公共、民間を問わず文化施設は社会的機関としての存立理由をもってしかるべきだと考えている。言うまでもなく、観客や聴衆を増やすことは大きな使命のひとつである。が、それだけで事足りるとは私は考えない。とりわけ、地域の公共文化施設には、住民のクォリティ・オプ・ライフに関わる責務があると思っている。この際の「ライフ」は、「いのち」である。決して「生活水準の向上」を意味するQOLではない。「いのちの質」の健全化であり、向上であり、当該住民が、住んでいて良かったと思える生活環境を創りだすことに、地域の公共文化施設は深く関わるべきであるのだ。それが、住民からの付託に応える、ということである。文化芸術の愛好者のディマンドに応えるだけでは不十分なのである。公共文化施設は、そのための「装置」としての社会的機能を持たなければならない。
企業は、その存立する地域社会の環境形成に一定程度の責任を持っている。社会的責任経営(CSR)の全体像には、もっと広範な意味合いもあるが、そのひとつとして存立する地域社会にいかに貢献するかも問われることになる。
欧州に社会的責任経営の視察団を派遣した(社)経済同友会の報告書には以下のような文言がある。
(1)CSRは単なる利益の社会還元ではない。企業と社会の相乗作用によって、両者の持続可能な発展を共に実現するための戦略と考えられている。
(2)マネジメントの一部として経営の中核に位置付けられており、CSR担当役員を置いている企業が多く見受けられた。CSRとはコストではなく、5年後の人材の獲得、5年後に市場で支持されているようなブランドを獲得するための「将来への投資」と考えられている。
(3)日本企業・経済界としても日本型の「社会的責任経営」戦略を企業の側からイニシアチブとして提唱し、日本の企業と社会の長期的発展を目指すための第一歩を踏み出すべきである。 また、CSRは景気回復にも貢献すると言われています。例えば、株価が下がってきていますが、その原因のひとつが相次ぐ企業不祥事だったわけで、CSRにきちんと取り組むことで企業不祥事を減らし、引いては株式市場の負の連鎖を断ち切るというわけです。そして環境や従業員に配慮することで新たな設備投資や雇用を創出することにもなります。 (太字筆者)
このような企業の経営認識は、企業によるCSR活動と地域社会の健全化を重要な使命とする公共文化施設の戦略的コラボレーションや、より高度な戦略的アライアンスへ向かう豊かな土壌を作り出すだろう。
この連携によってもたらされるのは、企業にとっては、地域に密着したイメージと地域社会からの支持、自社を誇りとする従業員満足、文化的な企業イメージによって創造的な優秀人材が集る雇用環境の向上などがあり、地域文化施設の指定管理者にとっては、経営資源の拡張、機会の創出、社会的評価の高度化とブランディング、将来的な指定管理者選定のみならず、様々な局面での競走優位性、社会機関としての認知など、両者にWIN-WINの関係をもたらす。この先に、文化と産業の好ましい循環というグランド・デザインとしての「創造都市」が構想されると言えよう。可児市文化創造センターでは、商工会議所や地元企業とのコラボレーションを進めている。その先に「アーラビジネス倶楽部」を構想し、そこからの資金提供をはじめとする協働によって、地域社会への貢献をしようと考えている。市商工観光課との協議は、むろん「創造都市・可児」を構想するものである。
以下に、『Standing Room Only』に述べられているアーツと企業と地域社会の相互の好影響についてのコトラーの言を引用しておく。
多くの企業は、アーツ団体と協力し合うことによって自分たちの戦略的ゴールを果たせると気づき始めている。ビジネスを展開しているコミュニティに対して関与と支援をすることは、その会社の事業と採算性を向上させる。繁栄している文化コミュニティは、高い教育を受けた才能溢れる人々を引きつけて繋ぎ止めておくのに役立つし、顧客、クライアント、従業員の中に企業への信用<goodwill>をプロモートするのにも役立つ。アーツを支援することにより、会社は自分たちの企業イメージに人間味を加えることができる。




