日本ではじめての、可児市文化創造センター(ala)と、新日本フィルハーモニー交響楽団、劇団文学座との「地域拠点契約(Regional Stronghold Agreement)」の締結を「ブルー・オーシャン創造」の一環として私は位置づけている。
むろん、本来の施設機能から考えれば、優れた音楽と演劇、あるいはダンスのカンパニーを付属させるのが理想である。そうであれば、通年常時でコミュニティへの文化的なサービスや様々な問題解決に対応することが出来る。しかし、カンパニーを付属させて維持しようとすれば最低でも年間およそ8億円程度の経常経費(固定費)が必要となり、この考えは今日の財政事情では現実的ではない。このどれかひとつを抱えるだけで3億円前後の予算は必要となるだろう。であるなら、必要なプログラムを必要に応じて優先的に提供してもらえる契約関係を芸術団体と結べば、付属のオーケストラやカンパニーを持っているのに準じるサービスの多様性と品質を担保できるのではないか、というのがこの地域拠点契約の発想の原点である。
また、イングリッシュ・ツアリング・カンパニーの事例も参考になった。英国北西部チェシャー州のクルーは人口約6万7千人のまちで、ロールスロイスの本社工場があることで有名だが、ガイドブックにもほとんど載っていないような町である。その町の中心にあるライシャム劇場は伝統的な建築物だが、巡回してくるカンパニーを待ち受けるだけのレシービング・シアターで、まちの人々も年に何回が訪れる巡回型の芸術団体をひたすら待っているだけであった。ところが、町の人々とカンパニー側の思惑が一致して、ナショナル・ツアーの初日をクルーのライシャム劇場で迎えるという協定が組まれることになる。イングリッシュ・ツアリング・カンパニーはロンドンで稽古をして、初日の二週間程度前になるとクルーにやってくる。初日の幕を開ける準備とリハーサルをしながら、上演作品に関連したアウトリーチやワークショップなどのプログラムをまちの人々や学校に提供する。町はにわかに活気づくという。
可児市文化創造センター(ala)の、新日本フィルハーモニー交響楽団と劇団文学座との「地域拠点契約」も、付属オーケストラや付属劇団を持てない財政事情という外部環境のなかで選択された次善策であり、代替策と言える。
公演、演奏会のほか、市民へのワークショップ、セミナーの機会の提供、教育機関、福祉機関、医療機関等へのアウトリーチ・プログラムの実施などの、すべての活動と費用を包括した三年限の契約である。むろん、その更新は妨げない。この二つの芸施術団体はともに高い芸術的水準をもち、あわせて年間300から400の、多様な人々へのワークショップやアウトリーチ・プログラムを供給している。その実績と経験と技術集積が「地域拠点」という特殊性と合致したのだ。
この「地域拠点契約」で実施される事業の数々が、地域市民との関係づくりに寄与することはむろんのこと、ナショナル・ブランド化のための果実となることもあわせて期待されている。「地域拠点契約」はその視点から評価すれば、まぎれもなく可児市文化創造センター(ala)の「ブルー・オーシャン創造」のための戦略の一環である。また、ブルーオーシャンを創造する過程で獲得する「ブランド」が、組織内の活性化を生み出すことも付け加えておきたい。内部市場(Internal Markets)への影響力である。ブランディングのプロセスは、組織内コミュニケーションを活発にして、職員の革新性と市民や地域への奉仕意欲、仕事への誇りを高めるインターナル・マーケティングにも大きな影響をもたらすことになる。
人材市場からの優秀な才能の供給が容易になることも「ブランド」効果のひとつである。採用市場(Recruitment Markets)への働きかけにもなるのである。それは、「ブランド」の持っている革新性と挑戦性に共感した有能な新しい人材がおのずと集まるからである。挑戦的な組織のビジョンに共鳴するチャレンジナブルな人間が集まってくる。当然だが、組織は著しく活性化するだろう。
より豊かな社会をつくることに、あるいはすべての人間にとって生きやすい世界をつくることに、いかに「挑戦的」であるか、「革新的」であるか、そしてそのための「新しい価値」に貪欲であるか、これらはまた芸術文化に関与する人間の「資格」であり、「条件」でもある。そういう人間の集合体である組織・団体だけが確かな「ブランド」をもつと、私は考えている。




