可児市文化創造センター(Kani public arts center ala)

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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

第四章 戦略的アーツマーケティングと顧客志向経営の実践-alaを事例として(1)

徹底した顧客志向から「次の一手」が見えてくる。

 可児市文化創造センター(ala)の館長兼劇場総監督に就任してすぐに感じたのは、すべてのお客さまがチケットを劇場のインフォメーション・デスクに買い求めに来ていることと、それに何の疑問を感じていない事務所の空気の不思議さだった。地域の公共ホールは多くの場合、市内の本屋やCD店、スーパーなどにチケット販売窓口を委託しているものだが、alaにはそれがない。お客さまは皆さん車で劇場までいらしてチケットを求めている。これはお客さまに過大な負荷をかけているということである。
 すべてをお客さまの立場にたって組み立てなおす、というのが最初の一年間の仕事であった。むろん、職員の意識をも含めてである。
 従来の生産者主権(製品志向)のマーケッターは、戦略計画を立案する際に、1961年にアメリカのマーケティング学者ジェローム・マッカーシーによって提唱されたいわゆる4Pに立脚して考えてきた。すなわち、製品(Product)、価格(Price)、販売チャネル(Place)、プロモーション(Promotion)である。しかし、前章末に指摘したように顧客は自身が何を求めているか確信を持てずに浮遊しているのである。また、舞台芸術という対面型のサービスの場合、顧客が受け取る利得は彼自身のうちに発生する「経験」であり、舞台作品・演奏(=Product)それ自体に顧客価値が存在しているわけではない。
一般的に、4Pでマーケティング・ミックスを考える時代が終わった理由として、経済構造が変わり、物の量と種類が増え、メーカー主導の販売活動が終わりをつげ、顧客が自身の価値判断で製品やサービス選ぶ時代になったことがあげられている。特にインターネットの登場は購買行動において、顧客が選ぶというアクションに拍車をかけた、と言われているが、実は舞台芸術は共同生産性を前提としているProductあり、本来的に4Pでの思考とは乖離し、矛盾していると言える。
産業として成立するための商品=「出来事」は顧客の中でしか起きない。それも一様に、ではない。観客の数だけ「物語」が生まれ(共創)、その「物語」が消費される(共感)。舞台芸術や劇場・ホールのマーケティングは構造的に4Pには不適なのである。にもかかわらず、従来は4Pの作品志向、一方向性のマス・マーケティング的なプロモーション志向などが、芸術団体や劇場・ホールの主導的な経営戦略やマーケティング戦略においては当然と考えられていたと言える。21世紀の顧客は、企業や団体からゲットされるのではなく、自分の手でサービスや商品をゲットするプロシューマーとしての顧客なのである。ましてや舞台芸術の顧客価値のあり様を考え合わせると、4P志向がいかに舞台芸術に不適正かを理解できるだろう。
セオドア・レビットは、「産業とは製品を製造するプロセスではなく、顧客に満足をもたらすプロセスである、という考え方を理解することは、すべてのビジネスマンにとってとても重要なことである」と述べている。したがって、顧客がどのような価値を受け取りたいのかという受取価値をベースにすえて戦略と戦術を策定する必要がある。顧客の獲得する利得構造からも、舞台芸術や劇場・ホールのマーケティングは徹底した顧客価値志向で考えられるべきではないか。今後は、4Cのマーケティング戦略にシフトしなければならないのではないか。顧客価値(Customer value)、顧客コスト(Customer costs)、利便性(Convenience)、コミュニケーション(Communication)の4Cである。
製品(Product=作品)価値志向から、顧客が受け取る、あるいは受け取りたい受取価値(Customer value)志向へ、価格(Price=チケット料金のみの負担コスト)から顧客コスト(Customer costs=経済的のみならず、時間消費、他の余暇の過ごし方を検索して検討する労力、アクセスにかかるストレスなど顧客が支払うすべての負担)へ、販売チャネル(Place=売るための最適流通経路)から利便性(Convenience=欲しい時にすぐに入手でき、負担が少ない)へ、プロモーション(Promotion=一方向性の情報展開)からコミュニケーション(Communication=双方向性のメディアによる意思疎通と価値の交換)へと転換すべきなのである。舞台芸術の特性から見ても4Cにシフトすることが急務と考えられる。
上記の考えに従って、アーラのインフォメーション・デスクに来なければチケットが購入できない、というお客さまの負荷を回避するために、インターネット・チケッティングの導入を決めたのは言うまでもない。

いささか長くなるが『Standing Room Only』の以下の一文を引用しておきたい。

マーケティングのプランニングが常に団体から始まっており、団体が何を提供したいか、から始まっていた点である。しかし、消費者は以前より洗練され、洞察力を得てきた。そうなると消費者は以前よりも注意深く製品を選ぶようになり、特注製品により敏感に反応するようになる。つまり、市場が買わせようとしているものを何でも買う、という気持ちは減少したのだ。マーケターは、いつどのような取引を行うかを最終的に決めるのは消費者であってマーケターではない、と気付き始めた。マーケティングの方程式を逆向きにしなければいけないと認識したのだ。これまでのマーケターは、団体が提供するものに合わせて消費者を変えようとしてきた。しかし、顧客がどの製品を選んで買うかによって団体の成功が決まるのだから、真の主権を握っているのは顧客の方なのだ。結果として、マーケティングのプランニングは、団体側ではなく顧客側から考え始めなければならない。

当然のことではあるが、観客や聴衆は舞台芸術のために存在するのではない。観客や聴衆の生活課題の解決のために舞台芸術や劇場・ホールがあることを忘れてはいけない。


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