「健全なコミュニティ形成」や「地域産業の創造性」に貢献するマーケティングをするということは、芸術団体や劇場・ホールにとっては地域社会との関係づくりの作法であり、社会貢献型マーケティング(CRM : Cause Related Marketing)という近年とみに注目されているマーケティング手法に位置づけられる。
それは団体や施設の各々がコミュニティに供給するサービスによって、その供給源である団体・施設のブランディングを飛躍的に推進するという、経営上きわめて重要な役割を果たす。これは、社会的責任経営(CSR : Corporate Social Responsibility)の一環に位置づけられる。
コーズ・リレイテッド・マーケティングの「コーズ(cause)」とは、「主張、理念、目標、信念、運動」という意味で、企業や団体にとってはさまざまなフェイズでの活動根拠であり、社会的使命(ミッション)や社会的意義に近いものと考えて良いだろう。「リレイテッド(related)」は言うまでもなく「関連した」という意味で、したがって、コーズ・リレイテッド・マーケティングとは、企業・団体の経営活動の社会的存立根拠に関連した社会貢献を、集積した技術や機能、製品、人材を使って行う活動のことで、顧客との信頼関係を密接なものとする経営手法である。CRMは、企業・団体と顧客、さらには運動体である第三者的な組織(NPO法人など)がともに協働するプログラムであり、三者がそれぞれの立場で社会に関わることでそれぞれにメリットとなる、いわばソーシャル・マーケティングに分類されるマーケティングである。その活動によって社会的信頼、すなわち企業・団体や商品のブランディングを促そうとする経営方策のひとつである。
社会貢献型マーケティング(CRM)とブランディング。
芸術的な製品はユニークなビジョンから生み出されるものではあるが、社会的に孤立状態
であっては、創造性 すら生まれない。すべてのアーチストは、自分たちが生きている世界に対して敏感に反応する。
(フィリップ・コトラー ジョアン・シェフ・バーンスタイン『Standing Room Only』)
アーツは、それ自体に社会的諸問題を反映しており、また将来予測できる社会不安に対処するポテンシャルを内包している。それは、たとえば舞台芸術の創造活動における人間相互の関わり合いと、それを鑑賞するという舞台との相互行為が、ともに人間的な共感をベースとして影響を与え合うサービスだからである。ここでは「共感」と「共創」がキーワードとなる。他のサービス商品との際立った違いはここにあると言って良いだろう。したがって、舞台芸術の成果は、それ自体が芸術家や創造団体、劇場・ホールのコーズ・リレイテッド・アクティビティのアウトカムという性格を色濃く持っており、「共感性」と「共創性」がとりわけて際立った社会的価値財と言える。
つまり、舞台芸術を含むアーツは、コーズ・リレイテッド・ブランディングにきわめてマッチした商品特性を持っているのだ。この章の冒頭に引用しているコトラーの『ソーシャル・マーケティング 行動変革のための戦略』日本語版への序文は、人々の悪しき習慣や慣習、行動や行為に変化をもたらそうとする、彼自身が最初に提唱した「ソーシャル・マーケティング」について彼がある種の感慨をこめて述べているのだが、それは、そのままコーズ・リレイテッド・マーケティングの定義に演繹できる。
「マーケティング」という言葉を、「販売を促進して利益をあげること」と理解している向きは、ここで立ち止まってしまうだろう。もう一度言おう、マーケティングとは「新しい価値」を生むことである。ソーシャル・マーケティングの成果もまた、「新しい価値」の生成である。
それが悪しき慣習から人々が逃れる梃子になり、深い感動や共感、達成感、自己実現による新しい関係や自己認識をもたらして新しい価値を生成し、行動に変化をもたらす。コーズ・リレイテッド・マーケティングは、結果として、それがブランディングに寄与して企業や団体への社会的信頼形成に結びつく経営手法である。いわば、社会との関係づくりの作法といえる。
コーズ・リレイテッド・マーケティングと従業員満足。
コーズ・リレイテッド・マーケティング(CRM)の嚆矢は、アメリカン・エキスプレスが、1981年にサンフランシスコ地区の芸術振興というコーズに対して、カードが使用される度に2セントを寄付するキャンペーンを行ったことだ。このキャンペーンに対して、初めて「コーズ・リレイテッド・マーケティング」という言葉が用いられる。このキャンペーンでは、3カ月の間に10万ドルの寄付が集まった。
続いて、同社は1983年に「自由の女神修繕キャンペーン」によって、コーズ・リレイテッド・マーケティングを更に全米規模に拡大することになる。その結果、コーズ・リレイテッド・マーケティングという言葉が広く市民権を得ることになった。同社は自由の女神修復資金を、同社のカード利用ごとに毎回1セント寄付するキャンペーンによって集めることを企図した。このキャンペーンは、同社の新規カード保有者を45%増加させ、カード利用額を28%上昇させたという。なんと170万ドルという資金規模となった。最近のCRMの事例としては、アップル社の「赤いiPod」が購入されると、金額の一部を世界エイズ・結核・マラリア対策基金に寄付する「(RED)プロジェクト」が有名である。




