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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

第三章 経験価値マーケティングとブランディング(2)

ブランディング戦略は人間観の表明と顧客とのコミットメント。

ブランディング戦略は、多様な顧客共感を経営戦略に従って統合して、競合他社との差別化をはかるプロセスである。と同時に、提供されるサービス品質を保障して認識の困難性を軽減し、鑑賞環境の質を向上させるための顧客価値に関わる戦略的プロセスでもある。したがって、ブランディングは顧客の受容を促進するための経営戦略である。ブランドが重要な無形資産であり、経営資源であることは言を待たない。
 また、地域劇場・ホールの場合には、商圏という比較的狭い範囲でのブランディング戦略と、外部からの評価を呼び込んで成立させることを企図するナショナル・ブランドを編み合わせなければならないという特殊性がある。このナショナル・ブランド化は、商圏のブランド力にフィードバックされてブランド価値向上の循環をスパイラル状に起こす効果がある。それぞれの手法は異なるが、出発点は同じであり、別々のルートで進捗して、最終的には統合されて揺るぎないブランド価値となる。

さて、ここであらためて「ブランド」の効用とその構造を考えてみよう。「ブランド」は、第二章で述べたように、舞台芸術の共同生産性からくる認識の困難性を克服する重要な役割を果たす無形資産である。チケットを購入する意思決定にも、また、あらかじめ感じる顧客の期待値にも大きな影響力を持つ。さらには第一章で記述したような時間の希少性と、それと反比例して多種多様になった選択肢が、一層に時間の希少性を際立て余暇時間の過ごし方へ価値判断に厳しい選択基準が設けられる、というメガトレンドにも耐えうる力ともなる。

B to C(対顧客)のみならず、B to B(対業者)においても「ブランド」の力は、交渉優位性や選定優位性を存分に発揮できる背景となる。また、地域の公共文化施設においては、政府自治体との折衝力や協働性に影響を与えるばかりか、住民へのメッセージ発信の信頼性を高める。つまり、行ってみたい、住んでよかった、住んでみたいという地域の活性化に大きく寄与する源泉ともなるのだ。
あわせて、ブランディングの進捗は、財政困難、指定管理者制度、新公益法人改革という地域の公の施設を将来にわたって包囲する荒波のなかにあって、その設置意義を厳しく問われている公共文化施設の存立根拠を明確な輪郭で描き切ることになる。いわば顧客との「約束」を果たし、地域社会との「契約」の履行を目指すのがブランディング戦略の一側面なのである。

ブルー・オーシャン創造と「ブランド」の役割。

地域の公共文化施設は、はからずも市場に競合他社のほとんどいない圏域を商圏としている場合が多く、仮に競合する施設があったとしても、ある意味ではW・チャン・キムとレネ・モボルニュ(ともに欧州経営大学院教授)により2005年に提唱された「ブルー・オーシャン」を地理環境的には成立させているといえるのかも知れない。
狭義の市場ではそう言えるが、広義に考えると地域の公共文化施設が置かれている外部環境は、指定管理者制度などの要因によって血の海である「レッド・オーシャン」そのものである。それを克服する手立てはブランド説得力であり、新しい「市場」の創造以外にはない。既成の「市場」での優位性を獲得しようと企図する「戦略」ではなく、私たちが着手すべきは、まったく新しい外部環境=広義の「市場」を創造する仕事(task)と考えるべきである。広義の市場とは、ナショナル・ブランド化による創客にほかならない。指定管理者としての磐石な存立基盤を獲得するにはそれ以外に方策はない。


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