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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

最終章 公共文化施設の未来をデザインする。(1)

公共劇場・ホールや美術館、スポーツ施設などは、あくまでも政策目的を達成するための「手段」であって、むろん設置自体が政策目的では決してありません。そうあってはいけないと思います。地域の社会福祉政策目的、コミュニティの問題解決のための「政策手段」として設置されるべきだと思っています。文化政策はむろんのことですが、それだけではなく、教育政策や福祉政策、医療政策などの、いわば社会福祉政策の「手段」としての公共劇場であり、公共ホールであるべきだと考えるのです。
(館長エッセイ2008.8.8『公共文化施設は社会政策を実現するための手段でなければ』)

指定管理者制度の陥穽を検証する。

2003年6月に地方自治法の一部改正がおこなわれ、「公の施設」の管理・運営について、これまでの「管理委託制度」に代わり「指定管理者制度」という新しい制度が導入されたことは衆知のことである。これは、いわゆる小泉改革の一環で、「民にできることは民に」、「官から民へ」の掛け声で導入された制度である。民間企業の「公の施設」への参入を可能にしたことに大きな特徴のある制度であり、「民がになう公共」という理念に裏打ちされて、「効率的な施設運営」と「住民サービスの質的向上」を企図してはいるが、自治体財政の逼迫を背景に、前者のみがブロウ・アップされているのが現状である。「住民サービスの質的向上」は、置き去りにされている感は否めない。
 むろん、従前の公共文化施設の運営が、多くの場合に非効率であったことを否定するものではない。「経営=アーツマネジメント」という概念がまったくない施設がほとんどであった。毎年、全国公立文化施設協議会による「アートマネジメント研修会」が開催されてはいるが、カリキュラム的にも疑問点があり、実効性はきわめて薄いと言って差し支えないだろう。「ハコモノ」と言われても致し方ないと思わせる実態だったことは認めざるを得ない。したがって、筆者としては、制度自体は必ずしも改悪ではないと考えてはいる。公共文化施設が「経営感覚」を持つためのインセンティブにはなる、と考えている。

 だが、だからと言って、指定管理者制度の根幹にある精神が現状では健全に機能しているとも言い難い。前述したように、「効率的な施設運営=予算の大幅削減」が制度導入の前提のように認識され、また「原則公募」という虚構がまかり通ることによって、従来からの財団法人が萎縮してしまい「住民サービスの質的向上」どころではないという事態を惹き起こしている。これでは「民間ノウハウの導入」など単なる画餅であり、それにより現在するはずだった「住民サービスの質的向上」は巧妙に仕組まれたレトリックにすぎなくなっている。
「原則公募」の言説の根拠となっているのは、総務省自治行政局長の「地方自治法の一部を改正する法律の公布について」(通知 平成15年7月17日総行行第87号) である。前記したが再度一部引用して確認したい。

今般の改正は、多様化する住民ニーズにより効果的、効率的に対応するため、公の施設の管理に民間の活力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の削減等を図ることを目的とするものであり、下記の点に留意の上、公の施設の適正な管理に努められたいこと。

「民間の活力を活用しつつ、住民サービスの向上を図るとともに、経費の削減等を図ることを目的とするもの」のくだりに、「官から民へ」や「民が優れて官は非効率」のバイアスがかかっていることは明白である。

また、指定管理者制度の研究者でさえ「原則公募」と公言しているが、「通知」には「複数の申請者に事業計画を提出させること」が「望ましい」と書いてあるに過ぎない。さらに既述したように、2000年の地方分権一括法によって、地方自治法の第150条と151条が削除されて中央政府の包括的な指揮監督権は廃止されている。「<地方分権一括法>の施行により、中央省庁からの<通達>を根拠にした統制はなくなり、地方自治体の主体的な判断が尊重されるようになった」のである。以上のように2000年の「地方分権一括法」で、「通達」による行政指導は効力を持たないことが確認されているにもかかわらず、自治体側が、上記の総務省自治行政局長の「通知」を地域分権一括法以前の指揮監督権の効力を持った「通達」として誤解しているのである。
 「公募」、「非公募」についてはひとまずおいて、ここでは公共文化施設と場所貸しを専らとする駐車場などを包括する地方自治法第244条「公の施設」に一括して指定管理者制度を被せることの是非を問いたい。
 公共文化施設は、言うまでもなく、人間の関係の集積や経年による経験集積や技術集積が重要な経営資源である。すなわち関係資本(無形資産)を抜いては健全な経営は考えられない類の施設である。関係資本の存在しない公共文化施設は単なるハコでしかない。健全な経営とは、当該地域の住民の「文化権」を担保し、広義の福祉に寄与するサービスの質を高度化することを企図できる、ということにほかならない。「経営」という概念を持っていない施設は論外であるが、本来の地域における公共文化施設は前記のような使命を果たすべき社会的存在でなければならない。つまり、私の持論である「社会機関としての公共文化施設」であるべきと考える。ミッションはそこから導かれる、地域社会の存在価値の明文化でなければならない。「経営」とは、ミッションによって導かれる「新しい価値」を創出するための資源配分の手法である。

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