可児市文化創造センター(Kani public arts center ala)

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集客から創客へ☆回復の時代のアーツマーケティング

第二章 最新のアーツマーケティング/その理論的根拠。(1)

可児市文化創造センター(ala)では、今年度からウェブサイトからの申し込みに限り、公演当日の0時からハーフプライスチケットを販売している。総入場者数のおよそ7%から10%前後がハーフプライスチケット購入者という経過をたどっている。経済的な根拠もあるにはあるが、可児市文化創造センターにおけるハーフプライスチケット販売の主たる目的は、顧客の鑑賞環境=受取価値の高度化である。
この「空席対策」で有名なのが、ニューヨークのタイムズ・スクエアやロンドンのレスター・スクエアにあるハーフプライスのチケットブースである。タイムズ・スクエアにあるハーフプライス・チケットブースは、ブロードウェイの当日券を半額で委託販売するもので、歴史的名著である『舞台芸術 芸術と経済のジレンマ』の著者の一人であるウイリアム・J・ボウモルをはじめとする経済学者たちの提案よって1973年に開設されている。当初、劇場オーナーやマネージャーたちはこの考えがあまりに急進的で危険だと考えていた。しかし、これにより、何もしていなければ売れ残りとなっていたはずのチケットで新規顧客が発見でき、自由市場の論理である、価格が需要を満たす額に調整された時に購入者と販売者の双方が利益を受ける、というWIN-WINの関係の成立が例証されたのである。
私たちはお客さまの立場にたって「満員の会場は楽しく陽気なムードを作り、観客からのリアクションは経験の質を高める」(『Standing Room Only』)ことを決して忘れてはならない。

固定費比率の高い日本の特殊事情。

舞台芸術は劇場・ホールという特定の場所に多くの人間が集まってはじめて成立する表現である。このような産業特性を「労働集約型産業」という。「労働集約型産業」は、この業態に典型的な労務費(人件費)率が高いことが特徴である。ということは、あわせて一人ひとりの技術の集積度がアウトプットする製品(作品)の品質を決定するわけで、それは同時に「技術集積型産業」でもあることをも意味している。
私が舞台芸術の現場に関わっていたおよそ40年前に比べれば、機材や機構の進歩によって舞台創造は随分と合理化されてきてはいるが、それでも人海戦術で、多くの人の手に頼らなければならない作業過程は残っている。どれほど機構や機材の技術的進展があっても、合理化のできない作業部分が舞台芸術には逃れようもなくあるのだ。
他の産業は急速な技術革新で合理化されて生産コストが低減化し、それに見合うかたちで労働分配率も向上する傾向をみせるが、舞台芸術にあっては合理化がきわめて緩慢にしか進まないために生産性の伸びもさほど期待できない。ボウモルとボウエンの指摘した「コスト病」である。ベートーベンの第五交響曲『運命』は、最低70人のオーケストラで、やはり36分はかかる。同じベートーベンの弦楽四重奏を演奏するのに必要な音楽家の数は二百年前と現在とで変わっていないことをボウモルとボウエンは例示して、その「コスト病」が舞台芸術を厳しい経済的制約のなかに置き去りにしていることを証し立てた。
しかも人件費は他業種の伸びと連動しており、ボウモルとボウエンが指摘したように、労務費の上昇に事業収入が追いつかなくなる事態となる。ここに至って「装置型産業」であり「労働集約型産業」、「技術集積型産業」であることが、舞台芸術や劇場・ホールのマネジメントとマーケティングをきわめて困難にしていることが明らかになる。
あわせて、労働集約型からくる固定費比率の高止まり、とりわけ劇場・ホールを借り受けて公演をする日本の特殊事情からくる避けようのない過負担(劇場費や稽古場費)の存在が、その高止まりを一層際立たせ、さらに有期限型の公演(ロングラン・システムやレパートリー・システムではない)であることで損益分岐点を超過する売り上げ(利益の発生)をきわめて困難させるのだ。劇場・ホールを借り受けて公演をするということは、一方では、芸術団体に財政的、芸術的な柔軟性をもたらすとはいえ、海外と比較して劇場・ホールの借料の高い日本では、その負担は決して軽くはない。

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