーンスタイン『Standing Room Only』)

舞台芸術団体や劇場・ホールにとって競争相手はおよそ無限大に存在する。映画、テレビはむろんのこと、ディズニーランドをはじめとする複合的なサービス施設をもつリゾート・パーク、スポーツ観戦、多様なオプションを備えて魅力ある経験を提供する旅行代理店、付加価値の高いサービスとグルメを満足させる料理を用意するブランド力のある有名料理店など、挙げれば切りがない。

人々が選べるエンタテインメントのオプションがどんどん増えているという事実こそが、非営利アーツ団体の直面する最強の競争勢力と言えるだろう。アーツ団体が挑戦するべき課題は、他からは得られない利益、自分たちだけが提供できる利益を特定し、広告や広報活動、教育などを通してその情報を広めることである。(『Standing Room Only』)

問題とすべきは「経験」の品質

そう考えてくると、舞台作品を1本ごとにフォーカスして制作をし、しかも舞台成果の品質のみに着目している現況はアーツマネジメントの観点からも脆弱きわまりない、戦略性の欠如した経営といえる。まず問題とすべきは「経験」の品質であり、そのコミュニケーションの集積としてのブランディングにある。また、顧客満足度と同じ様に、期待度や習熟度によっても顧客価値は左右される。しかし、その「経験価値」を生み出すコミュニケーションの品質に着目することで、舞台芸術関係ならではの関係づくりのマーケティング作法をあぶりだせるのではないか。コミュニケーション・アートとしての舞台芸術の強みはそこにある。そのフェイズでなら他の業態とのあいだで競走優位を実現できる可能性があると私は考える。

「創客」の基点は顧客の「経験価値」

日本の芸術団体や劇場・ホールの側は、いままで目の前の公演に客を集めようと多くの労力を払って努力してきた。しかし、顧客のライフスタイルのなかに演劇やクラシックや劇場・ホールのある生活をかけがえのないものとして定着させることにはほとんど努力してこなかったのではないか。顧客の気まぐれな購買行動に任せきりだったのではないか。それを省みるという発想もなかったのではないか。直近の公演の「動員」「集客」には熱心に取り組んできたが、進化する仕組みの中に顧客を位置づける「創客」は手付かずのままではなかったか。「創客」の基点である顧客の「経験価値」にどれだけの配慮をしてきただろうか。営業(selling)には熱心に取り組んできたが、関係づくりや環境づくり(marketing)には一顧だにしてこなかったのではないか。いま一度、来し方を振り返り、私たちの仕事の品質を、さらに私たちのマネジメントとマーケティングは時代の変化に見合った進化を着実にして来ているかを検証してみる必要がある。


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