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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

第二章 最新のアーツマーケティング/その理論的根拠。(4)

前回は、顧客にとって最も望ましい経験価値を体験してもらうための「環境」を提供する手段として、劇場の多資源化を紹介した。今回はまず、劇場を中心にまち全体で多資源化をはたしている事例を紹介する。

まちが「劇場」―オレゴン・シェイクスピア・フェスティバル。

米国・オレゴン州のアッシュランド(人口約2万人)にあるオレゴン・シェイクスピア・フェスティバル(OSF)は、エリザベザン・ステージ(アレン・パピリオン)、アンガス・ボーマー劇場、ニューシアターの大中小の三つの劇場を持った事業規模約22億円のNPO経営の劇場で、ここは周辺のすべてのレストランと連携して飲食サービスの情報を提供している。レストランは非常に数が多く、また多彩な特徴を持っていて、個性的な料理を提供している。終演時間が遅いので食事をしてから観劇しようと好みのレストランに予約の電話を入れると、「グリーンショーをご覧になりますか」と電話口で質問してくる。

「グリーンショー」とは、劇場群に取り囲まれた傾斜のある芝生広場で行われる舞台開演前の無料のショーのことだ。ダンスや音楽演奏が仮設ステージで6時半から45分ほど上演される。それが終わると、近隣の町民や観光客は三々五々に帰路に着き、チケット予約をした人々は、その夜観劇するそれぞれの劇場に入っていく仕組みとなっている。「グリーンショーは観たいですね」とレストランのオペレーターに答えると、「それでは5時45分までにはおいでください」と時間を指定してくる。劇場とレストランのあいだには経済的な取り決めはないらしい。自然発生的に始まった連携ということだ。
いわば人口2万人のアシュランドという小さな町全体が、年間40万人の観客にとって「劇場」のように機能しているのだ。OSFのウェブサイトhttp://www.osfashland.org/index.aspx‘Your Visit’というページには、チケット購入はもちろんだが、宿泊施設、レストランなどの食事、周辺の観光地や美術館へのオプショナルツアー、ワイナリー見学、温泉、ショッピング、子供向けアーツサービス、託児サービスなど20種以上の観劇以外の劇場周辺のサービスを予約できる配慮がなされている。ちょっとしたショーを楽しめるミュージックシアターまで案内されている。

ここでちょっとオレゴン・シェイクスピア・フェスティバル(OSF)を概観してみようと思う。年間約40万人の観客のうち85%がリピーターで新規顧客は15%に過ぎない。リピーターのうちの28%が20年以上定期的にOSFを訪れている優良顧客だという。OSFの隆盛の裏には、このような優良顧客を多く生み出し、継続的な観客として維持しているマネジメントがある。

ポートランドの南約300マイル(480キロ)、サンフランシスコの北350マイル(560キロ)にある南オレゴンの人口2万人小さな町である以上、当然のことだが、遠隔地からの訪問客がおよそ88%にもなる。その他が車で1時間半以内からの顧客である。遠隔地からの顧客の平均滞在日数は3.2日で、平均観劇回数は3.5回、11の演目を年間791回上演するレパートリー・システムをとっている。このレパートリー・システムの採用もまた、アシュランドという「田舎町」で劇場ビジネスを成功させた要諦のひとつである。OSFに観劇に来る遠隔地からの顧客は、観劇料以外に1人平均一日あたり$91.08の消費をしているという調査結果が出ている。ということは、アシュランドでのOSFの観客の年間消費額は$3640万強になり、これにOSFの年間予算を加えると直接経済効果としておよそ$5500万にもなる。これにオレゴン州の乗数効果指数2.9をかけると、OSFの経済的インパクトは約$1億6000万にも達する。これがOSFのマネジメントによって町全体を「劇場化」している成果である。

「遠方から観客を引き寄せるのであれば、その人達が自分の住んでいる所では得られない何物かを提供する必要があるでしょう。他の劇場と異質なニッチを創り出す必要があるでしょう。皆さんは来る人達に特殊な体験を提供する事により、より多くの人達が長距離を旅して皆さんの市や町へ積極的にやって来るよう仕掛けなければなりません」。OSFの経営面のエグゼクティブ・ディレクターであるポール・ニコルソンはこのように語っている。

カナダのオンタリオ州にあるストラットフォード・フェスティバル(SFC)も同様のビジネスモデルで、年間68万人の観客を獲得している。ここでも‘Plan Your Visit’というタグをクリックすると劇場周辺の多様なサービスに辿りつけるようになっている。http://www.stratfordfestival.ca/ また、同様に、アラバマ・シェイクスピア・フェスティバル(ASF)の‘Travel Packages’ http://www.asf.net/index.aspx でも、宿泊の案内から美術館、ダンスシアター、バレエ劇場、動物園、レストラン、カフェなどが紹介され、滞在型のフェスティバルらしく、当日から五日間の天気予報までがリンクされている。
米国西海岸のサンノゼには「アーツカード」というアライブ・アフター・ファイブ(訳注:午後五時以降の活気ある生活の意)のための仕組みがあることがフィリップ・コトラーの『How the Arts Can Prosper Through Strategic Collaborations』に報告されている。このアーツカードは、地元のパフォーミング・アーツ・グループと博物館を代表するサンノゼ・アーツ・ラウンドテーブルと地元ビジネスグループのサンノゼ・ダウンタウン・アソシエーションやレストランやエンタテイメントビジネスのオーナーたちで組成された共同事業体http://www.sjdowntown.com/bus_art.htmlによって無料発行されており、カード所持者は15のレストランすべてでVIP待遇を約束されており、食事の割引が受けられる仕組みになっている。ダウンタウンにあるクラブや映画館でも特典が受けられる。プログラム開始からの9年間で、公演の前後に食事をするアーツ観客の割合は15%から85%に増加しているという。

アーツカードはサンノゼのダウンタウンに多くの人を集めるのに成功したばかりでなく、普段は支援をせがむばかりのアーツ団体がビジネスに対して何らかの返礼をするのに役立っている。コミュニティ精神への貢献は、アーツ・グループの(地域社会への)影響力を強化することにつながる。(『How the Arts Can Prosper Through Strategic Collaborations』)


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